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37話 進展の無いGW、と思ってる二人


 ――葵視点


「あいよ! お待ち! 今日は柚子胡椒を効かせたスタミナラーメンだ!」


 店のメニューには無い製品が俺の前に置かれた。GW終日の晩ご飯にラーメンを解禁させてもらった。


 湯気の立ちあがるラーメンに箸をつけ、口に運ぶ。うん、美味い。


「遂にお前達もくっついたかぁ~、お姉ちゃんも負けてられないな!」


 拳を握りしめ、遠くを眺めている女医さん。そっちの方角はスーパーですね。尚、なっちゃんはお前達と言ったが今は俺一人なんですが。


「うん? 何がくっついたんですか?」


 ラーメンをすすりながら聞き返した。柚子胡椒か、これイケるな!


 そんな様子に『え?』という表情を浮かべながらこちらを見つめて来た。そんなに見られても困ります。それに胸元開き過ぎです……眼福です。


「葵……? 桃華がお前の家に泊まりに来たよな?」


「ええ、先日」


「確かに、桃華はあの日だったみたいだが、一晩過ごしたんだよな?」


「はい、そうですよ?」


「……何をしてたんだ?」


「う~ん、飯食って、話して、寝た……ですかね?」


「中学生以下かぁ!?」


 なっちゃんの怒声のような声が響いた。もちろん怒っている訳ではないのだが、呆れたと言うかなんと言うか。とりあえずお客さんがこっち見てるからやめて……。


「そ、そうは言いましても。ほ、ほら、体調悪かったですしそれに鈴宮さんも気疲れも合わさってか、ほとんど寝てましたしね」


「泊まりに行く関係で何も無かったのか? 告白は!? キスは!?」


「な、無いですよ……それに鈴宮さんは弟さんの為に家を空けて俺の所に来ただけですから。それに会社の後輩ですよ? 手なんて出せませんよ」


 ズビズビとラーメンをすすりながらもなっちゃんに視線を向けると、眼鏡を外して目頭を押さえていた。眼精疲労かな?


「あたしも人の事を言えたもんじゃないが……お前らってやつは……葵に言っても仕方無いな、今度桃華を連れて来い……」


 なんか疲れ切っているご様子だが……まあ、明日から仕事だしまた連れて来るとしよう。


 


 ラーメンを食べた帰りに和夫のファンシーショップに寄る事にした。閉店時間ぎりぎりだからおそらくお客さんもいないだろう。


「よっ、和夫」


 手を上げて挨拶を送る先には美人でスレンダーな男、和夫が商品の陳列をしていた。


「あら? 葵ちゃん。今日は一人なのね。あの可愛らしい子は居ないんだ」


「鈴宮さんの事か? 当然だ、会社の後輩だぞ? それよりも何かアザラシちゃんの新しいグッズは出て無いか?」


 アザラシちゃんは人気があり、様々なノベルティもあるのだが、なんでもかんでも購入する訳では無いので入手は困難だ。


「そおねぇ~、葵ちゃんが使うようなものは無いかも。メモ帳とかボールペンなんかは要らないでしょ?」


 確かに会社でそんなのを使っていたらいろいろと変な目で見られれてしまうので辞退したい。


「それよりも、どうなの? あの子と上手く行ってるの?」


「ああ、結構優秀な子で仕事の覚えも早いし、この調子で行けばすぐに戦力に――」


「違うわよ! 恋愛よ、れ・ん・あ・い!」


 なっちゃんといい、和夫といい揃いも揃って……そりゃあ確かに可愛くて、胸も大きくてとっても純情な子であり、どう考えても俺の好みど真ん中のドストライクではあるが……。


