第三十六話 招かれざる客
遅くなって申し訳ありません!
『優、優、愛しい優』
……?
優って………あ、私の、昔の名前?
『貴女と出会ってからずっと、ずっとずっとずっと貴女の事ばかり考えてしまうの。こんなに人間に興味を持つのも、好きになるのもハジメテ』
すごく長い金髪を揺らす、綺麗な女性……誰だろ、この人。
何だろう……すごく綺麗な人なんだけど……恐い。
この人の瞳が、恐い。
こんな瞳を、どこかで見たことがある気がする。
『嗚呼、焦がれる程に貴女を求めてる。早く一緒になりたい。早く、早く、はやく、ハヤク』
『ねぇ、だから……』
……あ。
思い、出した。
『早く、地獄に堕ちて?』
私を襲った女子高のルームメイト達だ!
「うわぁぁぁあ黒歴史襲来!?」
「ぴゃ!?何!?」
「え、猫!?あ、違うかなんだソラか………」
「……レイラ、寝ぼけてるの?」
なんだぁ………夢か。
「ごめーんソラ、久しぶりに悪夢見ちゃって動揺してたんだよ」
「そうなんだ。レイラって夢を見る間もなくぐっすりだもんね。でも気配には鋭いから何か近づくとすぐ起きちゃうからすごいよ」
「いや、十代目アクロイド当主がアクロイド家の男児は刺客が送りこまれても自分で退治するべしって方針があるから護衛さんたちもギリギリまで手出ししてくれないでしょ?気配に敏感じゃないと死ぬまではいかなくても怪我はするじゃん」
「あのさ、そもそもレイラ男児じゃなくない?」
「それにウィルがちょくちょく開発してる魔方陣夜な夜な作動させて気がついたら部屋が氷漬けだったなんて事もあるんだよ!?『僕の主人にはこの程度対象してもらわないと』って笑顔で言ってたし!仮にも私の従者だぜウィル!おかげで魔方陣発動に使われる微量な魔力まで過敏に反応出来るようになったよこんちくしょー!」
「基本サドなんだよあいつ」
いやーそれにしてもビックリしたよあんな夢見てさぁ。
ゲームで見た男のヤンデレも恐ろしかったけど夢で見た女性のヤンデレってのも恐いもんだなぁ。冷や汗かきすぎて気持ち悪い。
一度も見たことない人は夢に出てこないなんてどこかで聞いたことあるけど、あの人は知らないなぁ……。男はともかく、あんな綺麗な女の人見たら記憶喪失になろうとも絶対忘れないのに(真顔)
「あれ?そういえば私何で寝てたんだっけ?」
「出てる課題は終わったからってベッドに座って教科書読んでたけどいつの間にか寝てたよ。新生活でいろいろ疲れてるだろうからってそのままにしといたんだけど……恐い夢見てたんなら、起こせば良かったね……」
今は猫の姿のソラが、耳をペタンと下げて落ち込んでいる……!
超絶可愛い!いやいやそんな事言ってる場合じゃないが可愛い!
ビロードのように美しい毛並みに澄み渡った空色の瞳!べっぴんさんな猫がシュンとしてる姿!モフモフ好きには鼻血ものの愛くるしさだね!
「いやいやいやいや全然大丈夫だよ!ソラは私に気を使って寝かせててくれたんでしょ?ありがとね!というか、タオルケットかけてくれたのソラでしょ?春とはいえ冷えやすいから助かった!」
「……ほんと?」
上目遣いキタァァァァア!
「本当だって!ソラになら崖から落ちそうになって必死に掴んだ片腕を踏みにじられても許せるよ!」
「いや、それは許さなくていいかな……」
若干引かれてる気がしなくもないけど、元気になったっぽいから良かった!全力で慰めたかいあったよ!
