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誰も知らないスタート地点 ~未踏の遺跡から始まる気ままなVRMMO探索記~  作者: モーリス


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13/34

観測者たちの見上げる空

深淵存在覚醒率0.01%という不穏な表示が視界から消えた後も、第一封鎖層全体を満たしていた微かな振動は収まる気配を見せず、むしろ時間が経つごとに僅かずつ大きくなっているような感覚さえあったため、サクは自分の足元から遥か下方に存在するであろう深淵を見下ろしながら、今しがた目の前で起きた一連の出来事を整理しようとしていた。


 歴史値。


 継承候補。


 第一封鎖層。


 記録管理者。


 観測外事象。


 そして、自分の名前を知っていた正体不明の人影。


 ここへ辿り着くまでにも常識外れの出来事は何度も経験してきたが、今回ばかりは流石のサクも「何かとんでもないものに触れてしまった」という感覚を覚え始めており、しかしだからといって恐怖や後悔を感じているわけではなく、むしろゲームを始めた頃からずっと抱いていた「誰も見たことのないものを見てみたい」という好奇心が、今まで以上に強く刺激されていることに自分でも苦笑していた。


「いや、情報量多すぎるだろ……」


 思わずそう零す。


 すると人影は小さく笑った。


「そうだね。普通ならもっと段階を踏むんだけど、ちょっと色々と予定が狂っちゃってるからなぁ。本当なら歴史値もあと数倍は必要だったし、君が第一封鎖層へ来るのもまだ先の話だったはずなんだけど、どういうわけか予想よりずっと早くここまで来ちゃったから、こっちも準備が追い付いてないんだ」


 軽い口調だった。


 だが、その言葉の端々からは妙な違和感が滲んでいる。


 まるで何千年も昔から予定を立てていた人間が「少し予定が早まった」とでも言うような、普通ではあり得ない時間感覚を持っているように感じられるのだ。


 そして、隣で呆然としていたリル=アーカイブもようやく我に返ったのか、慌てた様子で二人の間へ割って入る。


「駄目です! 本当に駄目です! 記録開示制限、歴史値不足、権限不足、継承段階未到達、世界法則安定化条項第六百四十二項、及び観測者保護機構に基づき、現在開示可能な情報は制限されています!」


「相変わらず真面目だね、リル」


「当然です! 本機は管理機構です!」


「うんうん、知ってる」


「知っているなら従ってください!」


「でも久しぶりなんだよ? 何千年ぶりかも分からないくらい久しぶりに人と話せるんだから、ちょっとくらい許してよ」


「許しません!」


 サクは思わず笑いそうになった。


 訳の分からない状況なのに。


 世界の秘密に触れている最中なのに。


 会話だけ切り取れば、まるで長い間離れていた家族の再会みたいだったからだ。


 しかし、その時だった。


 第一封鎖層の天井を構成している巨大な結晶群の一つが突然明滅を始める。


 いや。


 一つではない。


 二つ。


 三つ。


 十。


 数十。


 空間全体の結晶群が共鳴するように光り始めたのである。


 それを見た瞬間、人影の声色が変わった。


「……あぁ、まずいな」


 今までの柔らかい調子とは違う。


 初めて緊張が混じった。


「リル」


「はい」


「空を見せて」


「了解しました」


 直後。


 円環構造物が回転を始める。


 そして、第一封鎖層の上空へ巨大な立体映像が展開された。


 そこに映し出された光景を見た瞬間、サクは息を呑む。


 夜空だった。


 だが、それは現在サクたちがいる地下遺跡の天井ではない。


 地上。


 王国。


 帝国。


 海洋都市。


 雪原。


 砂漠。


 世界各地の夜空。


 そして、その全てに共通する異変が起きていた。


 星が増えている。


 いや。


 違う。


 星ではない。


 巨大な光の輪。


 薄く、ほとんど肉眼では確認できないほど淡い光が、世界全体を覆うように空へ広がっていた。


 サクには意味が分からない。


 だが。


 人影だけは顔色を変えていた。


「まさか……」


「まだ早い」


「早すぎる」


「なんで今なんだ」


「君はまだ起きるはずじゃなかっただろ」


 その呟きを聞いたサクが問い掛けようとした瞬間。


 映像が切り替わる。


 そして次に映し出されたのは、とある王国の都市。


 そこでは、広場に集まったプレイヤー達が一斉に夜空を見上げていた。


━━━━━━━━━━━━


【World Anomaly Online 総合掲示板 Part132】


103:名無しの冒険者


おい空見ろ


104:名無しの冒険者


なんかあるぞ


105:名無しの冒険者


流星群?


106:名無しの冒険者


違う


107:名無しの冒険者


なんか輪っかある


108:名無しの冒険者


いや前からあった?


109:名無しの冒険者


絶対なかった


110:名無しの解析勢


画像比較した


昨日の夜空と一致しない


111:名無しの冒険者


は?


112:名無しの解析勢


星座配置も微妙に変わってる


113:名無しの冒険者


え?


114:名無しの冒険者


いやいや待て待て


115:名無しの冒険者


空変わるとか聞いてないぞ


116:名無しの解析勢


運営発表なし


117:名無しの冒険者


また地下遺跡か?


118:名無しの冒険者


何でも地下遺跡にするな


119:名無しの冒険者


でも最近の異常全部あそこ絡みじゃね?


120:名無しの冒険者


もう怖いわ


━━━━━━━━━━━━


 掲示板の騒ぎとは別に、世界そのものが静かに変化を始めていた。


 地上では誰も気付いていない。


 気付けるはずもない。


 夜空に浮かぶ光の輪の正体が、この世界を覆っている「何か」の外殻であり、それが今まさにゆっくりと再起動を始めているなど、誰一人として想像していないのだから。


 そして。


 第一封鎖層。


 映像を見上げていた人影は、珍しく困ったような顔を浮かべながら小さく溜め息を吐く。


「……参ったな」


「どうやら」


「向こうも、サクに会いたがってるみたいだ」


 その瞬間。


 深淵のさらに奥。


 誰も到達したことのない暗黒の底で。


 巨大な存在が。


 ほんの僅かに。


 笑った。


⸻


【深淵存在覚醒率:0.03%】


⸻


【観測を開始します】


⸻


そして。


 誰にも見えていないはずのシステムログが、静かに新たな一文を刻む。


⸻


【対象認識】


【継承候補:サク】


【評価開始】


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