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おまけ3 プロポーズ大作戦 後編

夕焼けがあたりをオレンジ色に染め上げるころ、ナオはグエン宅に向かっていた。

リーザとエレンナとはその後も、オミットとエレンナのなれそめなど、女子ならではの話に花を咲かせた。

2人に話を聞いてもらい、少し気持ちが軽くなったとはいえ、またすぐにザントと顔を合わすことを思うと、ナオの気分は暗くなる。


もしかして、ザントは嫌になったのではないだろうか。

自分や、自分に付随する運命が。

オッディスであるがゆえに、この身はいつ誰から狙われるか分からない。

そんな危険を伴ってまで、ナオと一緒にいたいと思わないのではないか。

そう考えると、自然に涙が浮かんでくる。


(勝手に1人で考えて泣くなんて!)


もう、すぐそこがグエン宅だ。

頭を横に振って、その考えを追いやろうとした時、遠くから自分を呼ぶ声が聞こえた。


「ナオねえちゃーん!」

「アロム!?」


日が暮れかけているというのにどうしたのだろうか。

まだ幼いアロムが、一生懸命自分のもとに走ってきている。


「どうしたの?アロム。急ぎの用事?」

「あのね、あのね、ぼく、ナオねえちゃんにいいたいことがあって・・・」


走ってきたばかりで整わない息のまま、アロムは必死に言葉を紡ぐ。

ナオはしゃがんで、アロムに目線を合わせた。


「うん、なに?」

「あのね、ぼくがおおきくなったら、ナオねえちゃん、ぼくとけっこんして!」

「・・・え?」

「ナオねえちゃんはまだだれともけっこんしてないから、ぼくとけっこんできるっていってた!」


アロムは幼いながらも、真剣なまなざしで訴えている。


「ねえ、ぼくとけっこんしようよ!だめ?」


可愛らしく首を横にこてんと倒す様子を見て、ナオはうっかりうなずきそうになるのをぎりぎりで堪えた。


(いくら小さい子だからって、嘘でも頷くのはどうなのかな・・・)


しかも、自分には心に決めた人がいるのに。

どうすればアロムを傷つけずに断れるのかを考えているナオの後ろから、声が飛んできた。


「だめだガキ。そいつが結婚するのは俺だ」

「・・・ザントさん・・・」


いつの間にやってきたのか、ザントがすたすたとナオの横を通り過ぎ、アロムの頭を片手でがしっとつかむ。

アロムは手を振り回しながら、何とかザントに抵抗しようとしているらしい。


「ザントのバカー!ぼくがさきにナオねえちゃんとけっこんするってきめたんだいー!」

「バカはお前だ。それより先に俺が決めてたんだよ。わかったらさっさと家に帰れこの色ボケガキが」

「ふ・・うぇ・・・うえーーーーーん!」

「あ、アロム・・・!」


アロムは泣きながら、自分の家のほうへ走って行ってしまった。


「ザントさん、あんな言い方しなくても・・・」

「なんだよ。事実を言ったまでだ。優しく言おうが同じだろうが」

「そ、それはそうですけど・・・」


そう言いながらもナオは、先ほどのザントの言葉が気になって仕方がない。


『そいつが結婚するのは俺だ』


(本当に?本当にそう思ってくれてるの・・・?)


