47話 こめ銃は健全なR15?
――桃華視点
週末、今日もおやつのポテチと一緒に『こめ銃』の続きを読む予定! まあ、ダイエットは……その、出来てない。
「うん? 姉ちゃん……またか? 本気で控えた方がいいぞ?」
少し怒られた……うう、だって……。
「それに、少し太ったんじゃないか? 間食のし過ぎだぞ?」
「お母さん! 咲矢がセクハラしてくる!」
即、報告した。酌量の余地は無い。
「う~ん、確かに桃華ちゃん、ちょっと丸くなったかもね」
「えっ!?」
まさかのお母さんからも追い打ちを受ける羽目に……嘘、そんな、そんな事無いもん! そのままお風呂場に行き、深呼吸を一つして体重計に乗った。
増えてた……。
「私、今日から何も食べない……お水だけ飲む……」
「極端だな……体壊すぞ?」
「そうよ、食べる量を減らしなさい。あと間食と」
二人揃って正論をぶつけられた……うう、ポテチが美味し過ぎるんだもん……。
「何を言う! 桃華は全然太ってないぞ! それぐらい丸い方が愛着というものが――」
「決めた。私、絶食する」
お父さんの言葉で決意が固まり部屋に戻った。その後、お父さんを責める咲矢とお母さんの声が聞こえたけど気にしないでおこう。
とりあえ今日はしっかりご飯も食べちゃったし、ポテチは抜きで『こめ銃』を読もう。全三巻だったので結局全部買っちゃった! 今日から三巻目~!
えっと、二人の間にライバルというか異性が現れたんだよね~、でも二人の愛は引き裂かれないよ~、ふふ、楽しみ~。
ベッドに寝転がり、機嫌良く足をパタパタさせて三巻目を開いた。
「やだよぉ……どうして、どうしてそうなっちゃうの……」
私が想像していた展開とは大きく違っていた。物語が佳境になり、時計の針は午前二時を過ぎていた。一気に終盤まで読み続けちゃった。
明日……今日はお休みだし夜更かししても大丈夫なんだけど……問題はこの二人。あんなに大好きだった、あんなにお互いの事を思っていたのに……それぞれ別の子と付き合う事になった。
もちろん、気持ちは変わっていない。だけどお互いが犠牲になる所だけがリンクしてしてしまって相手の事を思いながら別々の道を辿る事になった……。
「ちゃんと、ちゃんと言わないからだよ……っ!?」
ふとこの物語の女の子に自分を重ねた……私も一緒の道を進むかも知れない。もし葵先輩が課長さんの事を選んだら、私は身を引くしかない。諦めたく無いけど諦めるしかない。葵先輩が……選んだ、道なら……。
一気に悲しみが体を支配した。涙が出て微かに震え出した。
「やだ……この物語みたいになるのは……」
いつまでもそこにあると安心していた結果、いつまでも変わらないと思っていた結果、別れる羽目になってしまった……。
本を投げ出し、スマホを手に取りボタンをタップした。連絡を待っていたら小説の通りになっちゃう。待ってちゃダメ。
一つ深呼吸をして『通話』のボタンを押した。
『はい、もしもし? 鈴宮さんですか? どうしました、こんな夜中に』
スマホ越しに声が聞こえた。葵先輩の声だ……さっきまで会社で聞いていた声出し、私からも仕事の内容で話しかけもした。でも……凄く久しぶりな気がした。
その思いから涙が止まらず、嗚咽が漏れた。
『ど、どうしたんですか!? 大丈夫ですか!? 今は家ですよね!?』
葵先輩が焦る声が聞こえる……会いたい、会いたいよぉ。
『会いたいよぉ……』
つい言葉に出しまった。
『分かりました! すぐ伺います! 落ち着いて下さいね、マッハで行きますから! とりあえずショッピングモール辺りまで行きます! また電話しますから!』
その声を最後に電話が切れた。
……え? 私、今何した?
涙を拭い、スマホに再び目をやる。液晶に浮かび上がっている文字を口に出して見た。
「通話終了、葵先輩……1分05秒……」
きゃああっ!! 私『こめ銃』に感情を支配された勢いで葵先輩に電話したぁ!? しかも会いたいって! 今何時よ!? 午前二時過ぎだよ!? 迷惑どころじゃないよ、もはや法に接触しちゃうレベルだよ!
