第三十二話 盛大にバグっている気がするんだけど
『前回のあらすじ』
俺様が紳士になっていました。
取り合えず講堂に移動して、現在入学式の最中だ。
私はダンディなおじ様風の見た目である学園長の話を半分聞き流しながら、先程の出来事を思い返していた。
オリヴァーがヒロインに出会うまでもなく更生していた事についてはまあ、いいとしよう。
私やカミラみたいなイレギュラーが存在するんだ。多少(いや、かなり?)シナリオが変わっていても不思議ではない。現に、虐げられているはずのウィルや姉を失ったショックを引きずっているはずのセシルだけど、今や主人より強くなってたり、黒い部分は腹に隠さず全開でシスコンになってたりするんだ。昔の態度を改めて紳士になるくらい、可愛いもんだろう。
問題は、イベントが行われていない事について。
オリヴァー含め複数のキャラの出会いイベントは、パラメータや好感度関係なく強制的に行われる物だ。
それが回収されてないなんて、ゲームだったらありえない。
例えるなら、桃太郎の世界なのに川から桃が流れてこないといったところだろうか。うん。
何故そのような事態になったのか。理由はいろいろ考えられる。
そして、今最も最有力な原因が浮かび上がった。
……所謂、バタフライ効果、という物では?
いやほら、特に私とか、かなり好き勝手に今まで生きてきた訳で、その影響が少なからずシナリオに影響したのではないかなー……と、ほら、私は元々シナリオを壊すべく今まで体を鍛えたり勉強頑張ったり、従者との関係も良好にしてきた訳で、その……ね?
むしろ、シナリオが変わっているんなら、私の思惑通りに行っているんじゃ………。
……いや、何か、もしそれが本当だとしたら、申し訳ない気がする。
私はあくまで、死んだりとかはしたくないだけで、ヒロインとイケメンのめくるめく愛の物語を邪魔したい訳ではないんだ。
私にあまり影響ないところでは、どうぞ好きなだけやって下さいという感じだからさ、こう、キャラの性格から違うとか、そういう根本的なところとか、今後に多大なる影響が起こりそうな事があると……邪魔してすみませんでした、みたいな。
……まあドS執事とか、シスコンとか、もう手遅れ感が否めない要素はすでにあってはいるんだけどね。
……い、いや、でも!それ以外は俺様傲慢クズ野郎がちゃんと紳士になったくらいで、むしろヒロインルリちゃんが惚れやすくなったんじゃないかな!私恋の手助けしたのではないのかな!うん!
『それでは、在校生代表の挨拶を執り行う。代表、エヴァン・アレクロフト』
「え!?まさか、エヴァン様って、あの、第二王子の!?」
「留学されているのではなかったのですか!?」
「ああ、あの輝くようなブロンド、宝石のような紫の瞳、相変わらずお美しい……。」
──ザワザワ……
……………。
……うん、もう一個あったね。
第二王子、女好きキャラの登場が、シナリオより一ヶ月早かった。
あっれぇぇぇ?何でだ?ヒロインが割と有名になった頃、留学先から帰ってきた第二王子が興味を持って会いに行くってシナリオだったんだけどなぁぁ?
……ま、まあでも、ちょっと登場が早まっただけで、特に支障はないよね!
噂が回った頃に、会いに行くだろうしね!うん!
よし、大分不安にならない事もないけど、取り合えず真面目に話を聞こう。決して思考から逃げようって思ってる訳じゃないんだからね!!
◇◆◇
「……あー、やっぱりクラス離れちゃったね、カミラ。」
「そうね。ま、仕方ないわよ。ヒロイン、セシル、貴女が揃ってるだけでも割と運がいい方だし。偶然にも、兄系キャラのルーカス・シュナイダーと同じクラスになれたのは驚いたけれど、おかげで好感度の状態とか分かりやすいし、幸運だったわ。何か分かったら知らせるから。」
「ありがとね!さっすが私の唯一の女友達にして親友!」
「そんな悲しい事をおめでたい入学式で言うんじゃないわよ。」
ふっふー、そんな事言ってるけど、ちょっと頬が赤くなってるのは見抜いてるんだぜ!
