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「お、やってるね」
自分の買いたかった本を買い、あらかじめ雪に頼んでおいた不惑の様子を覗くと、熱心に読み漁る不惑がいた。
「凌…本当に出来ると思うの?」
訝しげな雪の声。まだ不惑に対しての警戒心は取れていないみたいだ。
「あれ?ボクって、出来ないことは言わないよ」
そう、あいつにはあいつの特技がある。そして、それを理解している。
「ボクも結構読書家だからああいうのは好まないんだけどね」
「?」
コテンと小首を傾げる雪。店内じゃ無ければ抱きしめちゃうほど可愛いのに。そんな欲求を抑えて手元を指差す。
「あいつはどこまでもめんどくさいことが嫌い。だから本を読むのすら早くしたんだよ」
「それって…」
「うん。実は遠藤不惑は、速読が最大の特技なんだよ」
ざっと目を通しただけでどんどん読み進めていく。作者の苦労を無にするようであんまり好きじゃないけど、こういう時には誰よりも戦力になる。
「…でも、やっぱり好きになれに無いな…。読書って、時間をかけてゆっくり読むほうが好きだし」
複雑な表情で不惑のことを見つめる。思わず笑いがこみ上げてきてしまっ
た。
「別にいいんじゃない?この先印象が変わるかもしれないし。ボクは特に気にしないもん」
「…アバウト」
「それって褒めてるの?」
聞き返すとそっぽ向かれてしまった。こういう反応をするときは大抵肯定だから分かりやすい。
「それでもあの本の中から探すのは大変じゃいの?私もあの中から探すのは大変だったもの」
「平気平気。ただそれだけしか無いっていうならボクは不惑に赤丸付けたりしないよ」
「なら、何で?」
再び首を傾げる。長い間の付き合いで分かった密かな―速読よりも地味だけど、何よりも有利になるスキル。
「――こいつか?」
手に取った本を開き、そう一言呟いた言葉に雪が息を呑むのが伝わった。
「まぁ、ただの勘なんだけどね」
隣で雪が溜息を吐いたのが分かる。まあ…あれだけ期待持たせたのに内容が勘だからね。呆れたくなるのも分かる。
「でもね、勘が冴えると言う事は次に何をするかの選択肢を一気に絞れるんだよ」
「…それはそうなんだけどね。なんかダサい…」
「―ん?この辺りがおかしい気がする…」
「っと、そんなことしている内に色々進みそうだよ」
そう言うと再び視線を不惑へと向ける。捲っていた本を凝視している。
「こいつが当たりかな」
その本を手にボクらを探していると思われる。さて、そろそろ次に行けるかな。
「不惑~。見つけた?」
「一応見つけたけど、これじゃないのか?」
そう言って見せてきたのは、ハンス・クリスチャン・アンデルセンの作品である『マッチ売りの少女』だ。確かにこれで正解だ。しかし、この短時間で見つけるとは恐ろしく思う。
「それじゃ雪、不惑、行くよ」
「どこに」
少し前にもこんな会話したなと思いながら先頭を歩きだした。後ろで不惑が文句を言ってる気がしたけど、ただの幻聴として聞き流した。




