第三十話
途中から、三人称となります。
「うーん……。」
私は今、学校から届いた新しい制服を着てみたところだ。
試験は平均よりやや上という成績で合格して一安心、あとは一週間後にある入学式を待つだけだ。
毎日ソワソワしては、春休暇で帰って来ているウィルに呆れられている。
魔法学校の制服は、灰色でタータンチェックのベストに黒のプリーツスカートまたはズボン、女子はガーターで止めるタイプのハイソックス、一年生は赤、二年生は緑、三年生は青、となっているネクタイに、裏地がネクタイと同じ色になる真っ黒なローブだ。
やはり乙女ゲームだけあって、デザインはとても可愛い。
しかし、ローブ以外を着た鏡に映る自分の姿を見て、どうも腑に落ちない点が一つあった。
ーーコンコンコンッ
「あ、どうぞー。」
「レイラ、紅茶が入ったよ……って、どうしたの?そんな難しい顔して。」
「ああ、うん……。」
そして改めて、鏡に映る自分……特にある一点を見つめた。
……うん。やっぱりそうだ。
「胸が足りない………。」
「!?」
そう、足りないのだ。主にボリュームが。
おかしい。ゲームのレイラは、それはもう豊満な、わがままぼでぃと言われるような体つきをしていた。
竹内優の時は、それはもうツルペタ断崖だった訳で、そういう女性的な体型にも密かに憧れていた。
いや、今の私が断崖という訳ではない。女性として平均値な大きさだ。
しかし何と言うか……期待していた分、がっかり感が強いというか……。
「レイラ、君は急に何を言い出すの?」
何故か微妙な顔をしているウィルが聞いてきた。
「いやだって、母様のわがままぼでぃを見て育った私としては、こう、将来を期待してきた分のがっかりした感じが……。」
「いや、わがままぼでぃって……というか、レイラは奥様と違って相当体動かしてきた訳だから、脂肪がなくなるのは当然じゃない?」
「あー、そういえば確かに……肉というか、うっすら筋肉はついてるけど……。」
あー、令嬢みたいな体つきじゃないな、私。一応ウィルが気を使ってくれてるから日焼けはしてないけど、ちょっと力入れたらすぐ折れちゃいそうな令嬢とは違って、そう簡単には折れなさそうだし、無駄な脂肪は落としてきたせいでガーターがないとニーハイがずり落ちそうだ。
「あー……ニーハイがすかすかだし、いっそ筋肉ムキムキにしようかな……。」
「絶対駄目!」
そして必死の形相のウィルに全力で止められた。何故?
◇◆◇
(三人称視点)
筋肉ムキムキにしたい等と言い始めた主人を従者が全力で説得している頃。
とある山脈で、二頭の竜が空を飛びながら会話していた。
一頭は、燃え盛る炎のように赤い鱗と瞳の竜。契約者から貰った名は、オーディン。
もう一頭は、夜の空のような闇色の鱗に、昼の空のように澄み渡った青い瞳と同色の皮膜を持った竜。契約者から貰った名は、ソラ。
「ねぇねぇオーディン、レイラがね、ボクを学校に連れて行って良いかって連絡してくれるんだって!」
「ほお、それは良かったな。お前は小さくなれるから、恐らく許可が出やすいと思うぞ。我の分まで、レイラの事を守れよ。」
「うん!レイラが学校に行っている間、会えないかなーって思ってたから、嬉しい!」
どちらの竜も、レイラは家族のような物だった。
片方は契約者、もう片方は契約者の孫だから、当然とも言えるだろうが。
竜にとって契約者とは、絶対に庇護する対象であり、また一番の仲間であるからだ。
竜石を預けるとはすなわち、命を預けると同義。
契約とは、そういう物である。例え裏切られても良いと思えるような人間とでなければ、竜は決して契約を結ぼうとしない。
……であるのだが、ソラと名付けられたその竜は、あろう事か契約者をたった数分で選んだ。
理由を問い質すと、「勘。」と答えたのである。よってオーディンは、ソラの事が心配で仕方ない。まるで、初めてのおつかいをしている世間知らずの我が子を見守る親のような心境だ。
「もし行ける事になったら、喋る事が出来るという事は周りにばれないようにしておけよ。喋れる事が出来る竜なんてそうそういないからな。もしばれたら、レイラが大変な目にあうぞ。」
「分かってるって!」
不安である。オーディンはそう思った。
この竜は契約者に似ている。よく一人で突っ走っては危ない目にあい、しかもこっちがどれだけハラハラしてても当の本人はケロッとしている所とか。そっくりだ。
一応、レイラが不利益を被るような真似は絶対にしていないが、それでも不安な物は不安だ。
「……ああ、レイラと言えば。」
ふと、オーディンがそうこぼした。
「お前も、気づいているだろう?あの子は、運命に呪われていると言っていいほど、選択肢の先の殆どが破滅だ。」
「…………。」
言葉を話せる程力をつけた竜は、曖昧にだが運命を見ることが出来る。
その運命を見る事で、契約者を破滅から守るのだ。
まあ運命と言っても、その数は無限と言ってもいいほどにある。
一人の人間の運命を見ると、人生の中に可能性の数だけ、数えきれない程分岐点がある。
本人の選択次第では、どんな方向にも転がる、というわけだ。
しかし、レイラの場合が、少し特殊だった。
いくら数ある運命を見ても、殆どが、破滅である。
ある運命では、家が破滅。ある運命では、修道院に強制収容。ある運命では、国外追放。そしてまた、ある運命では、追い込まれて自殺。
曖昧にしか見えないというのは、ある結果と、その過程を断片的にしか見えないという事だ。しかし、その全ての運命に共通する条件があった。中央魔法学校の在校と、ある一人の女性との関わりである。
「あの学校への入学を止める事は、出来なかったのか?」
オーディンは、契約者と同じくらい、レイラを可愛いがっていた。
だからこそ、そんな彼女を破滅等させたくなかったのだ。
だから、声に少し非難の色が混じってしまったのを少し悪く思ったが、後悔はしなかった。
「……そりゃあ、ボクだって止めたかったよ。レイラと飛んでる時、運命が見えるって話して、入学しないで欲しいって、言おうと思ったよ。」
まるで独り言のように、ポツリポツリと話すソラ。
「でもさぁ、あの子、すっごく楽しそうに将来について話すんだ。いつか、ウィルと並べるくらい強くなりたいって。でも剣だけじゃ駄目だから、魔法も上手く使えるようにならなきゃって。あの子の目には、未来に強い希望と憧れの色が見えた。」
そして、自嘲気味に言った。
「言える訳、なかった。魔法学校に入ったら破滅するかもしれないから魔法を使うのは諦めてって。そんな事。」
「……そうか。」
そう言って、オーディンは速度を上げ、先に行った。もう話す必要はないと思ったのだろう。
「……………。」
そして、遠ざかる竜の姿を見て、誰に聞かせるでもなく、ポツリと、こう言った。
「……一度、未来の道を断たれたあの子に、また、同じ気持ちにさせる訳には、いかない。」
そして、聞こえるはずがないその人に向かって、静かに誓った。
「『今度こそ』、ボクが守るからね…………ーーー。」
その竜が呼んだ名は、もう誰も呼ぶはずのない物だった。
ほんの少しシリアスになりましたかね。
さて、次回からの本編はいよいよ乙女ゲームの始まり、魔法学校への入学にする予定です!
そのため、次は番外編を更新しようかなと思っています。
不定期な更新で申し訳ありませんが、それでも私の拙い小説をブックマークして下さった方々、ありがとうございます!
そしてこれからも、どうぞよろしくです!