もう、可愛いなぁ私の親友は!セシルがシスコンになるのも、分からない訳じゃないね!
「さて、クラス確認出来たし、教室に行くわよ。」
「うん!」
カミラと共によく整備された道を歩いていると、ふいに普段からセシルを目にしている私達にとってはすごく胡散臭い笑みを浮かべたセシルが目に映った。
「……そういえば昔は腹黒い人間っていけ好かないって思ってたけど、今思うと商人になるためには必須なんだよね。」
「商人はいかにこちらが有利になれるかが勝負なんだから、考えが読まれちゃ商売にならないわ。まあ、貴女は頭悪くないけど、考えるより動け!を実行てるし、暴走したら止まらないし、そういう策略家って苦手そうよね。」
「待って、私カミラからそんな目で見られてるの?心外だなあ。」
私がそう言うと、非常にジトッとした目を向けられた。え、な、何?
「知らない間に誘拐されてるし、いつのまにかヒロインに接触してるし、反乱軍と遭遇した時には魔法ぶっ放すし、女王様には専属騎士の勧誘されてるし。貴女頭はそれなりに良いんだからちょっと考えて動けば回避出来そうな物なのに、すぐ突っ張るのよね。こっちは肝を冷やしてるのに、本人は何でもないような顔してる。今までどれだけ脱力してきたか……貴女といると寿命が縮むわ。」
「……返す言葉もありません。」
ハァ、とため息をついたカミラ。
その音に混じって、クスクスという笑い声が聞こえた。
「ふふ、失礼。とても仲が良い二人だなと思って、つい笑ってしまったよ。」
柔らかく微笑みながらそう言って来たのは……
「ル、ルーカス、シュナイダー……さん?」
攻略対象。
なんたる偶然。運命の悪戯。いや、嫌がらせか。
もうこれ以上死亡フラグ立てたくないんだよぉぉぉぉお!!
やめとくれ!もうやめとくれ!クーデレ(元)と腹黒(元)と俺様(元)でいっぱいいっぱいなんだ!!
「俺の事知っててくれたんだね。」
「ええ、シュナイダー家のご子息様は大変優秀だと、常々噂になっていますもの。」
「恥ずかしいなぁ。俺なんかより優秀な方なんて山ほどいるのに。オーディンさんやアクロイドさんだって、俺より優秀じゃないの?」
「ご謙遜を。」
……あ、あれ?
一見貴族のおべっかだけど、おどけるように言ってるし、声音がすごく柔らかいし、安心出来るような笑顔だ。
……この人、癒し系?
「同じ学年だし、困った事があったら、できる限り力になるよ。だから、これから仲良くしてくれると嬉しいな、なんて。」
「まあ、嬉しいですわ。」
「アクロイドさんも、いいかな?」
「あ、はい。こちらこそ。」
爽やかだけど有無を言わせない笑顔でそう言われ、思わず頷いてしまった。
……あ、この人、何故か安心できるけど、癒し系じゃない。ああいう人が、一番怖かったりするんだ。前世の真也という兄がそうだった。基本的に柔らかい笑顔で誰にでも優しいけど、怒ると容赦なかったし、笑顔でどんな事でもやってのけるし。普段優しい人は怒ると怖いと、身に染みて理解したよ。
……仲良くしたいって……何か目的があるのか?やっぱカミラも何気に商人の娘として優秀だし、仲良くしてて損はないよね。
私は……何かあるだろうか?女王様に気に入られてるってのはあるけど、あの苦労人の哀愁漂う国王様が頑張って隠してくれてるし、一応女王様も公の場所であんな奇行には走らないから、あまり知られてないと思うし。
……あ、ウィルだ!!そうか!!ウィルに近づく為にまずは主人からってか!あの、好きな人を攻略するためにまず友達から攻略とか、あの噂のあれか!!