「ところで今何時だ?」
「まだ九時半少し前くらい。もうすぐ自由時間」
「あ、勉強の時間だったのに寝ててよかったのかな……」
「見回りの先生はレイラが寝る前に来て以来来てないよ。多分、レイラみたいに一応ぱっと見何の問題もない生徒より、今まで甘やかされてきてこういう決められた行動をするのが苦手な生徒も若干ではあるけどいるらしいしね。多分そっちのか大変なんじゃない?」
「待って、今一応とかぱっと見とか私が問題児みたいな言い方……」
「否定出来る?」
「………出来ません」
最近契約竜が若干ウィルに似てきてツライ。
「というか、国内一の名門校でそんな事あるの?」
「まあここに入学出来たんだから優秀な頭脳を持ってるんだろうけど、環境が悪かったんじゃない?良くも悪くも、貴族の子供が集まるんだから」
「そうだねぇ。そういえば悪い貴族ってのは頭が固すぎる傾向があるってよく父様が言ってたな。子供っていうのは柔らかい内にある程度柔軟性のある思考ができるよう育てた方がいいと思うんだけどね。芯ってのは成長していくうちに培っていく物だろうから。最初から枠に嵌めちゃうと、成長しにくくなる」
「まあ何の型もなかったり何かしらが欠損しちゃったりするとどう成長すればいいか分からずにとんでもない成長の仕方しちゃう可能性もあるよね。ボクは後から来たから推測しかできないんだけど、ウィルだって最初のころはそうだったんじゃない?」
…………やっぱ、竜ってのは頭がいいのかなぁ。
「……うん。六歳くらいの時だったと思うから大分ましだと思うけど、あのまま放っておいたら大分いびつになってたのかもね。ウィルも、そう言ってたし」
それで、もしゲームの時のままのウィルだったら、ルリを好きなあまり、私を自殺まで追い込むのかな………。
「……でも今は違うんでしょ?ボクから見ても、ウィルはちょいちょい……いや、大分変わったとこあるけど、それでもちゃんと成長してるよ」
「……そうだね」
成長しすぎて私じゃまだ追いつけない境地に行ってるけどね……。ハハ。笑えない。
ルリと結ばれてもいいけど、相棒の座は私に残しておいてほしいな。なんて。
まあそのためにはますます強くならないとね!うん!
「さて!そろそろ自由時間だけど、ソラ、何しようか?」
「…………勉強?」
「もしくはトレーニングしか思いつかないんだよねー。一時間ってあっという間のようで結構長いもんなぁ」
「じゃあ令嬢らしく刺繍とか?」
「出来なくはないんだけど腕前はそこそこだしそんなに好きでもないんだよねぇ。それに授業にあるって聞いて練習しようと思いウィル巨大バージョンを縫ってたらウィルに道具ごと取り上げられたんだよ……リアルを追求した力作だったのに」
「一体どこにリアルな竜刺繍する貴族令嬢がいるの……」
「では、私の話し相手になってもらおうか」
「話しですか?いやいいですけどあんまりうるさいと迷惑にな……ん?」
………今、一人、多くなかったか?
私は、錆びたロボットの如くぎこちない動きでその声がした方向へと顔を向けた。
「ああ、そういえばこういう時はお決まりの台詞とやらがあるそうだな。では私も流儀に乗っかって。コホン。『来ちゃった☆テヘペロ☆』」
ぬぁぜここにいるんですか王妃さまぁぁぁあ!?
というか無表情でテヘペロとか言わないで下さい恐い!
