第九回:露出性愛学
普段よりも大分、露出を上げた変態学講師達。
青髭が逞しい青日下が、講義室内で叫んでいる。
「皆、俺を見てくれーーーー!!!!」
彼はロングコートの下は裸らしく、コートをバッと開き、
それを見て女達がキャーと悲鳴を上げた。
オレンジ色の服をパツパツに着こなした村古木が講義を始める。
「えー、今日の変態学は『露出性愛』についてです。
少し前、昭和の時代には青日下氏のような露出狂が多かったです。
が、今ではネットで露出が出来る時代になりました。
さて、何が起こったと思いますか、暗部さん。」
暗部は突然自分に話題を振られて戸惑ったが、少し考えて答えた。
「潜在的な露出願望者達が安易に露出を出来るようになった?」
「うーん、まぁ全く当たっていないわけでは無いけれど・・・。
簡単に言うと、女性の露出狂が増えた、という事だね。」
「えぇ!?
いやでも、女性の露出はお金になるからとかイイね稼ぎとか、
別に脱ぎたいからやってるワケでは無いのでは・・・。」
「それがね、少し関係があるんだよ。
元々露出癖のある人のカウンセリングで言われていた事は、
彼らは非常に幼く、他者にも自分にもストレスに鈍感なんだ。」
「つまりは身勝手な傾向がある、という事かしら。」
「そうだね。そもそも自分がした行為に問題があると思っておらず、
相手に嫌悪感をもたらしたいワケでも無い。
ただ、自分を曝け出してそれを見られると受け入れられた気持ちになる。
コレは幼児期の赤ちゃんのままの気持ちだと考えるとわかり易いかな。」
「なるほど、オムツ替えは赤ちゃんにとっては心地良い。
それが忘れられず、他者の前で裸になるという行為が安心感に繋がる、
みたいな事かしら?」
「そう。コレがSNS時代に上手く合致しているんだ。
他人からの承認を得るために脱ぐというのは一見すると打算的に見えて、
実は構造的には露出狂のそれと似ているんだ。」
「そう考えると確かにSNSで露出している人達は幼いわね。」
「見てる側も若い女の子達がやっていると喜ぶから問題になり難いけど、
実は構造が似ているこれらの性癖。
現代は露出癖を持った女性にとっては生き易い時代かもね。」
「だけど、安易に世間に裸を晒す事はリスク大よ?
住所を特定されて凸される可能性もあるわ。」
「まぁ、そこだよねぇ。
だけどそんな事考えられないくらいに幼稚だから、
繰り返してしまうんだよ。」
そんな二人のやり取りを見ながら、青日下は何度もコートをバッと
開け閉めしていた。
あまりに単調なその行動に、もはや講習生達は青日下を見なくなった。
「おい、皆、俺を見ろーーー!!!!
ホラ、大きいだろー?俺の、ビッグマグナムだろー!?」
しかし誰も見なくなった事により、青日下は露出を止めた。
リリアーヌが言った。
「粗末なモノを何回も見せ付けた所で虚しいだけだな。
そもそも別に大きかろうが、見て嬉しいものでは無いしな。
露出性愛・・・悲しい程に報われない性癖だな。」
「男の裸なんて価値無いからね。
逆に見て貰うのにそういうお店でお金がかかるくらいだよ。」
「救いようが無いな。
しかし、厳密には精神的な病気なんじゃないのか、この性癖は。」
「リリアーヌさん、さすが鋭いね。
実は確かに精神的な病として診て貰える症状ではあるんだけど、
本人に問題意識が欠如している事が多いんだ。
『誰も傷付けていない』ってね。
その結果、カウンセリングも途中で止めてしまい、
完治しないままに誰からも見て貰えずに繰り返したりとかね。」
「もういっそ、露出狂だけの島を作ってやりたくなるな。
そこでならいくらでも露出しても良い、露出狂の楽園を。」
「まぁ、わかってるとは思うけどそれは意味が無いんだよね。」
「だろうな。私も別に本気で言ったワケじゃない。
しかし本当に、見せられた側からするとトラウマだな。」
そこへ、暗部が恐る恐る語り始めた。
「私、昔小学生の時に出くわした事あるよ。
本当にびっくりしたよ。友達もいたからまだマシだったけど、
もし一人だったら多分、怖くて逃げる事も出来なかったと思う。」
そこへ青日下が絡んで来た。
「いっそさぁ!皆が全員裸になれば良いんだよ!!