私には縁がない話だったから分からなかったなー。だって気になる子(もちろん女子ですが、何か?)には直球で行くし。なんでわざわざ周りから行くんだろ?遠回りでめんどくさくないのかな?
「二年に、ウィル先輩っていうすごい人がいるって噂なんだけど、確かアクロイドさんの従者なんだっけ?」
ほら、ビンゴ!!
ふふふ、カミラさんよ、私は考えが足りないだなんて言ってたけど、こうやって予測する事だってできるんだぜ!!
「はい、そうですよ。ウィルは貴族を軽く超えるくらい魔力が高くて、それを扱えるだけの魔術も勉強してますし、魔法に頼り切りになりがちなところですが身体能力も文句なしで、自慢の従者なんです。」
まあ自慢の従者どころか何に関しても追いつけないダメ主人なんですがね……。
でも私は友達って思ってる!ウィルも一応認めてくれてるもん!!
だからいいもんね!私は努力して追いつくもんね!超えるとは言えないけど!!
「……アクロイドさんは、ウィル先輩の事、随分気に入っているみたいだね。」
「はい。それはもう。」
気に入っているどころか相棒ですよ!
「……そっか、よかったね、そんな存在が出来て。」
「はい!」
前世では親友とか何気にいなかったから、返事にも熱が入った。
ルーカスの笑みは慈愛に満ちていて、兄系というより、お母さん系なのではないかと思った。
前世のお母さんは肝っ玉母ちゃん風だったけど、お父さんがそんな感じだったな、そういえば。
ああ、お父さんお母さんどうしてるかな……多分元気なお母さんをお父さんが宥めてるんだろうね……。
「あ、もう着いたね。それじゃあ二人とも、今後ともどうぞよろしく。」
「はい、もちろんですわ。」
「こちらこそ。」
……あ、そういえば違うクラスって言っても隣だった。会おうと思えば会える距離だね、これ。
うーん、ゲームでのルーカスはレイラをあまり良く思ってなくて、ヒロインに「特に、レイラ・アクロイドさんには注意した方がいいよ。正にお貴族様って人だから。」って忠告するんだけど、そんな様子はなさそうだね。
まあ今の私はお貴族様なんて物じゃないしね。むしろ本当に貴族ですか?って聞かれると思うよ。うん。
ここもシナリオとは違うけど……ま、まあ、このくらいは許容範囲だよね?ね?
………………。
さ、さて、教室に入ろうか。
確かヒロインは窓際一番後ろの席だったよね?
「貴女、平民らしいわね。」
「平民如きがこの学校に来る事すらおこがましいのに、オーディン様と馴れ馴れしく話すなんて、ますます調子に乗っているようね。」
お、おお!これは、ゲームにあった通りの、あのシーンだ!
セシルとの出会いイベントを済ませた後、レイラアンド取り巻き達が絡んでくるシーンだ!!
……いや、私はここにいるんだけど………変わりに知らない誰かが囲んでるね……。
ん?というかセシルのイベント終わってたの!?いつのまに!?あ、ルーカスで思ったより時間食ったんだった!!
それにしても、ルリ可哀相、ちょっと知り合いの人と話しただけなのにあんな……。
い、いや、私は見守るだけにするぞ!
これまで心の赴くまま行動して後に多大なる影響を与えてきてしまったんだ。
私はあくまでちゃんと健やかで平穏なる人生を無事に送りたいだけなんだ。
余計な事はするまい。
……ああでも、ルリ大丈夫かなぁ……。いや、これで落ち込んだルリが気分転換に向かった庭園でルーカスとの出会いがあるんだから大丈夫になるのは分かってるんだけどね。
あんなに優しくて繊細なヒロインルリが傷つくと思うと、このまま放っておくのは忍びないような……。
「………ハッ!『学園内で身分の差は無いものとする』って校則があるの、知ってます?ああ、知らないからそんな馬鹿みたいな真似するんですよね?言っておきますけど知らなかったじゃすみませんよ?」
……優しく、て、繊細、な、ヒロイン………?




