第十三回:寝取られ学
寝取ら・・・れ?
「皆、NTR(寝取られ)は好きかー?」
剃り残しの青ヒゲが凄い事になっている青日下濃蔵が、
講義室に入るなり大声でそう言った。
講義生達には動揺が走った。
「寝取られって言われても、そもそも恋人がいないんだけど・・・。」
「あんなモノにハマるヤツの気が知れない。」
「寝取られるよりも寝取りたい。いつだってワシはそう思ってる。」
口々に好き放題な声が聞こえた。
しかし青日下はそれらを一蹴した。
「あのな、寝取られの良さを理解しないまま死ぬ事は、
インド料理のビリヤニを食べないまま死ぬのと同じ事だぞ。
人生を凄く損してるって事だ。」
しかしそれにもまだ『いや、大抵の日本人は食べないまま死ぬだろ』と、
反発が聞こえた。
「あのなぁ、世の中には寝取られだけじゃない。
『寝取らせ』と言うのもあるんだぞ。
わざと自らのパートナーを寝取らせるんだ。
まず寝取られの良さがわからないと、この境地まで達せないぞ。」
『そんなの理解しなくて良い』等と反発もあったが、
青日下は冷静にこう返した。
「皆、最初はそう言うんだ。あぁ、わかってる。
だけどな、一度抗い難い寝取られたと言う事実を経験すればわかる。
逆ギレして殺人したら捕まるだけだ。裁判も結局こじれる。
結局の所、最も平和的な解決は寝取られた側は泣き寝入りなんだ。」
とんでも無い青日下の結論にリリアーヌが反論する。
「いや、不貞行為なら普通に裁判すれば勝てるだろ。
あえてわざわざそんな卑屈な所に自らを貶めくなても・・・。
まさか、これも前回のSM学で言う所のマゾと言う事か?」
「正解。人はすべからくマゾであるべきなんだよ。
そうした方が人生を上手くやり過ごせるからね。
それではまず、寝取られ性癖の方々からアンケートを取った、
『寝取られの魅力』について話します。」
暗部深夜子はただただ黙って、喉をゴクリと鳴らせながら聞いていた。
「まず、自分とのプレイでは見る事が出来なかった反応が見られる事。」
ここにオレンジ全身タイツに狐面の巨漢、村古木助平が割って入って来た。
「そうか、普段はマンネリになりがちな二人のプレイ内容に、
全然別のプレイスタイルの人を入れる事で新鮮さが生まれるのか。」
「んー、まぁ38点くらいかな・・・。
人は基本的に同じ相手とばかりだと段々飽きてしまう。
そりゃ、内容も感じ方も強弱や体格、におい。全てが同じだ。
しかしそこへ全然別の相手が現れた時、全てが違う。
力の強弱やプレイの長さ、常に感じる相手の匂いや声、
コレはとても強い新鮮な刺激になるんです。
そして生物としての本能でも、やはり新しい遺伝子は魅力的だ。
つまり、新しい相手とのプレイは必要以上に興奮するように出来てる。」
「生物とはどこまでも利己的だな。」
冷徹にリリアーヌが評した。
「ふふ、まぁそうだよね、リリアーヌちゃん。
次に、優越感を感じるというものです。
コレはつまり、寝取らせ相手に対して『お前は今しか抱けないが、
俺はいつでも抱けるんだぜ』という優越感を感じるというものです。」
暗部がコレを受けて感想を述べた。
「私は嫌だな・・・そんな自分の優越感の為に使われるの。」
「もちろん、こうした歪んだ優越感を持つ為に行われる寝取られは
理解を得難い事もあり、全ての人が実行出来るワケでは無い。
だからこそ、こうした実践を出来る事そのものが優越感に繋がる、
かも知れないね。」
村古木がこれを受けて残念そうに言った。
「まずそもそも一人目のパートナーさえ得る事が難しい僕からしたら
寝取られなんて贅沢な性癖だなぁ。」
「ハハハ、村古木さんにもいつか必ずパートナーが出来ますよ。
さてそれでは3つ目に、寝取られから帰って来たパートナーの話を
聞く事で興奮出来る、というものがあります。」
リリアーヌがニヤリと笑いながら言う。
「あぁ、コレなら私は出来るぞ。
より詳しく伝えてやる事で嫉妬させて楽しんでやりたいな。」
コレに暗部が更に言葉の応酬を続ける。
「わ、リリアーヌさん性格悪っ!
