第三十五話 うなぎ登りのテンションは割と直ぐ叩き落とされる
この学校の寮は基本二人部屋なんだけれども、私の場合ソラがいるので学校に希望して数少ない一人部屋になっている。一人部屋は割と手狭なのでわざわざ希望する人もそういないらしく、すんなり希望が通った。
その部屋へと気持ち速足で向かい、勢いよく自室の扉を開けた。
竜がいると人に知られない事がソラを入れておく条件だったので、万が一にもばれないよう黒猫の姿になっているソラが出迎えてくれる。
「おかえりレイラ!」
「ただいまソラ!」
飛び込むように入った勢いのままに愛しの愛竜を抱き上げ、クルクルと回る。
「ねぇねぇ聞いて!私、女の子の友達が出来たんだよ!」
「え!?すごいじゃんまだ初日だよ!?正直ボク何の成果もなく落ち込むレイラをどう慰めようか割と真剣に考えてたんだけど、杞憂だったんだね!!」
「待って、そんな事考えてたの?」
まさかのカミングアウトにフィーバー状態だったテンションに冷水を浴びせられたような気持ちになったがともかく、一旦ベッドにソラを降ろした。
「ふふ、それがすっごい可愛い子で、私の好みどんぴしゃりなんだよ!あの子こそ地上に降り立った天使!エンジェル!神の使い!」
「レイラ、嬉しいのは分かるけど意味が重複してるよ」
「ああ、薔薇色の学生生活はもう目の前だよ!」
「薔薇?カミラは、「レイラは百合を咲かせる才能があるわ」って言ってたから百合じゃないの?意味はよく分からないけど」
「……カミラァァア!?純粋な家の子に何変な事吹き込んじゃってるの!?それに私は百合じゃない!」
思わぬ所で私に対する友人の評価がおかしな事になっているのに気がついてしまったがともかく、まだ冷めやらぬ興奮をソラに語った。
「それでねそれでね、その女の子がルリっていう平民の子なんだけどさ……」
「……え?」
何故か動揺した様子のソラ。あれ、私何か変な事言ったか?
「ソラ、どうかした?」
「あ、いや、何でもない……」
「……?そう?ならいいんだけど。あ、それでね、今日は記念にスペシャルデザート頼もうと思ってるんだ!今日は良い果物仕入れたらしいから楽しみ!」
「……そう、なんだ」
ん?
やっぱり明らかにソラの様子が変だ。
何故か親友達からは散々言われてる私だけど、さすがに何時も一緒にいる人の様子が違う事くらい分かる。
「ねぇソラ、本当にどうしたの?何かあった?」
「いや、大丈夫。ちょっと気になる事があっただけだから……」
「そっか……」
妙に引っ掛かるけど、本人に話す気がないんだったら、無理に聞きだす物じゃないよね。気になるけど、そっとしておこう。何かあったら話してくれるくらいには信頼関係を結べてると思うし。
「……あ、そ、そういえば今日早かったね。用事は早く終わったの?」
「ん?今日は入学式以外で特に用事は無かったよ?」
あれ、今日何かあったっけな?新入生の私に用事も何もそう無いと思うんだけど……。
首を傾げる私と同じく、ソラも首を傾げた。
「……え?今日、ウィルが少し用事あるから待っててって言われてたんだよね?ウィルは早く終わったの?」
「……………………あ」
一瞬にして血の気が引く。
「……もしかして、忘れてた?」
そのような会話をした記憶が浮上し、続いて体も震えてくる。
しまった、女友達が出来た事に浮かれて、綺麗サッパリ抜け落ちてた。
私を放っておくと何をしでかすか分からない(悲しいが自覚はある)、せめて登下校は監視させてくれと親しい人達全員にそう言われ、その役を買って出たのがウィルだった。
くれぐれも、くれぐれも勝手な行動は慎んでくれと口酸っぱく言われてたにも関わらず、すっぽかしたとバレれば確実にお説教コース決定だろう。
「い、行ってくる!」
「行ってらっしゃーい」
私は全力を尽くして走ったが、案の定待ちぼうけを食っていたウィルにツンドラだって震える極寒の視線を向けられた。
「レイラァ、僕結構待ってたんだけど。どこ行ってた?まさか寮に戻ってたなんて言わないよね?ねぇ?」
「おっしゃる通りでございます申し訳ございませんでした!平にお許しを!」
誠心誠意謝っている私を見ながら何やら少し考え始めたウィルは、何を思ったか魔法で花をいくつか出現させ、私の髪を編み込みながら飾り始めた。
あ、あり?怒らないの?
