第十回:変態学の成り立ち
国から助成金を得る為に必死に講義する四人
「やったぞ、ついに国が変態学について助成金の対象になるかどうか
視察をしに来たんだ!!
今回はとっておきの話『何故変態学が生まれたのか』
についてを国のお偉いさん方に向けて話してやるか!!」
青日下はとても嬉しそうにヒゲを電動シェーバーで剃りながら言った。
暗部深夜子は初めての事に戸惑ったが、もしコレで変態学に助成金が出れば
彼女は変態学ゼミを晴れて卒ゼミ出来るのだ。
そんな誰にとっても念願のまたとないチャンスに胸が躍った。
「それでは、今回は変態学の成り立ちについて話そうと思います。
あれは今からもう200年近く前の事になります。
浦賀沖にアメリカのペリー提督が来航しました。」
国家権力側の代表、国野犬彦は奇抜な衣装に身を包み、
壇上のすぐ脇に立ち講義を最も身近で聞いていた。
ピエロの成り損ないのようなその恰好は、彼なりに変態学へ寄せたものだ。
しかしやはり国の役人は頭が固く、それは変態とは呼べないものだった。
「その後の横浜での最初の日米会談の際にペリー提督は言ったそうです。
『我々の国にはポルノ文化がある。お前達の国には無いのか』と。
そこで日本側は『我々の国にも一応あるが、まだ機が熟していない』
と答えたそうです。元々日本にも変態文化はあった。
だが欧米列強の変態文化には勝ち目が無かった。
それから日本は変態文化を秘密裏に強化して行き、
ついに花開いたのが、かの昭和初期のエログロナンセンス文化です。」
国野が口を挟んだ。
「あのエログロナンセンス文化ですか?
あそこが日本の変態学の発祥だと?」
青日下は答えた。
「そうです。コレはWikipediaをご覧頂ければわかるでしょう。
1900年代に東京帝国大学、つまりは最高学府で精神分析学者の福来友吉が
変態心理学の講義をしております。」
この発言には暗部も驚きを隠せなかった。
「日本の最高学府で、昭和初期に変態学が本当に語られていたの!?」
「あぁ、そうだよ。リリアーヌと村古木は知っているよね。
変態学は別に令和の時代にポッと出て来たような奇抜な学問じゃない。
ちゃんと戦前の日本から連綿と受け継がれて来た、由緒ある学問だ。」
オレンジ色の全身タイツに身を包んだ村古木が続きを語り始めた。
「だけど当時福来が傾倒していた超心理学はイカサマであると言われ、
アカデミズムの中心から外れてしまい、民間学者の手に研究が渡った。
もしあのまま日本の最高学府で変態学が語られ続けていれば、
今頃世間の変態学への見方も違っていただろうね。」
そんな彼らの口から語られる衝撃の事実に、国の役人達は目を細めた。
彼らの代表の国野が質問を投げかける。
「では、その変態心理学を受け継いだのがこの変態学ですか?」
しかし青日下はそれを堂々と否定した。
「いえ、それとこの講義とは全く関係がありません。
この講義はあくまで平和のためのものです。
様々な信じられないような性癖がある事を知れば、
誰が何をしていようが許そうと言う気になるでしょう。
何せフェチズムは人の数だけ千差万別です。
これを聞かれている皆様も、色々とお有りでしょう。
女子高生が一度口に入れたスプーンを舐めたかったり、
はんぺんの匂いに欲情してしまったり。
そうした周りから見れば一見おかしなフェチズムが、
その人にとってはアイデンティティとなるのです。」
青日下は実はそれほど大したイデオロギーを持っているわけではない。
元々は単に彼の興味本位から始めただけなのである。
それでも妄想癖のある彼は、人を妙に納得させる力に長けていた。
国野が応える。
「まぁ、理論や筋は通っている、か・・・。
しかし補助金の対象となれば、色々と厳格な規定がある。
果たしてそれを通過出来るかどうかは、私の一存では決め兼ねる。」
