第二十七話
「と、父様どうしよう……私、緊張し過ぎて気持ち悪いです……。」
「ああ、私もだよレイラ……。」
「二人共、肩の力を抜いて。」
「旦那にお嬢、俺達も一緒です。だから大丈夫ですよ!」
この日、アクロイド家の屋敷の空気は張り詰めていた。
当主とその妻、娘、その竜、執事、侍女、料理人、護衛兵達が広間に集まり、その時を待っていた。
「もうすぐ届きますね……。」
「ああ……。」
「ウィルの、合否通知……!」
「……あの、たかが僕の受験くらいでそんなに緊張しなくてもよろしいのでは……。」
「黙らっしゃい!受験とは何が起こるか分からないんだよ!」
「そうだぞウィル!」
「レイラ、それにあなた、落ちついて。普段の二割増しに顔が凶悪よ。」
そう、本日は中央魔法学校入学試験合否通知が届くのだ。
ウィルは小さい時からここにいた事もあって、この屋敷の人達にとっては子供や兄弟みたいな物。
故に、私達親子と使用人一同、心から受験の行方を案じているのだ。
特にウィルをなんやかんや本当の息子のように可愛いがってきた父様と、ウィルの親友であり相棒でありパートナーの私は特に緊張している。
と、表を確認しに行った護衛兵の一人が慌てて広間に駆け込んで来た。
「て、手紙が届いてました!」
「な、何!?」
「開けるよ、開けるよ!?」
「あ、ここは本人に開封してもらうのが……」
「よし!ウィル開けろ!」
「わ、わかりましたから落ち着いて!」
皆がアタフタしながらウィルの手元にある手紙を見る。
そして今、前に私が送ったアンティーク調のペーパーナイフで封を切った。
驚く程静まり返った広間。今、聞こえているのは紙の音と自分の鼓動だけ。
「………あ、」
ウィルが、思わず、といったように小さく声を上げた。
「な、何?結果は?」
「ま、まさか駄目だったのか?」
「そんな馬鹿な!魔法術士へのスカウトが絶えないあのウィルですよ!?」
「規格外の頭脳を持つ、あのウィルなのにか!?」
「ありえない!!」
さっきの静寂が嘘のようにざわめく広間。
「いや、そうじゃなくて……」
ウィルの声でピタリと動きを止める。
「これ、いつもの専属騎士にって王妃様から来たレイラへのスカウトです。」
その時、終始穏やかに微笑む母様を除く全員がずっこけた。
「そっちぃぃ!?」
「日付やタイミングで、すっかり合否通知かと……」
「まあ、よく確認しなかった私達も私達ですが……」
「かーっ!気が抜けちまいましたよ!」
最初は王族からの手紙に震撼していた皆だけど、慣れという物は恐ろしい物で。
「ああ、またか」としかリアクションがない現在だ。
王族から手紙が来てこんな反応するのって多分家くらいだね。
「あ、届いたらしいですよ。今度は間違いなく、合否通知。」
『キタ━━━━(゜∀゜)━━━━!!』
こうしてやんややんやと日々を過ごす、アクロイド一家なのです。
ウィルは、余裕で合格。しかも首席合格で、新入生代表の挨拶をすることになりました。
……さっすがチート野郎。
◇◆◇
「……なんか、貴女のところコメディーみたいね。」
「ん?」
そして少し月日が過ぎ、現在は春。ウィルと婚約者(仮)、つまりダルクは学校、私はミニサイズのソラと共にオールストン家、つまり、カミラとセシルの家にお邪魔している。
あ、ちなみに魔法学校は全寮制だからしばらく会えないよ。そして今私の執事や侍女はいない。
昔いた侍女達は、私が自立出来るまでという期間だけいてもらう契約社員みたいな者だったからもういない。私の黒歴史リタも例外なく契約終了と共にさよならだった。申し訳ないけどホッとしたよ。
「レイラ、このケーキ美味しいね!」
「あ、本当だ。こっちも美味しいよ。」
「……貴女達、本当遠慮という物が年々減ってきたわね。まあ構わないけど。」
アクロイド家とオールストン家は、私達の友人関係に影響されてか、親どうしも仲がいい。
頑固な私のの父親と、狸な向こうの父親とでは相性悪そうだけど、案外うまくやってるそう。
「姉さん、レイラ、ソラ、まだここにいたの?」
「あ、セシル。」
「あら、貴方仕事はどうしたの?」
「もう片付けたよ。」
セシルは、父親の補佐を始めたらしい。若いのに優秀で、職員の皆さんも一目置いているとか。
「相変わらず優秀だねー。」
「ハッ馬鹿にしないでくれる?レイラ如きに劣る様じゃ商会でなんて生きていけないよ。」
「……相変わらず口が達者な事で。」
忘れないでほしい。セシルは腹黒キャラなのだ。あくまで黒い部分は腹の中にあるのだ。
ゲームのウィルのように、ツンデレどころかツンドラのように触れる人々を即座に凍らせる奴じゃないのだ。まあウィルはツンデレというよりクーデレだとは思うけど。
それがこいつ、何故か私にだけは黒い部分全開で突っ掛かってくるのだ。
え?何?私悪役だから?すでにブラックルート?やだ怖い。
なお、姉であるカミラに対しては百パーセント白。純白。黒は一切ない。シスコンめ。
「あ、で、結局ルリの記憶、どうなった?」
しかしそんな奴でも聞きたい事はある。我らがアイドルヒロインの事だ。
記憶喪失になった後、回復の目処は立ってなかったんだけど……。
「ああ……うん。駄目みたい。一応、受験に必要な知識や魔力とかには影響ないみたいだけど……。」
「そっか……。」
あー、私の事も忘れたままか……。
まあ出会ったのが誘拐事件でなんて怖い記憶、ない方がいいだろうけどね……寂しいというか。
貴重な女友達が……もうカミラだけだよ……。
「……なんだろう。僕の僅かな良心が痛む。」
「奇遇ね、セシル。私もよ。」
「レイラ、元気出して。」
「うん。ありがとなソラ。」
ツルツルでヒンヤリしたソラの体を抱きしめる。
あー、なんか、ソラを見てると前世の弟思いだす。
二つ年下、一番末っ子で、甘えたがりで可愛かったなー。
私にモテテク(女子限定)がついた原因となったのはその子じゃないからよけい可愛かった。
「……しかし妙よね。」
「え?」
カミラが耳元で囁いてきた。
「記憶喪失だなんて設定、ゲームに無かったじゃない。」
……あ!言われて見れば確かに!
「私や貴女の存在で、イレギュラーが起こってるのは分かるけど、これって関係あるのかしら?」
な、何か不穏な事言わないでよ……。
フラグが立った気がしなくも無かったけど、取り合えず今は自分の受験に専念しよう。
……そうだ。私達、受験生だった。
ごめんなさい、一気に時間飛びました。