「ウィ、ウィル?何してるの?」
私の問いには答えず、黙々と私の髪を複雑な編み込みにしながら甘い香りのする色とりどりの花を織り交ぜる。というか相変わらず無駄に器用だな。さすが攻略対象。
そして私の頭がすごいゴージャスになった頃、ようやく満足のいく仕上がりになったのかウィルは手を離しご満悦な様子で息を吐いた。
「え、えっと、ウィルは結局何がしたかったの?」
結局お説教もお仕置きもないまますごく満足そうなウィルに得体の知れない不信感がわく。
どうしたんだ?明らかにこちらの失態だと精神的にクるお説教やら何やらしてストレスを発散させているウィルが私の髪を弄っただけで溜飲を下げるなんておかしいぞ……。
「ふふ。レイラ、覚えておくといいよ」
周囲を見渡し、やがて邪悪な笑みを浮かべるウィルはそう言う。
その様子に嫌な予感を覚え彼の視線を追う私の視界に、とある物が映った。
「確かに道筋にも意味はあるかもしれないけど、それらは所詮結果の前には霞む物だってね」
それは、私、いや、私の頭に飾られた花へ向かう、虫達の姿。
「いやぁぁぁぁ虫嫌だあぁぁぁあ!!」
私の最も苦手とする天敵、虫達が私の元に!!
うわ、何て手の込んだ嫌がらせを!!
花取りたいんだけど無駄に複雑に編み込まれてて中々取れない!
しかも無理矢理払うとグロい事になりかねんから下手に手出し出来ない!
これぞ八方塞がり!なんてゲスなんだウィル!!
「ウィル助けて!お願い!私、虫とだけはどうしても共存出来ないの!」
「自分で何とかしな?」
何ていい笑顔なんだ畜生!攻略対象なだけあって無駄に綺麗なのが無性にムカつく!!
「……それに以前蛇のおもちゃ投げてきたのは何処の誰?」
「悪かったとは思ってるけどそれもう謝ったじゃん!!」
あいつまだ根に持ってたの!?どんだけ駄目なんだ爬虫類!!
さすがヤンデレ予備軍!ねちっこいのは生れつきですかコノヤロー!
うやぁ!?ほっぺに蝶々がァァァ!?
「ウィルマジで助けて!お願い一個叶えるから!!」
「……何でも?」
お、食いついた!これならイケる!!
「私にでも出来る事とじゃあお願い十個的なの以外だったら何でもいいよ!バチコイ!」
「……じゃあいいかな」
ウィルは闇魔法の催眠を蝶々にかけて離れさせた。ちなみにこの魔法、だいぶ魔力を食う上効果が薄く知力が高い生物相手にはほぼ効き目がない燃費が悪すぎる魔法なんだけどウィルさん何の躊躇もなく使ったね?しかも特に疲れてもいないね?学園に入ってからますます魔法の腕を上げているようで嬉しいけど複雑だなぁ。追いつくまでまだまだ時間かかりそう。
「はぁ、助かった……」
まあとにかく、今は蝶々達から逃れた事を喜ぼう。
名も知らぬ蝶々達よ、ごめん。君達に罪はないが、私の虫嫌いは最早魂にまで刻まれているんだよ。
「さて、じゃあ報酬の件だけど」
「よっしゃ、どんとこい!元はといえばすっぽかした私が悪いし、出来る限りの事はするよ!」
ウィルはしばらく考えて、そしてこう口にした。
「休みの時とか、時間ある時でいいから髪の毛弄らせて」
………ん?髪の毛?
