第十八回:変態王との対峙
現れた変態ワールドカップの主催者『ヘンタイン』は、普通の男だった。
本当にどこにでもいそうな中肉中背、濃くも薄くも無い顔付き、
ファッションも何の印象にも残らない地味なものだった。
「私は、富と権力だけを無駄に得過ぎてしまった。
だがしかしそうした生活の中で唯一得られなかったもの、
それが変態性だった。」
リリアーヌが気に喰わないと言った表情で返す。
「ほぅ、だから何だと言うのだ。
それでこんな狂った大会を開いたのか?」
「全てを手に入れた私が持ち得なかったその力、『変態』。
その源泉をこの場に集めれば何か、私も変われる気がした。
だけど結局、私は私のままだった。」
「お前は、一体どんな変態性を持っているんだ?
足フェチだとか、声フェチだとか、何かしらあるだろう。」
「それが、全然無いんだ・・・。
性交なんてあくまで子作りのためにするものだ。
そこに個人の趣向を加える意味がわからなかった。」
「どこまで冷めて・・・いや、楽しめない人生なんだ。」
「だからこの大会を開いた。
だけどいつも私の想像を超える変態性は現れなかった。
結局人間なんて、超変態だとか言ってみた所で、
人間の枠内でちょっと変わった、くらいしか出来ない。」
「お前は一体、どんな変態性を求めているんだ。」
「人間の想像力を超えた変態性さ。
だけどそんな人間は一度も現れなかった。
これからもきっとそうさ。
そして自称・他称を問わず、全ての変態達は抹殺する。」
「!?
どういう事だ!?」
「だってそうじゃないか。
俺こそは私こそは、最強の変わった変態だとか言って、
フタを開けてみれば結局はうんこのカスフェチだとか。
そんなもの、5万回くらい見て来たって言うんだよ、こっちは。」
「いや、それはかなり変わった方のフェチじゃないか?」
「こんなものを変わったフェチだと言えるのか・・・浅いな。
この世にたった一人のフェチだとしても、意味が無い。
だってそれはこれまでの人類の歴史を振り返れば
3人くらいは居たフェチかも知れないからな。」
「だったらどうしろと言うんだ・・・。
存在しないフェチをでっち上げれば良いのか?」
『全てのフェチを愛する、”フェチフェチ”さ。』
「フェチフェチ!?」
「あぁ、それこそが結局は世界平和の近道だとも思う。
全てのフェチを愛する世界が訪れれば、
この大会は愛の祭典になる。」
話がとんでも無い方向へと急展開して、リリアーヌは焦った。
つまりはこの大会を競い合う為のものでは無く、愛の為の
互いを認め合うものにしようと言うのだ。
「しかし、先程のような暗部が命の危機になったような、
あんなやり方では愛だの平和だのとは程遠いぞ!
本気でそんな事を望んでいるのか、お前は!?」
その時、暗部がヨロヨロと立ち上がり、言った。
「フェチフェチって、少しダサくないかしら?
せめてブランドっぽく『フェチ☆フェチ』とか、
あるいは変態フェチとか、もっとあるんじゃないかしら。」
「暗部!!
体は大丈夫なのか?
しかしまぁ確かに、フェチフェチとはよくわからんな。
確かに変態フェチと言う方がまだ、わかるかも知れぬ。」
「クックック、呼び方なんてどうでも良い。
だから、フェチ☆フェチか変態フェチのどちらかにしよう。」
「あ、実は結構気にしてたんだな・・・。」
「それと、フェチが無いなんて言ったがアレは嘘だ。
私は極度の・・・。」
そこでヘンタインが言い淀んだ。
─ゴクリ。━
その場に居る誰もが息の呑んだ。
変態ワールドカップの主催者、いわば全ての変態の神のような存在。
フェチは無いと言いながら、彼の持っている隠れたフェチズムが今、
白日の下に晒されようとしていた。
しかしそこへ、彼の秘書がやって来る。
「ダメです、ヘンタイン様!!
このような場所であなた様のフェチズムを晒してしまえば、
その変態界への影響は思わぬ形で波紋を産んでしまいます!!」
「ええい、止めるな!!
私は公表する、公表するぞ!!