「いやぁ、将来の従者に入学祝いを渡そうと思ってな。といっても公式に渡せばいろいろ面倒だから、こうやって潜入しているという訳さ」
「従者になる予定はありません!というかだからって潜入しないで下さい!いくら王妃様といえど不法侵入ですよ!?」
「大丈夫だ。話は学園長に通している。あいつは夫の学友で何かと融通が効くんだ。話してみたら心中はともかくすぐ了承してくれたぞ」
「………学園長大変そうですね……」
ソラ連れてきたいなんて無茶ぶりして悪かったなぁ……。でも竜って基本ずっと契約者と一緒にいるものだし仕方ないんだけどねぇ。
若い頃はさぞかし美しかっただろう学園長の頭部が心配だ。円形脱毛してなければいいけど。
「そういえばいつからいたのですか?というか何処から出てきたのですか?」
「そうだな。レイラが『ソラ、何しようか』と言っていたあたりだ。何処から来たかというと、天井裏の秘密通路からだな」
「…………」
もう何も言うまい。
そして声真似が若干ムカつくんだが……。
「………まあ来てしまったものはもうしょうがないのでいいですよ。それで、その入学祝いってのは何ですか?」
「あぁそうだったな!ちょっと待て」
そう言うと、王妃様は自らの手で運んで来たのであろう荷物を漁り始めた。
………あれ、もしかしたら私、王妃様に、ティーカップより重たい物なんて持ったことないと言っても何ら不思議ではない(世間の認識では)王妃様にわざわざ荷物運ばせたっていうとんでもない事してるように見える?傍から見ると。
うわぁぁ下手したら不敬罪でしょっぴかれるぞ!
…………あ、でも、王妃様に近しい従者の方々や陛下って日頃から振り回されてて悟りを開いてるんじゃないかってくらい達観してるから大丈夫か?それはかとなくウィルに似た感じの…………。
あれ、私も人のこと言えない?
「あぁ、これだこれ」
あ、見つかったっぽい。
王妃様が用意したっていう時点で一抹の不安は拭いきれないけど……。まあ祝いの品って言うんだからありがたく頂戴するさ。………余程の事がなければ。
って、何これ……?
「羊皮紙?ですか?これ……何が書かれてるんです?」
王妃様が取り出したのは、謎の文字が書かれた高そうな羊皮紙だった。
「うむ。あまり有り触れた物だとつまらないと思い用意した物だ」
「いえ、有り触れた物の方が嬉しかったような気がします」
「君の未来への道しるべとなるようにと、星読みのエキスパートに頼んで君を占って貰ったその結果だ」
「占いの結果、ですか……」
うん。有り触れているのかいないのかよく分からない祝いの品だね。
いや、別に嬉しくない訳じゃないんだけど…………王妃様が持ってきた物って時点でいわくつきなのは最早決定してるも同然だからさ………。
………よ、よし。考えてても始まらない。私では読めないし内容を聞かねば!
「あの、それで、結果というのはどんな物ですか……?」
「うむ。未来について言うとだな……」
未来について、言うと………?
ぁあ何だろ!?王妃様勿体振ってないで早く言って!不安すぎる!!
ん?いやでも、悲観してるような表情でもないしそこまで悪くないのでは……?
「神に呪われてるんじゃないかと思ったくらい悪いそうだ」
あ、すげえ悪かった!!
「ええええそんなにですか!?」
「あぁ。山場となるのはここ一年ほどだそうだ。その機関の行動が重要らしい。人生のターニングポイントだそうだ。まあファイト」
「軽!?え、軽くないですか!?」
王妃様あんなに熱烈に勧誘してくる割には大分淡泊ですね!?
「まあそう悲観するんじゃない。君、人脈は最高レベルでいいそうだぞ。それを有効活用し、また己も努力すれば道は開ける…………かもしれないそうだ」
かもしれない!?かも、なの!?そんなに悪いの私の未来!?
「それじゃぁ、用も済んだしそろそろ帰るよ。従者達が気付く頃だと思うしな」
「また黙って抜け出してきてたんですか……ってそうじゃなくて!そんな不安しかない事だけ言って帰らないで下さいよ!!」
まさか本気でこのまま帰るつもりなの!?止めて!不安すぎて眠れな………いや眠れはするだろうけど!
「では、達者でな!たまにこうして会いにくるぞ!」
「ちょ、ま、王妃様ぁぁぁああ!?」
こうして、王妃様は希望だけを打ち砕くダイナマイトを投下しそのまま帰っていった。
……これからの学園生活、不安しかない。
トラブルメーカーのレベルで言うと、レイラを圧倒的に上回り王妃様が断トツです。