「レイラって手入れはしてるから髪質いいし綺麗なのに大体そのままかポニーテールにしかしてないし、もったいないと思ってたんだよ。だから今日みたいにいろいろアレンジしたい」
「はぁ、別にそのくらいいいけど……私としては不完全燃焼というか何というか、秘境にしか生えない幻の食材だとか、成長するのに何十年もかかる断崖絶壁に生える高級茸だとかをとってこいってのでも全然オッケーだったんだけどなぁ」
「仮にも主のレイラにそんなところ行かせるなんてさすがの僕でもしない。というかレイラ最近体思いっきり動かせてないから動きたいだけじゃ?」
「いや、まあ、それはそうだよ。実践練習はさすがに出来ないから筋トレやらストレッチやらは倍くらいやってるんだけど、物足りないんだよねぇ。ビッグベアーと戦いたい気分」
「割と上級の魔物だねぇいつ知った?」
「祖父様と行ったハイキングでたまたま居合わせたんだけど、祖父様その時狩った猪を解体してたから私が相手したんだよね。中々強い相手だったけど毛皮は暖かくて衣服に使えたし骨は丈夫で武器になりそうだし肉は抜群に美味しいしで三重に美味しいくまさんだった」
「上級の魔物に居合わせるハイキングって何処に行ったの!?」
さぁ、祖父様の行きつけとしか聞いてないし。
というかお願いが髪の毛のアレンジって随分謙虚だなぁ。しかも私にとって得しかないじゃん。私の黒髪って長いけどねこっ毛でウェーブがかかってるからまとめにくいんだよね。しかしウィルのアレンジはちゃんと綺麗に編み込まれてる。本当器用だな!!
さてはウィル、さっき髪の毛弄ってみてハマったな?
「まあとにかく、髪のアレンジくらいいつでもオッケーだよ。むしろ髪の毛割と邪魔になったりするから助かる」
「じゃあ、交渉成立って事で」
「でもいいの?これって私にとってのデメリットが全くないんだけど。もっと他にいいの無かった?」
「いや、ない訳じゃないんだけどね。やっぱこれ利用して手に入れるのはちょっと男としても人間としてもどうかなって思ってね」
「別にウィルが私にならともかく私がウィルに幻滅したりする事なんて何があってもないから気にしなくてもいいのに……」
「僕がレイラに幻滅する事も無いよ。いや、これは自分の矜持の問題というかね。この事に関して不正は絶対にしたくない」
何というか、以外だ。
ゲームでのウィルは、特にブラックルートでのウィルはそんな事絶対言わなそうだったのに。
「ウィルって目的の為なら手段を選ばないというか、そんな気質がある気がしてならないと思ってたんだけど……」
「まあ、レイラに拾われずにここまで来てたら、あるいはそうなってたかもしれないね」
そこまで言うとウィルはこちらを見下ろしながら優しく微笑んだ。
「こんな感じで普通に、幸せに暮らせてるのは、レイラや屋敷の皆のおかげだよ。ありがとう」
その笑顔を見たら、やっぱりウィルがブラックルートに入っても私の事を追い込んだりしないかもしれないという何の根拠もない希望を持ってしまう。
確かにゲームとは違う。私の性格もウィルの境遇も。
それでも、気をつけるに越したことはない。慢心が命取りだなんて、笑い事にもならない物語の悪役の十八番じゃないか。
ごめん。私は多分、まだ君達を完全には信用出来ない。
もちろん、出来る限り信頼はする。ここに至るまで、確かな友情と信頼を築いてきたんだから。
でも、私は死にたくない。前だって、まだまだやりたい事が沢山あったんだ。兄弟達ともっと遊びたかったし、もっと勉強したかったし、女の子の友達だって欲しかった。
死んだ後に、こんな風に後悔するなんてもう御免なんだよ。
だから、ごめん。少なくとも、ゲームの期間が終わるまでは、君達を信用する事は出来ないだろう。
だからもし、私と君達が無事に次の春を迎えられたら、その時は、ありったけの好意と誠意を見せるから。そしたらまた、友達になってね。
そして、ウィル………
君はどう考えても普通じゃねぇよ!!
いやぁ、つい最近節分が来たと思ったら、もう間もなくひな祭りですね。時が過ぎるのは早い早い。あっという間ですね。
ねこっ毛の話なんですが、ネタは友人からです。全然髪がまとまらないからなのか、基本髪は降ろしています。因みに私は特にくせっ毛という訳でも直毛という訳でもないのですが、寝癖がつきやすく取れにくいので朝はとてもイラつきますね。そして後ろに縛るだけという安定のスタイルになるわけです。あ、どうでもいい?そうですよね。
こんな更新が不定期でおっそいくせに質もそれほど良くないダメダメ小説なのに、読んで下さる方がいるなんて感激です。ブックマークが三百超えてて衝撃なんですが、これ、なろう様のバグじゃないですよね?
改めまして、読んで下さりありがとうございました。今後ともどうぞ見捨てないで下さいね。
………え?節分とひな祭りの間にチョコレートと愛のリア充祭典があったじゃないかって?何それ美味しいの?と言うので察して下さいませ。