ナオは立ち上がり、ザントを見る。

夕日が背後にあるため、ザントの表情はナオからは見えにくい。


「ナオ」

「・・・はい」

「あの、だから、なんつーか・・・あのな」


頭をガシガシ掻きながら、ザントが言葉を探している。

ナオは静かに待った。

夕焼の中、まるで対の像のように、2人はお互いを見つめ合う。

ザントが深く息を吸う。


「一生守るから、ずっとそばにいてくれ」


ザントの顔は見えない。

でも、ナオには分かる。

きっと今ザントは、すごく照れた顔をしているのだ。

そう、最大限の、仏頂面で。でもきっと、耳だけは赤いに違いない。

ナオにはもう、前が見えなかった。

あとからあとから涙があふれて、視界をにじませていく。


「・・・返事は?」


少し低い声で言われ、ナオは返事をしていなかったことに気付く。

こくんこくんと何度も頷くと、ザントがそっとナオを抱きしめた。


「遅くなって悪かったな」


小さい声で、ナオの耳元に言葉を落とす。

ナオは首を小さく横に振って、涙声のまま言った。


「待ってて、よかったです」


ザントが腕に力を籠めようとしたその時。


「おめでとうご両人ー!」


どわあっと、家の陰やら木の後ろやら、あちらこちらから村人が湧いて出てきた。


「ん、なっ!?」

「いやー、どうなることかと思ったけど、うまくいってよかったねー」

「ねー、見てる方がドキドキしちゃったかもー」


トマとリーザが両手を合わせてハイタッチしている。


「息子の初恋が役に立つとは思わなかったなー」

「アロム、がんばったわね。今日はあなたの好きな夕飯にしましょうね」


大泣きするアロムを抱っこしているのはオミット、そのアロムをよしよししているのがエレンナ。

ほかの村人は、早くもその場で敷物を広げ、酒盛りの準備をしている。


「・・・仕組んだのかてめぇら」

「仕組んだなんて人聞きの悪い!ちょこっと背中を押してあげただけじゃん!」


リーザが言うと、ほかの3人も「そうそう」と頷く。


「これでいいでしょ?グエンさん」


トマが言うと、村人の間からグエンが出てきて、声高らかに宣言した。


「ここに、ザントとナオの婚姻が認められたことを、タシバ村村長グエンが宣言する!」


その声に、村人からは歓声が上がる。

王族や貴族は別だが、特定の宗教を持たない者たちの結婚は、本人、両家、そして両家が属する村や町の長が認めれば成り立つ。

ザントとナオの場合、2人とも家族がおらずグエンに世話になっているため、本人たちとグエンさえ認めれば成り立つということだ。


「よかったね、ナオ!」


リーザはナオの肩を抱く。

ザントはと見れば、いつの間にか村の男衆に連れていかれ、酒盛りに付き合わされているらしい。

ちなみにこのあたりでは、18歳から成人と認められ、飲酒も解禁される。

ナオは突然のことに戸惑いながらも、周りの人たちからの祝福を素直に受け取るのだった。




グエン宅の前ではいまだに酒宴が開かれている。

日はとうに暮れているが、誰かが薪を持ってきたのだろう。

大きな火を囲み、どんちゃん騒ぎはさらに盛り上がっている。

次から次へと、村人が酒やつまみを持ち寄って来るため、収まる気配がまるでない。


ナオは、そっと酒宴を抜け、自分の部屋に戻ってきていた。

うれしさはもちろんあるけれども、実感をもつ前に宴になってしまったため、先程のことが現実だったのかと心配になる。

ベッドに腰かけ、胸元から手鏡を取り出す。

若かりし頃、父が母に送ったという手鏡。

そっと手で撫で、父と母を思い出す。


「ナオ」

「ザントさん・・・」

「ったく、なんでこうなるんだ・・・」


そう言いながら入ってきたザントからは、少し酒のにおいがする。

村の男たちに祝いだからと飲まされていたのを、ナオも見ていた。


「でも、皆さんからお祝いしてもらって、嬉しいです」

「ったってよぉ・・・」


ナオは立ち上がり、ザントの前に立ち、その右手を両手で握る。


「ザントさん」

「ん?」

「・・・私も、ザントさんを、守りたいです」

「・・・」

「できることは、少ないですけど。でも、守られるだけじゃなくて、私も守りたいです」

「・・・十分、守ってもらってる」


ザントのつぶやきに、ナオは顔を上げた。


「毒矢を受けたとき、命を助けてもらった。それだけじゃない。お前がいると・・・いるだけで、安心する。少なくない。ちゃんと、守ってもらってるさ」


ザントの手が、ナオの前髪を払う。

現れた両の目からは、涙がぼたぼたと落ちていた。


「・・・ったく、しょうがねぇなぁ」


乱暴に涙をぬぐい、その顔を自分の胸に押し付ける。


「ナオ」

「・・・はい」

「もうその目に、俺以外映すんじゃねえぞ」


まだ気にしていたのかとナオは驚く。

追っ手をかわすため、本来なら家族にしか見せない目をさらした。

それしかナオがオッディスであると知らしめる方法がないため、ナオはあまり気にしていなかったのだが、ザントの方が引きずっていたらしい。

そんなナオへの独占欲が、嬉しく、そして言ったら怒られると思うが可愛らしく感じてしまう。

が。


「いやです」

「・・・え」


まさかのナオの返事に、ひきつった声が返ってくる。

このままでは誤解を生む。それが分かっているナオは、慌てて理由を説明した。


「だ、だ、だって、子どもができたら、ちゃんと目、見せたいですもん。あ、でも、秘密を守れる年になってからじゃないとだめだから、ずっとずっと後になるかもしれないですけど・・・」


自分で言いながらも、その内容に照れる。

一人っ子だったナオは、もし叶うなら、子どもがたくさんほしいと思っていた。

にぎやかで、温かな家庭を築きたいのだ。

目の前の、愛しい人と。


「え、きゃっ」


急に体が宙に浮き、ナオは小さく悲鳴を上げる。

どうやらザントに横抱きにされているらしい。ひざ裏と背中に、たくましい腕を感じる。

何が起こったのかと考えたときには、ベッドの上にぼすんと下ろされた。


「え、え、ザントさん?」


ザントはいったんナオの部屋のドアを閉めに行き、ゆっくりとした足取りで戻ってきた。

窓から入る宴会の炎が、ザントの顔を映し出す。

血に飢えた、野獣のような。

その野獣を仕留めたくてたまらない、狩人のような。

捕食者の顔に、いつか見た情欲をたたえる目。


「じゃあ早速、子作りするか」

「え、や、さっきのは、その、いつかの話であって・・・」


身の危険を感じるナオは、ずりずりと後ずさりながらベッドの枕元に逃げる。


「結婚が成立した。つまり、今日は初夜だ。誰も邪魔しねぇから安心しろ」

「そういう問題じゃ・・・」


言いかけたナオの口を、唇でふさぐ。


「やっと何も気にしないで抱けるんだ。覚悟しとけよ」


これまでは、プロポーズのことが気になり、実は十分抱けていなかった、というのはザントの言い分で。

今まででも十分に刺激が強すぎると思っていたナオには、この日からずっと、それこそ一生、ザントにいいように翻弄され続けるのだった。

ザント・・・(涙)

可愛いなーザント(笑)


おまけはあと1話で終わり予定です。

一応、どちらかというとシリアス予定。

少しお時間いただきます。

しばらくお待ちください。

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