「そんな物は無い。まあ……気になる存在ではあるけど俺は先輩としてだな――」


「なあに悠長な事を言ってるの! そんなじゃ課長さんに押し切られちゃうわよ? だって課長さん、葵ちゃんにぞっこんなんだから」


 うぐ……課長か。確かに仕事は出来るし、とてもいい人なんだが……俺は苦手だ。そういえば明日、出張から帰って来るもんな……。


「私としては課長さんにはご贔屓にしてもらってるからあまり悪く言えなけど、それとこれとは別だからね」


 そう、課長は端から見ても綺麗だし、能力も高い。社内でも一番の人気なんだが……。


「あの人、スイッチがオフになるとさ、その……大変だから……」


 鈴宮さん、大丈夫だろうか……俺達の上司はこの街の人と同じぐらい癖があるからなぁ……。


 店内に飾られている特大アザラシちゃんの非売品を見て物思いに更けた……とりあえずあれ、譲ってくれないだろうか……。




 ――桃華視点


「しかしこの女垂らしの咲矢がまさか彼女を紹介してくれるとはな!」


 ご機嫌な様子で様子を見せているお父さんとは裏腹に、不満そうな顔をしている咲矢が居た。


「誰が女垂らしだ!? 沙織さんの前で変な事言うのやめてくれ!」


「そうですよ、貴方と瓜二つですから」


「ちょ!? 母さん! フォローになってないから!」


 シュンとなるお父さんを尻目に咲矢とお母さんが掛け合ってる……。


「桃華のお父さんって咲矢君にそっくりだね……流石、神の父は神だったか……」


 隣の沙織はお父さんと咲矢の顔を交互に見ては少し締まりのない顔をしている。GWのお休み最後の夜、咲矢が沙織を連れて来て紹介した。彼女として……。


 私が大半を寝て過ごしたあの日に二人は急速に仲を深め、まさかの家族に紹介するに至った。


 当然……二人は愛し合う仲になったんだって……。


「ごめんね、見た目はこんなだけど彼女を連れて来たのは初めてで。まだまだ大学生の子供で世間知らずな子だけど仲良くしてあげてね」


「こちらこそ、咲矢さんとは末永くお付き合いしたく思っております!」


 満面の笑みでお母さんと会話している端で何やらお父さんと咲矢が言い合ってる。うん、良かったね、二人とも……。


「じゃあ、私、明日からお仕事だし先に部屋に戻るね。沙織、ゆっくりして行ってね。咲矢、ちゃんと帰りは送ってあげるのよ」


「もちろんそのつもりだよ。ってちょっと父さん! 沙織さんに近づき過ぎだ!」


「アナタ?」


「い、いや、違うんだ! そ、その、こ、これはだな!」


 そんな賑やかな声を背にリビングを後にして自分の部屋に戻った。溢れ出そうな涙をこらえて……。



 部屋に戻ってベッドに腰を下ろした。咲矢と沙織が彼女になった、家族にも紹介する程に仲良くもなった。お父さんも言ってたけど、モテる咲矢が真剣に付き合った女性としては初めてだと思う。それほど沙織は魅力的な存在だし、沙織も一途に咲矢を見続けていた。


 最高の両想い……。本当はもっと一緒に喜んであげたい。でも……。


「うう……私、寂しいよぉ……」


 涙がこぼれた。あの日、一日の大半を寝て過ごした。お話は沢山出来たけど、私の体調も悪かったので外出も出来なかった。葵先輩は怪我をした。ベッドも独占した。それに何も無かった……。


 もちろん、何かあった方が良いと言う訳じゃないけど、二人っきりでお泊りまでして何もなかったと言う事は葵先輩は私には興味が無いという事。


 私からもっとアプローチした方が良かったのかも知れない、でもあの時は体調も悪かったし、ずっと寝てしまった。葵先輩が悪い訳じゃ無い、私が悪い……。


「もう、やだよぉ……どうして、どうして……」


 二人で居た時は特に何も感じなかったけど、時間が経って行くにつれ、自己嫌悪に悩まされた。


 涙が握りしめた拳に落ちたと同時に部屋のドアがノックされた。急いで涙を袖で拭いて一呼吸おいて返事をした。


「は~い、誰~?」


 精一杯の明るい声を出した。悟られないように。


「私、沙織だよ。ちょっといい?」



 扉を開けると沙織が一人で立っていた。咲矢は居ないみたい……どうしたのかな?


