63話 まさかの両想いだった模様 (知ってた)
――桃華視点
自然の中で食べるご飯ってすっごく美味しい! それに店長さんが用意してくれた食材はお肉はもちろん野菜や海鮮といろんな種類があって大満足! クーラーボックスからどんどん出て来るけど一体どれくらいの食料があの中に入っているんだろう……。
お腹も一杯になったんだけど店長さんは食後のデザートにとワッフルを焼いてくれている。流石喫茶店を経営してるだけはありますね! スイーツは別腹ですぅ~!
……違~う! 私、なに普通にキャンプを満喫してるの!? いや、正しいとは思うんだけど折角目の前に葵先輩が居るのに! 二人っきりになるチャンスを探さないと――
「ねえねえ、桃華ちゃん! 川の方に行ってみない!?」
ええっ……梓先輩、確かに気になるのは気になってましたが、出来れば葵先輩と……あ、なんか笑ってる。何かあるんでしょうか……。
もしかしてきっかけを作る為に打ち合わせとか!? 行きます! すぐに行きます!
「わあ、ほんとに綺麗な川ね! あっちの方は人の手がついてないみたいだね!」
梓先輩に誘われ川原に下りて来た。川底が丸見えなぐらい澄んでいてとっても綺麗! それに結構涼しいし、都会とは全く違いますぅ!
「さてと、かなり順調じゃなの、桃華ちゃん! あんなにベタベタしちゃって。今日は気合入ってるねぇ~」
「あ、あの、や、やり過ぎでしょうか……」
確かに胸を押し当てたり、確信犯な言葉を言ったり……今までの私なら絶対にしない行為ばかりしてる。逆に嫌われないか心配ぐらい……。
「いいと思うよ? 葵にはあれぐらいでちょうどいいと思う。流石のあいつも意識しざるを得ない状況になってるよ。そしてこのタイミングを絶対に逃がしちゃダメよ?」
「は、はい……」
やっぱり梓先輩は相談する為に私を誘い出してくれたんだ。
「いい、帰ったら私は薫と晩ご飯の準備するから、桃華ちゃんはここに葵を誘い出しなさい」
「ええっ!? そ、そんなの無理ですよぉ!」
だって葵先輩、お空を見ながら目も虚ろにお酒飲んでましたよ? 下手したらもう寝ちゃってる可能性もありますし……。
「課長に取られるわよ? いいの?」
心に刺さる言葉を言われた……梓先輩がわざわざ内緒にして連れて来てくれたキャンプ、おそらく今日以上のチャンスは無いのは自分でも分かってる。でも……。
「……怖いんです。だって課長さんが相手なんですよ!? もし告白して断られて変な空気になったらキャンプも楽しめませんし、会社でも――」
「まだ自分に言い訳してチャンスを逃すの? 私はこれ以上手伝わないわよ?」
厳しい目をして忠告された。正直、ここまでしてもらってる事自体お礼いくら言っても足りないぐらい。それだけのチャンスをもらっていながら私は……。
目の前に流れる川は岩場となっており、流れ落ちる水の音が周りにこだましていた。この場所に人影はないみたい。ここに誘うんですね……分かりました。
川を眺めながら両手を握りしめて覚悟を決めた。
「私、告白します! でももし万が一の時は……」
「大丈夫、万が一にも失敗しない。桃華ちゃんのその真っすぐさを伝えてあげて。葵のキス恐怖症は桃華ちゃんなら治せるよ!」
沙織と咲矢にも言われた……はい、私頑張ります!
「よし、その意気だよ! じゃあ戻るよ!」
「はい!」
もう迷わない。玉砕覚悟でアタックします!
コテージに戻るとウッドデッキでまったりとしている葵先輩が居た。というか完全に酔ってません!? あの、私今から告白しようとしてるんですけど!
「ああ、もう! 飲み過ぎですよ! こんなに沢山飲んで!」
焦りと緊張から少し語尾が荒くなっちゃった……お、落ち着かなきゃ。でも流石にこれは飲み過ぎですよ!?
葵先輩の椅子の横に置かれたゴミ袋には大量の空き缶が入っていた。一体どんなペースで飲んでたんですか……。
「はは、つい楽しんでしまって……少し休憩しておきますね」
とりあえず今は珈琲を飲んでるけど、ちょっと目がふやけてる……この状態じゃ。やっぱり今じゃない方が……。
その時、強い視線を感じた。言わずもがな梓先輩だと思う……うぅ、分かりました、誘ってみますぅ……。
梓先輩は小さくため息を落とし、キッチンの方に向かって行った。よ、よし……このタイミングですね。
「少し酔いを覚まして下さいね、じゃ、じゃあ、少しお散歩でもしませんか?」
い、言えた! なんとか自然な感じで!
「そ、そうですね! 一緒に見て回りましょうか!」
しかもお誘いに乗ってくれたぁ! こ、こんなにトントン拍子で行くなんて!? ちょ、ちょっと待って! こ、心の準備がぁ!
葵先輩は勢いよく立ち上がったんだけど、やっぱり足元がおぼつかない様子だった……飲み過ぎですよぉ。川にはまっちゃいますよぉ……。
すると、おもむろにクーラーボックスからペットボトルのお茶を取り出し凄い勢いで飲み干した。そ、そんな酔い覚ましもあるんですね……。
「くはぁ……よし、い、行きましょう!」
「あ、あの本当に大丈夫ですか? 部屋でゆっくりしてたほうが――」
流石にちょっと心配になってきました。川にはまったら私助けられませんよ!?
「大丈夫です! ノープログレムです!」
不意に手を取られ速足で川原の方へ向けて歩んで行った。こ、こんな積極的な葵先輩……よ、酔ってるからかな……。
私からの提案でさっき梓先輩と一緒に来た川原を散歩する事になった。手はまだ繋いだまま……これだけでも顔から火が出る程恥ずかしい。でもこれからもっと……うぅ、私上手く出来るかな……。
と、とりあえず何かお話しないと!