そしたら、裸である事が違法にはならないだろ!!」
彼は電動シェーバーでヒゲを剃りながら、とんでもない事を言った。
リリアーヌがそれを否定した。
「そういう、絶対に実現しない事を言うのは誇大妄想癖だな。
変態と言うのは精神的な病と線引きが難しかったり、
そもそもフェチズム自体が精神病まんまのものもあるからな。」
更に村古木が続けた。
「まぁ、人類がまだ類人猿の時代なら無かった罪だよね。
文明を持ち服を着始めた事により生まれた罪、露出狂。
そう考えると人類は文明の発展と共に変態になって来た、
と言う事も出来るんだ。」
ここに来て村古木の口から、格言めいた言葉が飛び出した。
文明の発展が人類に変態性を付与したと言うのは、
言われてみればその通りだ。
これからも新たな文化の発展と共に、AIフェチや量子フェチ等、
いくらでも細分化した変態性は広がって行くのだろう。
更に村古木が付け加えた。
「コレは露出狂に限らずなんだけど、変態は春になると出易い。
特に露出狂は暑過ぎても寒過ぎても辛いから、やっぱり春だね。」
それを聞いて、暗部がツッコむ。
「春先に現れるとか、虫みたいね・・・。」
リリアーヌがそれに応える。
「まぁ、実際知能レベルは虫だろうな。
しかし、虫との違いは群れない所だな。
大規模露出狂グループなんて発生したら、
とんでもない大事件だな。」
「まぁそんな事があったら、絶対に正義マンが助けに行くよね。
痴漢や露出狂、この辺りの凶悪さが無い性犯罪者は、
普段正義執行したいのに出来ないヒーロー願望層にとって、
比較的弱くて攻撃し易い対象になり易いんだ。
だから露出狂はやるならそうした正義マンの近くを避けないと、
最悪命まで取られかねないからね。」
「いや、研究対象としては良いが見るのは構わんが、
それを推奨したり心配してやったりはするなよ。」
そこへ暗部が、とんでも無い案を提示した。
「見せるものがあるのが悪いのよね?
いっそ事件を起こした時点で切り取ってしまえば、
もう再犯は出来ないんじゃ?」
その言葉に青日下と村古木が股間を押さえた。
いわゆる”玉ヒュン現象”だ。
局部を切り取られたり蹴り上げられたりといった場面を想像すると
股間がヒュンと縮み上がるといったものだ。
「ちょ、深夜子ちゃん、それ洒落になってないから止めて・・・。」
「あ、じゃあやっぱり効果あるんですね。
今度政治家の人と話す機会があったら案として出しておこう。」
その言葉に対して、リリアーヌが冷静にツッコみを入れる。
「いや、お前普段政治家と会うような暮らし方してないだろ。」
露出狂は確かに被害者にとってはトラウマになり得る、許されない存在だ。
だがしかし彼らには癒されない過去の傷があるのかも知れない。
そしてレイプ等の心身共に多大なダメージを与える性癖に比べると
どこか不憫で憐れみや嘲笑の対象にさえなってしまう露出狂。
撲滅よりも、どうすれば彼らが社会の一員として迎え入れられるのか、
その仕組み作りが大切なのかも知れない。
と、そこへ突然、警察やSPを連れた国の機関がやって来た。
「この変態学が国からの助成金の対象になるかどうか、
判断する為にわざわざ来てやったぞ。
さぁ、我々に価値ある講義を見せてみろ。
事と次第によっては、結構な金額を予算案で提出してやる。」
突然の国の機関の乱入により、講師達4人に緊張が走った。
もしここで国からの助成金を得る事が出来れば、暗部は解放される。
しかしそのためには、何の変態性についての講義をするかが
とても重要な判断になるようなのであった。




