第二回:足フェチ学
第二回の講義前に足を休める二人
講義室での放屁テロから命からがら脱出した暗部深夜子は、
キャンパスの片隅にある木陰のベンチに腰を下ろし
深くため息を吐いていた。
「はぁ・・・何が変態学よ。初日からただのバイオハザードじゃない。」
心身ともに疲れ果てた深夜子の隣に、音もなくスッと長い影が落ちる。
銀髪をなびかせた長身の美女、リリアーヌだった。
彼女はピッタリとした艶めかしい白い服に着替えており、ベンチに座ると
自らのスラリと伸びた脚、その太ももに細い指先をゆっくりと滑らせた。
ストッキングの生地が擦れる微かな音が、妙に扇情的に響く。
「どうした暗部。疲れているようだな。
『変態』を理解するには、まず自らの身体の境界線を意識すること
から始まる。こうして、な」
リリアーヌの尋常ならざる美しさと、大人の色気に気圧されながらも、
深夜子はゴシック女子としてのプライドを思い出す。
「な、何よそれ……。
私だって、自分のニーハイの絶対領域くらい、
自分で管理してるんだから!」
張り合うように、深夜子も自らのツートンカラーのツインテールを揺らし、黒いレースのニーハイソックスに包まれた己の太ももに、
黒い手袋をはめた手を恐る恐る這わせ始めた。
美少女と美女が並んで自らの足を愛撫する――
そこだけを見れば、まるで退廃的な絵画のような美しい光景だった。
・・・ただし、そのすぐ側に「彼ら」がいなければ、の話だが。
ベンチからわずか数十センチ離れた所から、
2つの巨大な影がじっとこちらを凝視していた。
一人、青日下濃蔵。
脂ぎった額をテカらせ、逞しい青髭をわなわなと震わせながら、
スーツのポケットの中で電動シェーバーをギュウギュウと握りしめている。その目は完全に血走り、深夜子のニーハイを食い入るように見つめていた。また興奮して素手で納豆を食べ始め、周囲に納豆臭が漂い始める。
もう一人、村古木助平。
2メートルを超える巨躯をオレンジ色の全身タイツに包み、
狐面の奥の瞳を爛々と輝かせている。
手は彼ご自慢の『カンチョーのポーズ』を忘れて、
オーマイガーッとばかりに頭の上に上げられている。
二人の男達からの刺すような、
いや、ねっとりと絡みつくような視線の暴力。
「(・・・ッ! ものすっごい見られてる! ガン見されてる!!)」
深夜子は、自分の足を触る手が恐怖でガタガタと震えだした。
青日下の鼻息が、風に乗って「シュー、シュー」と聞こえてくる。
「リ、リリアーヌさん、
あの二人めちゃくちゃ凝視してきてるんですけど。
特に青日下さん、目が完全にキマってます・・・!」
深夜子が泣きそうになりながら囁くと、
リリアーヌは自らの足を滑らせていた手をピタリと止め、
冷徹な氷のような視線を二人の方へと向けた。
「ふん。青髭め、シェーバーの粉ごとすり潰してやろうか。
村古木、お前はその狐面を尻の肉で挟み割られたいようだな?」
188cmの長身美女リリアーヌから発された超ドSな脅し文句を聞いた瞬間、青日下と村古木は「ヒィィッ!」と声を揃えて情けない悲鳴をあげた。
しかし、恐怖を感じつつも、青日下は「だが、それがいい・・・!!」
と言わんばかりに額の汗を拭い、村古木は興奮のあまりまた屁をコいた。
深夜子はベンチの上で頭を抱え、心の中で強く誓った。
(もう絶対に、世界中を変態だらけにしてそれがノーマルになって、
この二人の異常性を相殺してやるんだから・・・!!)
そうして程なくして変態学講座第二回が始まり、
初の各論講義としての題材は『足フェチ』が提示された。
リリアーヌがマイクを持ち、低い声で会場に問いかける。
「お前らの中に私の足で踏まれたいヤツはいるか?
もしいたらソイツは確実に足フェチだ。
まぁ心配するな。足フェチは変態と言うよりも、
かなり一般的な部類に入る。むしろ変態では無いかも知れん。」
青日下がそこへ割って入る。
「ちょ、ちょ、ちょっと!!
足フェチが変態じゃないだって?
だって足をいくら愛でていても子供は生まれないでしょ?