私のフェチ、それはな・・・それは・・・・・・!!!!」
会場中が静かになった。
おならフェチが放つ『ぶぷぅ~』と言う音や、
騒音フェチが放つ『今すぐサッサと引っ越し』と布団を叩く
リズミカルで小気味良い音。その他あらゆる音フェチ達の出す音、
それ以外はほぼ静かにシーンとしていた。
(要するに、全然静かでは無かった。)
「私のフェチ、それは・・・・!!!!
あ、やっぱり一人称俺に変えようかな。
それとも、俺様が良いかな?」
ヘンタインは言い淀み、関係無い事を言い始めた。
リリアーヌがスリッパで彼の頭を殴った。
「えぇい、サッサと言わんか!!」
「よし、言うぞ、言っちゃうぞ。
私のフェチ、それは・・・・・・・!!!!
・・・・・・・・、
『女の子フェチ』だ。
キャー、言っちゃったー!!」
はしゃぐヘンタインに対して秘書が言った。
「ちょ、ヘンタイン様、それを言っちゃったらもう・・・
皆驚いちゃいますよ!!」
・・・・・・・・・・・・。
一同、開いた口が塞がらなかった。
ポカンとした中で、暗部が言った。
「女の子フェチって・・・。
いやそれもう、男の人なら皆そうでしょ。
別にあえてフェチと言う程の事も無い普通の・・・。」
リリアーヌは争う気が失せてしまった。
「そうか、女の子フェチ、か・・・。
ちなみに、そっちの秘書は?」
「あ、あの、私は恥ずかしながら、男性フェチでして・・・。」
何だコイツら、そんな空気が全体の中で流れた。
フェチとは一体?と哲学的な疑問を持つ者も現れた。
そしてこの場に集まった世界各国のフェチ達はゾロゾロと帰路に着いた。
もうやってられるか、こんな大会。そんな言葉が口々に聞かれた。
オレンジ全身タイツに狐面の巨漢、村古木が言った。
「結局、何だったんだろうね、この大会。」
青日下が言った。
「まぁ、フェチなんて人それぞれさ。
それにしたって拍子抜けだったな。
女の子フェチなんて言うくらいなら、
フェチ無しって言う方がまだマシだったぜ。」
肩を落として落ち込んでいるヘンタインに、暗部が駆け寄った。
「大丈夫?
アナタは別に誰かを傷付けたワケじゃないよ。
だから、そんなに落ち込まないで?」
しかしその瞬間、ヘンタインの脳内に衝撃が走った。
「はぅん!!(はぁとまぁく)」
「え!?何、ど、どうしたのかしら!?」
「あの、今から私、ツートーンカラーのツインテールで
ふわもこ猫の手グローブをした優しい女の子フェチになりました!」
それはそのまんま、暗部深夜子の事だった。
「え、私のフェチ!?」
「ハイッ、こんなに優しくされたの初めてで・・・。
もう、あなたでしか興奮出来ません!!
どうか私と結婚して欲しい。
金ならいくらでもある。最高の贅沢な生活を提供するよ。」
「・・・・・。
あの、いらないです、そういうの。
私、ただ普通にゴシックな生活を妄想しているのが楽しいから。」
「え?
だって、私ならその妄想を具現化してあげられるよ?」
「私、いつだったか気付いたんです。
妄想は具現化してしまえばそこで夢は終わるんだな、って。
だったらずっと妄想でいた方が可能性が無限で楽しいんです。」
「尾曾だろ、オイ・・・。
どんな女の子のも靡く私の理想的な夢の生活、何故断る?」
「そもそもあなた、奥さんいっぱいいるでしょ。
私、猫みたいな所あるから匂いに敏感なんです。
たくさんの女の人の匂い・・・。
女の子フェチって言うのは本当みたいだけど、
特定のフェチが無いからこそ、かなり悪質です。」
「あ・・・あぁ・・・あ”あ”あ”あ”あ”----!!!!
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!
私の誘いを断る女の子なんて・・・そんなの・・・!!」
会場に残っていた人々(変態達)が事態を察知して逃げ始める。
リリアーヌが言った。
「暗部!!逃げるぞ!!
コイツかなり気が触れて来ている。
何をしでかすかわからんぞ!!」
「そんなの、そんなの・・・!!」
ヘンタインのボルテージは最高潮に上がっている。
一体彼はこの後、何をすると言うのだろうか。
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