そこへリリアーヌが色仕掛けに出た。
「もし上手く助成金の対象になれば、私を尋ねて欲しい。
決して損はさせないぞ。」
唇を舌舐めずりしながら妖艶な表情で誘った。
彼女の動機は実は、新たな学問の創始者と言う立場で世間から取り上げられ
『美人教授』としてアカデミックとセクシーを兼ね備えた時の人として
マスコミを騒がせたい、という思惑があったのだ。
更に村古木が続ける。
「僕の狐面の下の顔は実はホログラムだ。実体が無いんだ。
正直宇宙から来てるんだよね。
人類の波動レベルを上げるのは変態になり切る事。
だからその手助けをする為に僕はココにいるんだよ。」
もはや村古木の言葉はどこまでが本当なのかわからない。
しかし彼はリリアーヌよりも早くに青日下と出会っており、
二人の出会いについては彼らも語りたがらない事から、
村古木の目的についてはブラックボックスだった。
しかしやはり、国の役人達は懐疑的だった。
それは彼らの4人に向けられる視線を見れば一目瞭然だった。
明らかに怪しい・信用出来ないものに対する視線。
暗部はそんな視線に耐えられなくなり、発言した。
「あの、私まだこの中では一番歴が浅いですけど、
それでも変態学の魅力って、たとえどれだけ変な人でも
居ても良いっていう究極の存在肯定なんです。
コレは今の時代に人々が一番求めているものなんじゃないでしょうか。
お願いします。どうか、助成金の対象になるよう、
変態学を推して下さい。」
白と黒のふわふわでふかふかの猫の手グローブを重ねて
役人達にお願いするその姿は一部の役人に刺さったようだった。
「あの娘、可愛くね?正直娘と言うより妻にしたいんだけど。」
「今日のオカズ、決定~。」
「ってか今すぐに足コキしてくれたら助成金出すけど?
まぁ、別のモノも出すけど(笑)」
口々に暗部を褒め称える声が聞こえた。
そして講義、と言うかプレゼンの終盤には、
青日下が考案した『キミの変態性診断クイズ』が催された。
自身の潜在的な変態性についてを知れるというクイズだった。
「やっべ、俺傘の柄で突かれたいフェチだった。」
「OLさんが吐いた吐瀉物を片付けたいフェチだったわ。」
「アンパンマンをこんがり丸焼きにしたいフェチだったわ。」
それぞれに様々な診断結果が出たようである。
視察団達は一通りの講義と終盤のゲームを楽しんで行った。
他にあったゲーム内容としては、
・『フェチあるある』
・『箱の中身は何だろな』
・『テレフォン!家族に性癖暴露大会』
等があった。
国の役人達が帰った後、4人はホッとして膝を崩した。
青日下が言う。
「あぁ~疲れたぁ~。
あまりに緊張して、デコのテカりがいつもの3倍だったよ~。」
村古木は疲れからか、壇上でグゥグゥと寝ていた。
暗部が「だけど、コレでもし助成金が取れたら良いですね」と言った。
リリアーヌは相当に緊張したのか、少し服を緩めていた。
「あ~、緊張し過ぎて汗かいてしまったな。
おい、男ども。嗅ごうとかするなよ?普通に汗臭いだけだぞ。
暗部。今日は一緒に銭湯でもどうだ?」
暗部が疲れた顔から一転、パァッと明るい表情になった。
悔しさからか、青日下もそれに対抗した。
「部、別に良いもんねー。
俺は俺で、村古木と裸の付き合いして来るもんねー。
お前ら婦女子にはわからない、男の花園で『イイ事』
しちゃうもんねー。」
しかしそれは誰の目からも全く羨ましくなかった。
「ま、まぁ好きにすれば良いんじゃないか?
さぁ、暗部。早速行こうか。」
そう言って女性陣達はそそくさと講義室を後にした。
青日下は助成金が下りたら絶対にその金を流用して
風俗通いをしようと決めていた。3日後、助成金見送りの通知が来た。
それでも青日下は、風俗通いを計画通りに実行したのだった。