それが出来るのはリリアーヌさんだからですよね。
私は全然そういうの向いてないです。」
そうした言葉を受けて青日下が講義を続ける。
「まぁこのように、寝取られに対する反応は様々です。
0か100か、と言われるように向き不向きがあります。
ただし、世の中その魅力を理解出来る事は多い方が楽しめる様に、
出来る事は多いが良いに決まっています。」
その時、講義生の中の一人から声が上がった。
『あの、青日下さん・・・。
ちょっと講義を聞いていたら興味が湧いちゃって。
その、俺の彼女を今夜、寝取ってくれませんか?』
「え?あぁ、別に構いませんが、・・・後悔するなよ?」
青日下のヒゲが一瞬、更に濃くなったように見えた。
~翌日~
この日も寝取られ学が続けて語られた。
そうした中で、寝取りを依頼した生徒と青日下との応酬があった。
『青日下さん、彼女は、どうでしたか・・・?』
「あぁ、とても良かったよ、お前の女。ちょっと臭かったけどな。
何より君との普段のプレイでは満足出来ていない事が出来て、
とても良かったみたいですねぇ(ニヤァ~)」
『え・・・青日下さん・・・一体それはどういう・・・』
「こんな公衆の面前で言っても良いのかな?
まぁ良いや、言っちゃおうか。キミ、アレが凄く短いんだってね。
僕のでいつもなら入らない所まで広げられて、感動したってさ。
ハマっちゃいそうって言ってたなぁ。」
講習生の顔がみるみる青冷めて行った。
「ちなみにコレが、その時の彼女の満足気な表情です。」
青日下がそう言うと、スクリーンにデカデカと女性の顔が映った。
それはあまりに満足気であり、快感の余韻が感じられた。
『そ、そんな・・・嘘だ・・・いやでもコレが現実なのか・・・?』
「ほら、自分の心に聞いてごらん?
本当にただ絶望しか無いかな?
ドクドクと脈打つ心臓の奥の方から、マゾの血が騒いでいないか?
股間は本当に、シュンと凋んだままか?それとも・・・。」
その時、寝取られを依頼した講習生の隣にいた講習生が言った。
「うわっ、コイツ・・・めちゃくちゃ勃ってる!!
ってか、何か漏れてね!?匂いもする!!」
何と、寝取られを依頼した講習生はとっくに興奮がピークに達し、
触れてもいないのに射精してしまっていたのだった。
『ぐや”じぃ・・・だけど、何故だか興奮します・・・。』
暗部は哀れそうな顔をして、口元を手で押さえて顔を背けた。
リリアーヌは「フッ」と余裕の笑みを浮かべた。
村古木は貰い快感により、自身もカウパーが漏れていた。
「まぁ、人は実際に経験してしまえば寝取られの魅力に気付きます。
だけど大抵、最初は抵抗をします。それは未知への抵抗です。
一度事実として積み重なってしまえば、正当化するしかありません。
そうなった時、自分なりの寝取られへの向き合い方が生まれるでしょう。
一生寝取られとは無縁でいる、と言える者だけが否定して下さい。」
講義室中が緊張で包まれた。
青日下が付け加えた。
「ただし、寝取られに大切な事はパートナーの理解です。
自らの情けない性癖の為にパートナーを無理矢理付き合わせれば、
プレイでは無く本当に心が寝取られてしまうかも知れません。
そうなればもう『寝取られマゾ』として生きるしかありません。」
『寝取られマゾ』。
それは寝取られをプレイとして楽しむだけに留まらず、
それでしか興奮出来なくなってしまった哀れな存在。
しかしあまりに刺激の強い寝取られ性癖は、
この寝取られマゾに紙一重のバランスの性癖だ。
人生で得られる様々な性癖・フェチをたった一つの寝取られに縛られ
それでしか快感を得られなくなる・・・。
結果として快感が得られれば良いと捉えるか、
それとも様々な楽しみを放棄する非常に危険な行為と捉えるのか。
性癖・フェチは人の人生をも左右する。
どうか寝取られ性癖に足を踏み入れる場合は、慎重に。