「桃華……大丈夫? とても悲しそうだったよ……」


 そんな顔を見せた覚えは無い。むしろ気付かれないように笑顔も多く出してたし、明るい声も出していた。両親にも咲矢にも気付かれていないのに、沙織にはバレてる……?


「そ、そんな事ないよ? ほ、ほら咲矢が待ってるよ? 早く戻ってあげないと焼きもちやかれちゃ――」


「桃華がそんな冗談言う時って何かある時。私は知ってるんだからね」


 高校、短大と一番長く居た友達。一緒に笑ったり泣いたりもした友達。恥ずかしけど親友と言える仲……。


「少し、お話してもいい?」


 私は静かに頷いて沙織を部屋に招き入れた。



 ベッドに二人揃って座り、沙織はじっとこちらを見ている。そんな状況に涙の我慢の限界を超えて流れ出した。


「桃華、何があったの? 教えて?」


 私は静かにお泊りの時の内容を沙織に話した……。




「そっか。その人、とってもいい人だね。流石は桃華が好きになった人だよ。とってもお似合いだね!」


 一言めの感想がそれだった。いい人なのは間違っていないけど最後のお似合いの意味がよく分からない。


「でも……私には沙織と違って魅力無いし……」


「はい? こんな上等な物を持ってるのに!?」


 いきなり胸を鷲掴みされた!? ちょ、ちょっと! 沙織!?


「それに相変わらずのネガティブ思考と言うか、マイナス思考と言うか……」


「ちょ、ちょっと! セクハラだよ!?」


 少し距離を取り、胸を守った。沙織はちょくちょく触って来るので油断ならない。


「あのね、こう考えられない? 『好きな女の子が弱ってたから見守ってくれた』って。しかもお泊りだよ? 好きな気持ちがある人じゃないと普通成立する案件じゃないよ?」


 案件って……流石は私と同じ社会人さん……。


「しかもだよ? 桃華の為に作った事の無い料理をして、退屈にならないようにお話してくれて、無理しないように外出もやめてくれたんだよ? どれだけ紳士さんなの、その人。しかもお姫様抱っこで運ばれた? 私が咲矢君にしてた片想いに比べると羨まし過ぎるわ!」


 うう、そう言われてみれば、確かに私の為にいろいろと……してくれた!?


「そ、そうなのかな……ま、まだ嫌われていないかな……」


「私としては下心を完全に抑えにかかっていたと見た! こんな豊満な女子高生みたいな子が隣に居て何もしないなんて……私なら死ぬ」


 いや、死んじゃダメでしょ……。


「そ、そっか……葵先輩、優しいから……って誰が女子高生なの!? 私は立派な20歳だよ!」


「いや、一番近くで見て来た私が断言するよ。桃華、高校の時から全く変わってないから。あ、一個だけ変わった部分が――」


「ちょっと! 触らないの! まったく!」


 迫りくる手を緊急回避した。油断も隙もあったもんじゃない。


「ふふ、元気出たみたいだね、頑張ってね、桃華!」


 うぅ……でも確かに元気が出た。沙織……ありが――


「ふははっ! 隙あり!」


 私の中で何かが吹っ切れた。もちろん、葵先輩に対してじゃ無く、沙織に対して。


「……咲矢に沙織は猫をかぶってる、私の胸を触って喜んでるって言って来る」


 沙織はすぐさまスタイルの良い体を丸めて頭を地面に当てた。とりあず二度と私の胸を触らない事を誓わせた。沙織はいつもふざけるから困る……私が落ち込んでいる時にいつも。


「沙織、ありがと」


「い~え、どうしたしまして、お義姉様」


 頭を上げてにっこりと笑って返事をしてくれた……でもそれ気が早くない?


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