「あわわわ……わ、私、なんて事を……」
もう手の震えが止まらない。多分今スマホのバイブが震えても自分の震えで分からないと思う。
「も、もう一度電話を! ま、間違いって言わなきゃ!」
何度かコールをしたものの、葵先輩は取ってくれなかった。もしかして寝たのかな……。で、でも万一にもこっちに向かって来てたら……。
「と、とりあえず、行かなきゃ!」
もし仮にこれでほんとに来てくれて放置なんてさせてしまったら、嫌われる所どころの騒ぎじゃない。出来ればそのまま夢を見たと思って寝ていて欲しいけど……。
パジャマを脱ぎ、急いで普段着に着替えた。今はコーデがどうのと言ってる暇は無い。着替え終わると寝静まった我が家を静かに後にした。
ショッピングモールは家から10分程の場所にある。到着してスマホの時計を見ると午前2時30分を過ぎた所、当然ながら私以外に人は居ない。
「さ、流石にまだ来てないよね……というか来ないで欲しい……」
もう一度電話をかけるもやっぱり繋がらない。うん、やっぱり寝てるのかも知れない。
「良かった……のかな。あっ!? 寝てたとしても私の着信が残るじゃない!」
かなりの回数電話したし、こんな夜中に……。普通の神経じゃないよね……。どっちにしても、もうダメかも。
その場で膝を抱えてしゃがみ込んだ。どうしてこうなっちゃうんだろう……あれ、『こめ銃』と一緒じゃない、これって。いつも空回りして、想いが届かなくて……。あの二人と一緒で私と葵先輩も結ばれない仲なのかも知れない……。
完全に塞ぎ込んで今後の事を考えた。もう、完全にお終いだね……。
「はぁ、はぁ……っはぁ、はぁ、す、鈴宮……さん?」
勢い良くその声がした方に頭を上げた。息を荒くして暗がりで良くは見えないけど眼鏡をかけた背の高い男性が居た。
私の事を知っている男性でこの容姿の人はただ一人……。
「さ、坂上です……な、何かあったん、です……か?」
もう、我慢なんて出来なかった。
「葵せんぱぁぁいっ!!」
思いっ切り抱き付いた、汗でしっとりして肩で呼吸してる動きと共に心臓の鼓動が伝わって来た。
「んあっ!? だ、ダメですよ! 俺、汗だくだから! 服汚れますから!」
でも私はしばらく離れなかった。
「大変申し訳ございません……」
時刻は午前3時は過ぎてると思う。まだ真っ暗な中、私は地面に正座して頭を地面に付けた……む、胸が邪魔……。
「そんな事しなくていいですから!? 早く立って下さい!」
事情は先程説明させてもらった。それはも包み隠さずに……もちろん『こめ銃』の事も。
葵先輩からは立つように言われてるけど、早々頭を上げる訳には……あれ? 胸に違和感が……いつもよりぐにゅっと……んんっ!? 私付けてない! ブラぁ!
ちょっと待って、私、この状態で葵先輩に抱き付いて……。
「ひゃああああっっ!」
立ち上がり胸元を押さえた。や、やっぱり……無い、無いよぉ……寝る前だったから外してたんだぁ……。
「す、鈴宮さん!? ど、どうしたんですか!?」
わ、私……なんて破廉恥な。違うんですぅ……事故ですぅ……そんなふしだらな女の子じゃないんですぅ……。
「ひぐっ、うぅ……もうやだぁ……」
また涙が溢れて来た。やる事無す事失敗だらけで……。
「あ、あの? 大丈夫ですよ、ちゃんとあの二人はよりを戻しますから! ネタバレしちゃいましたけど……」
な、なんのお話をしているのでしょうか……私は、胸を――
「実は俺も『こめ銃』読んでまして。さっき全話読み切った所で。でもこんな偶然ってあるんですね。驚きですよ」
え? 葵先輩も?
「確かにラスト手前のあの展開には涙を誘われましたよ。一瞬酷い奴らと思いましたが、実はあの二人に正直になってもらう為のお芝居だったんですよ」
「お、お芝居? じゃ、じゃあ、あの後は!?」
「もちろん、固く結ばれてハッピーエンドですよ。ちょっと、描写が生々しかったですけどね」
外灯が微かに葵先輩の顔を照らし、少し照れた顔が見えた。
そっか、そう言えばまだ少しページが残っていたような……私、途中で放り出いちゃったから。
「家に帰ったらまた読んで下さいね。じゃあ、家まで送りますよ」
胸の事は……バレて無いのかな……で、でもあまり近づくと……あ、でも暗いから大丈夫かも。
それよりも……。
「明日、おでかけしませんか……? 後、て、手を繋いでもらっても……いい、ですか?」
「え、ええ。大丈夫ですよ。って手ぇ!?」
自分から言うのはとっても恥ずかしかった。でも、あの『こめ銃』みたいな事にはなりたくない。だから、私は積極的に行く! ここまできたら恥ずかしい事なんてないもん!
「はい……」
自分から葵先輩の手を取った。温かくて大きな手……。
「あの、その……お、俺汗かいてますよ!? それに――」
「暖かいですぅ……えへっ」
「……そ、そうですか、じゃ、じゃあ行きましょうか!」
葵先輩は強く手を握り返してくれた。誰も居ない夜道、葵先輩と二人で家に帰った。最高に恥ずかしくて、最高に幸せなひと時だった。
私……頑張ったよ……。
家に帰った後、葵先輩に何度も謝った。その後、部屋に戻り『こめ銃』は最後まで読んだんだけど……内股になった……。




