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第十二回:SM学

挿絵(By みてみん)

BDSM体験をしてみた4人



「さて今回は、変態学の中で最も一般的に知られているSMについてだ。」


青日下が自らを拘束具で締め付けながら言った。

女性陣二名に関してはBDSMに使用されるボンデージ衣装を下に着込んだ。


「しかし何と言うか、この衣装って本当に着てる側が恥ずかしいですよね。

 セクシーだし、コレ見て欲情されちゃうんじゃないかな?」


暗部が少し戸惑いながらそう言うと、リリアーヌがそれに応えた。


「まぁ最も、日本人的な感性で言えば特に非日常なのだろうな。

 しかしBDSM発祥の西欧からすると支配と服従は日常茶飯事だ。」


いつもの狐面の内側に自らの唾液や鼻水が固着し非常に臭くなった為、

洗濯して今回はタヌキのぬいぐるみの顔部分を付けた村古木が言う。


「だけどこんな一大テーマ、たった一回の講義で扱い切れるのかな?」


青日下がそれに応える。


「もちろん、SMの真髄までを今回で話せるワケが無い。

 なのであくまで今回は表層を拾っただけの話になると思う。

 それにSMは派生があまりに多くて、それらの各論を語る方が

 より実践的で面白いかも知れない。」


暗部が疑問を投げつける。


「派生って、どんなの?」


「そうだな、例えば窒息フェチ。コレは明らかにM寄りのフェチだ。

 破壊フェチなんかはS寄りだよね。とにかくあらゆるフェチの多くは

 SとMに一定具合で寄ったものである場合が多いんだ。

 中でもMのバリエーションがあまりに多過ぎるよね。」


「それって、人間は本質的にはM側だって事かしら?」


「まぁ、人間は退屈を嫌うからね。

 とにかく新たな刺激を求めたり、あとはまぁ、

 常に性欲で物事を捉えていると、想像力が膨らむよね。」


「ちなみに、SとMそれぞれの男女比ってやっぱり、

 男性はS、女性はMが多いのかしら?」


「まぁ、一般的にはそういう事になってるよね。

 だけどコレはまぁ社会的な一派常識とか色々絡むから、

 一概には言えないんだ。あと時代によっても変わる。」


「時代・・・じゃあ今の時代はどうなっているの?」


「昔は男はS気質でいる事がカッコいいとされていた。

 だから男性がMだとカミングアウトすると奇異の目で見られた。

 だけど今はあらゆる多様性が許されている時代だからね。

 自らの正直な性癖をカミングアウト出来るようになり、

 男性のMもかなり増えているよ。」


そこへリリアーヌが付け加えた。


「そもそもSだのMだのは気分だったりグラデーションだ。

 どちらも100%と言う人間もいなければ、役割もある。

 大切なのは傾向と割合だな。」


そこへ青日下が茶々を入れる。


「つまり、ドSに見えるリリアーヌちゃんも実はイジめて欲しい、

 ドMちゃんな一面もあるって事だよね?」


鼻の下を伸ばしながら言った青日下に、いつもなら蹴りが入るはずだった。

しかしリリアーヌは珍しく、しおらしく答えた。


「まぁ、私にだってそういう側面がある事は否定しない。

 やはり女として生まれた以上、圧倒的な力で組み伏せ垂れたい気持ちは

 心のどこかにあるからな。」


それを聞いて青日下は興奮し、リリアーヌを押し倒そうとした。

だが、力及ばず逆に蹴り飛ばされてしまった。


「残念だったな。私はフィジカルがかなり強い。

 青髭だって日本人の男としては十分な体格だが、

 私を組み敷ける程の力は無いと言う事だ。」


暗部がこの様子を見ながら言葉を発した。


「相性の良い相手探しが大事って事ですねー。」


「あぁ、それは本当にそうだぞ。

 先ほどSとMはグラデーションだと言ったが、

 それぞれがお互いの性癖をカバーし合うくらいが良い。

 S40:M60なら、S60:M40の相手と付き合えば良い。

 まぁ最も、そう上手くは行かんがな。」


そこへ青日下がガニ股の後に内股になるを繰り返しながら、

とても気持ちの悪い動きで少しずつ二人に近付きながら言った。


「僕ちゅわん、S100のM100、どちらも行けちゃう最強でーす!!」


手を〇と×の中間のような動きでウネウネと動かす彼を見て、

リリアーヌは手に持った鞭で強く叩きつけた。


「あっひぃーーー!!!!!