だったら私達が定義する変態の『生殖に関係ない事』に
足フェチは含まれるんじゃないの?」
青日下はヒゲが伸びる速度がかなり速いらしく、
講義(抗議)中にも関わらずシェーバーでヒゲを剃りながら言う。
「フン。
良いか、足フェチと言うのはな、男の約20%、
女の約5%が持っているかなり一般的なフェチズムだ。
全フェチの約45%を占めると言う、最も多数派のフェチでもある。」
オレンジ全身タイツに狐面の村古木がそれに応える。
「そ、そ、そんな!
だったらボクと青日下がどちらも足フェチなのは、
割合からすればおかしい事じゃないか!!
ボクと青日下だけなら、足フェチ率100%だぞ!!」
「黙れ。
それはお前らが色んな性癖を持ち過ぎているからだ。
私はあくまで一般のアンケート結果を元に話しているんだ。」
更に青日下が言葉を重ねる。
「じゃ、じゃあ、俺みたいに足の匂いを嗅ぎたいって言うのも、
足フェチなのか?」
「それは違うな。それは『においフェチ』だ。
まぁそれでも足の匂いだけを嗅ぎたいと思うなら、
それは『足のにおいフェチ』と言う事も出来るな。
学問として厳密に区分けがされていないからこそ、
ここの線引きは曖昧だと言えるだろう。」
その時、暗部深夜子がリリアーヌを見て言った。
「あ、リリアーヌさん、ストッキングが伝線してるよ?」
すかさずそこに村古木と青日下がやって来て、
スマホのカメラを向けて撮影を始める。
「むっほ~、伝線、たまらねぇ~!!」
リリアーヌは頬と眉をピクピクと動かして怒りを露わにし、
長い脚で二人を蹴りつけた。
「お前ら!!
講義の邪魔になっているのがわからんのか!!」
二人は『アヒィ~』と情けない声をあげながらも、
どこか・・・いや確実に嬉しそうにしていた。
「えー、それでこの足フェチについて、人は何故足フェチになるのか。
それが諸君らの関心事だと思う。
簡単に言ってしまえばあまり隠されていないから、
目に触れる事が多いためだと言えるだろう。
例えば心臓フェチなどはあまりいない。
それはもし、いくら心臓の色を美しいと思っても、
一般的にそれはあまり見る事が出来ないからフェチを満たせない。
しかし足フェチなら、街を歩けばいくらでも満たす事が出来る。」
そこへ青日下が茶々を入れる。
「現にこうしてリリアーヌちゃんの足はハッキリと、
皆に向けて晒されてるもんね~。
そう考えるとストッキング、いやあえて言おう、パンストであると。
このパンストって、足を裸の状態のまま晒す事になる、
恥ずかしい衣装、履き物だよね~。」
鼻息をフンフンと鳴らしながら得意気になっている青日下に、
リリアーヌの強烈なキックが見舞われた。
「ホ、ホッゲェ~・・・。」
「ふん。さて、それでは足フェチになる理由の他のものとして挙げるのが
『性的興奮を催した際に一緒に目に入って来やすい部分だから』だ。
つまり裸の写真等を見た際に足は一緒に視覚に入り易い。
そのため、足=興奮、と脳が条件付けてしまうのだ。」
そこへ暗部から質問が出て来た。
「あの、私とリリアーヌさんだと足の長さが違うんですが、
やっぱり足フェチって長い足が好まれるんですか?」
「お、何だ暗部。お前そんな事にコンプレックスを持っていたのか?
まぁ結論から言えば確かに長い足は好まれる傾向にある。
しかし、必ずしもそれだけでは無い。足は健康の象徴でもあるんだ。」
「健康・・・ですか?」
「あぁ。人間は赤ん坊で生まれた時にはまだ歩けない。
他の臓器やら手やら口やらが発達して、それから最後に足が発達する。
しかし歳を取れば最初に衰えるのも足だ。
つまりは足は健康な生体である事の証左に成り得る。
暗部の短い足が好きと言うもの好きもいるはずだぞ。」
「え”、ストレートにもの好きとか言われてショック・・・。
まぁでも私には他にも色んな武器があるはずだもん。
足はまぁ、おまけって事で。」
「重要なのは長さよりも太さや形かも知れんぞ?
いわゆるししゃも足や鳥ガラ足等、色々あるからな。」
そこへ青日下がまたも割って入って来た。
「まぁ、つまりは皆違って皆良い、と言う事かな?」
「それは全てのフェチに言えるだろ・・・。
こんな第二回で早速変態学のまとめみたいな事を言うな・・・。」
もはやリリアーヌは怒りを通り越して呆れたような顔で言った。
彼女はまだ足フェチについては語り足りないようだったが、
ここで講義終了の鐘が鳴ってしまったのだった。
本当は足フェチについてはもっと深堀り出来たはず(笑)