「あの……肩の方は大丈夫ですか?」
「はい、おかげさまで。ありがとうございます」
言葉もしっかりしてるし、足元もさっきとは違って安定してる、さっきのお茶が効いたのかな? そ、それよりも会話! 会話しないと!
……出来無いよぉ! 無理だよぉ……何を話せばいいのか分からないよぉ! 頭の中真っ白だよぉ!
ゆっくりと川原を歩き、随分コテージから離れちゃった。この先はちょっと崖のようになっていて進むのは難しそう……梓先輩と来た場所も通り過ぎちゃったし……。
目の前には私の身長以上もある尖った大きな岩から流れる水は小さな滝のようになっている。水の音も大きくなっていて蝉の泣き声も良く聞こえる。
「そ、そろそろ戻りましょうか、酔いも覚めて来ましたので。でもほんと綺麗な所で――」
終わっちゃう……嫌っ!
「葵先輩、私の事、どう……思ってますか?」
ついに聞いてしまった……もう後戻りは出来ない。
「ど、どうと言われましても、その、可愛らしい女性だと思ってますし、同時に魅力的な女性とも」
葵先輩からの回答は嬉しかった。こんな私の事をちゃんと女性として見てくれてる。それに魅力があるって……伝えなきゃ。
「女性として、見てくれてるんですね……私、この胸、少し前まで大嫌いだったんです。でも、今は大好きになってます。葵先輩が誉めてくれたから……」
自分の胸を持ち少し持ち上げながら伝えた。私は自分の体にコンプレックスがあった。小柄な体なのに胸だけは人より大きくて……梓先輩や課長さんが羨ましくて堪らなかった。
目の前に居る好きな人が愛おし過ぎて我慢が出来無くなり、抱き付いた。どうしても胸を押し当てる形になりますけど、葵先輩が誉めてくれた胸です! 感じて下さい!
そのまま顔を上げ、人生で一番言いたかった言葉を口にした。
「私は……そんな葵先輩が、好きです。大好きなんですぅ!」
無言の時間が流れた。流れる川の音と蝉の泣き声が先程まで大きく聞こえていたけど、今は何も聞こえないぐらい葵先輩の顔を見るのに集中していた。そして、思いの丈を、今まで隠していた事を全て吐き出した。
「課長さんが好きな事は分かってます……でも、私もそれに負けないぐらい好きなんです! 私なんかじゃ、ダメな事も、で、でも……でもぉ」
この期に及んでも自分に自信が持てない……自分でダメって言ってしまった。情けないぐらいに弱気になっちゃってる。きっとこの告白は失敗……。
それでも、最後にもう一度言おう。言わないで後悔するより言って後悔しよう。全てを失っても!
「葵先輩が――」
「好きです。鈴宮さん、初めて会った時から誰よりも」
耳を疑った。先ほどまで何も聞こえかったのに、葵先輩の一言で川の音、蝉の声が一斉に聞こえ出した……私の中で緊張が切れたんだ……。
「ううぇ……? い、今、なんてぇ……?」
情けない声が出た。今の言葉……ずっと片想いだと思っていて、嫌われないよう、好かれるよう背伸びしてきた。嫌われたと思った事なんて数えきれないぐらいあった。
始めて会った時からって……な、なんだ、両想いだったんじゃないですかぁ……涙が出て来ましたよぉ……止まらないよぉ……。
「坂上葵は、鈴宮桃華さんが大好きです。世界で一番誰よりも」
体が締め付けられた。でも苦しくはない。葵先輩が……抱きしめてくれてる……。
「葵せん……ぱっ!?」
大きく目を見開いた。葵先輩が固く目を瞑り、震えながらキスをして来てくれた。
私が、する筈だったのに……。葵先輩から……。
「うんっ、しぇんぱ……はげし……んんっ!」
いつもの優しい葵先輩とは思えないぐらいの激しいキスだった。頭の中が……もう、何も考えられ……。
「んはっ……す、すみません、乱暴にしてしまって。キ、キス苦手でして……で、でもなんとか出来ました……」
唇が離れ、抱きしめられたまま声が聞こえて来た。でもその体からが震えが伝わって来た。それにあまりの咄嗟の事で私はずっと目を開けていたままだった。
葵先輩は、私の為にトラウマを乗り越えてキスをしてくれた。相当辛かったのは震える体から感じ取れる。それでも、私の為に……。
どんなものにも変えられない喜びが溢れ出た……私とのキスをもっと感じて欲しい。私が、キスを怖い物では無くします……。
「ありがとう……ございます。でも私からもさせて……下さい……」
この前咲矢と沙織が見せてくれたキス……両想いのキス。今なら出来る気がする。
体が勝手に動いて手を葵先輩の首に回した。葵先輩は察してくれたのか、少しかがんでくれた。私はそのまま目を閉じて言葉をひとつ置いた。
「……大好きです、葵先輩……んっ……」
優しくゆっくりと唇を合わした。一瞬体が大きく揺れたけど、その後は震えも収まり私を受け入れてくれた。恥ずかしいという気持ちは無く、逆にもっと欲しいと思った。そのまま私は葵先輩を包み込んだ。
甘い時間は一瞬で過ぎ、唇を離してもう一言告げた。
「……付き合って、下さい」
私の……絞り出した言葉だった。
「もちろんです……一生大事にしますよ」
もう言葉は要らなかった。抱きしめられ、何度も何度も甘いキスを繰り返した……。
少し目を開けたら葵先輩の顔の横から覗く夕焼けがとても綺麗だった……。