 たまらない、女王様~!!」


青日下は涎を垂らしながら喜んだ。

それを見て暗部は「キモ・・・」と小さく言った。

リリアーヌが言う。


「まぁ、このような体を痛めつけるハードなSMもあれば、

 ジワジワと精神を蝕んで行くような地味だが精神的なSM、

 そのプレイスタイルは様々ある。

 各人ともに自らの心身の限界を考えた上で、

 最適な遊び方で楽しんで欲しいものだな。」


「そうですね(何だか教科書的な結論だなぁ)。

 ところで、男女のSM割合を組み合わせたらどんな風になるんだろう?」


「あぁ、それはな・・・S女は100%、M男が見つかる。

 と言うより、M男は余りまくりなんだ。

 そしてM女は必ずS男を見つけられる。その質は様々だがな。

 こうして歪な構図が生まれるんだ。

 いつも余るのは勘違いのS男と我儘なM男ばかりだ。」


「結局、アブノーマルな世界でも余るのは男なんですね・・・。」


「残念ながら金を払う側なんだよな・・・。

 まぁしかしそれが世の理と言うものだ。

 こうやって金は世の中を回っている。」


「中々、皆が性癖を叶えられる世界って無いんですね。」


「いや、そうでも無いかも知れないぞ。

 これからもしAIが発展して人々の性癖を補完出来れば。」


「AI女王様って事ですか!?」


「あり得なくは無い話だ。

 人間にとって性癖とは思いのほか大切な要素だからな。

 それを満たす事が出来れば多少の空腹や睡眠不足等、

 本能を満たすのに足りていなくても事足りるかも知れん。

 それくらいに性癖を満たす事は大切だからな。

 特にその中でもSM傾向は大切な指標だ。

 常に一定では無いからこそ、血圧のように今日のSM指数を測る、

 そんな時代が来るかも知れないな。」


「SMマッチング・・・そして相手は最適なAIとかも、アリかもですね。」


「まぁ、今の常識から考えると少し情けなくは映るが、

 新しい時代ではそうやって新たなテクノロジーが性癖に組み込まれる、

 それによって人々は常にフェチズムが満たされた状態になるかもな。」


そこに村古木が会話に入って来た。


「常にフェチズムが満たされる・・・それは今、結構そうなんじゃない?」


「どういう事だ、村古木。」


「だって、直接接触はまだだとしても、同人誌やエロ音声、

 AV、VR・・・あらゆる媒体が様々な性癖を網羅してる。

 自分の好みのシチュエーションの再現ややって欲しい事、

 既にかなり叶えられつつあると思うんだ。」


「まぁ、ひと昔まえに比べたらそうか・・・。

 しかし、まだ何か足りないという感覚を人は持っているだろ。」


「どこまでテクノロジーが人の性癖を満たしたとしても、

 やっぱり自分の性癖を受け止めてそれを叶えてくれる

 生身の人間というのは貴重だから、それは常に不足してるよね。」


「人々のフェチズム満足の為に、そうした教育も必要かも知れん。」


「物質や経済が十分過ぎる程に豊かになれば、今度はそういった

 精神的な豊かさの面が注目されるかもね。

 これはまた違ったフェチズムになるけれど、性的サービスロボ、

 セクサロイドみたいなものもいつか出来ると良いよね。」


こうしてSM学と言うにはあまりにフェチズム全体に話が寄ってしまった。

それくらいにSM学は全てのフェチズムを考える上での基礎になる部分で、

今後も様々な各論フェチズムの中にその片鱗を見る事が出来る。


そして全ての人々がSMの両輪を常に持っているという意識が大切なのだ。

更に相手もそんな両輪を持った人間であるという事を理解すれば

争いや諍いは起きない。そしてそれこそが愛の第一歩なのかも知れない。

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