19ページ
「不惑、後で先生が教務室だってよ」
教室に戻るなり、漆羽がそんな朗報をくれた。全くもっていらないが。
「…さっき、ちょっと誰か殴ったんだって?」
控え目に小声で聞いてきた漆羽に首肯すると、ほんの少し目線を落とした。
「何があったの?」
「特に。ただ、ちょっとムカついたから殴っただけだ」
「本当にそれだけ?」
その質問に答えず、俺は席へと戻った。
要は、まだ帰って来なかった。
「クライム、聞いてたんでしょ」
先に二人を帰して一人だけになった屋上で要は虚空に呟いた。するとそれに答えるかのようにクライムが姿を現した。
「どうするの?伝承って言うとかなり強い連中がいるよ。キミと彼女が行くんだとしても、相当の苦戦は想像できるよ」
腕組みして冷静に言ってくるクライムに微笑を浮かべる。
「だから、この伝承をやるのは少し後。今は、何が何でも不惑に協力してもらって戦力を強化しなきゃ」
「何にせよ、彼が手伝ってくれなきゃ話にならないけどね」
「やるよ。あいつなら、ね」
伸びをして空を見上げる。空は相変わらずの快晴。次第に眠気に襲われる。
「期間を伸ばせたとしても、三日くらいだよ。それまでに出来るの?」
「出来るよ」
強い肯定の言葉に思わずクライムが口をつぐむ。
「…分かったよ。ボクの力で限界まで抑え込む」
「うん。お願いね」
そう答え、ゴロリと屋上に転がる。
「え、ここで寝るの?」
「『泥棒の昼寝』だよ。体力は温存しとかないとね」
一度欠伸を長々とすると、目を閉じ次第に寝息が聞こえてきた。
「全く…気楽なもんだね」
ツイと再び上空へと上がっていく。
「このこと、彼女にも伝えておかなきゃね」
そう言うと、クライムはメンバーの一人のところへと姿を移していった。




