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前世で笑われた解体師の俺、1000年後に転生したら素材知識が世界唯一の宝になっていた件  作者: いなばの青兎
第2章 王都と記録帳

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第20話 影が動く

 全国調査の出発を一週間後に決めた。


 その間にやることが山積していた。各地への事前連絡、物資の準備、ヴォンへの理論の確認——そしてもう一つ。


 ガルダが戻ってこない。


 「書記局の知人から何か聞いたか確認に行きます」と言って、二日前に出かけたまま戻らない。


 「三日後に戻ると言っていたので、まだ範囲内ですが」とエリカが言った。


 「ガルダさんは慎重な人だから、過度に心配しなくていい」


 「でも、書記局に絡む調査は危ないんじゃないですか」


 「……そうかもしれません」


 俺は王都の地図を見た。書記局の場所が分かれば会いに行けるが、場所を聞いていなかった。


 ソフィアに頼めば把握できるかもしれない。


* * *


 ソフィアのところに行く前に、宿の入口で知らない男と目が合った。


 三十代、冒険者風の格好。腰に剣を下げている。俺を見て、少し目を細めた。


 「解体師のレン、ですか」


 「そうです。あなたは」


 「シリュといいます。ガルダ調査員から連絡を受けてきました」


 「ガルダさんから」


 俺は少し考えた。ガルダが出かける前に一言だけ言っていた。「何かあれば、旧知の仲介者を通じて連絡します。名前はシリュです」——その名前だった。


 「ガルダさんから、あなた方のことは聞いています。信頼できる、と」


 「書記局の内側にいる人間から、外に連絡を取れなくなりました。私が仲介です」


 エリカが俺の後ろに来た。


 「ガルダさんは今どこにいますか」とエリカが言った。


 「書記局の管理下にある施設です。拘束されていますが、怪我はありません。ただ——書記局が、あなた方の動きを把握していることが確認されました」


 「どこまで把握されていますか」


 「オルムに行ったこと、ヴォンという人物と接触したこと、写本の存在——全部です」


 全部、か。


 計画の全てを知られている。修正が必要な部分と、まだ知られていない部分がある。頭の中で、素早く切り分けた。


 「書記局は、影の組織と繋がっていますか」と俺は聞いた。


 シリュが少し驚いた顔をした。


 「……知っていたんですか」


 「推測です。封印核の情報を管理していた組織と、書記局の非公式記録管理が同じ目的に向かっているなら、繋がっている可能性が高い」


 「正確には——書記局の一部が、その組織に属しています。全部ではない。内部でも、ガルダ調査員のように危険を察知している人間がいます」


 「ガルダさんを助け出せますか」


 「時間がかかります。今すぐ動くと、向こうも動きます」


 エリカが言った。「それよりも——相手がこちらの動きを全部知っているなら、全国調査の計画も知られていますか」


 「写本の内容は把握していないと思われます。ヴォン自身が長年隠し通してきたので。ただ、あなた方がヴォンと接触して何かを持ち帰ったことは把握されています」


 「向こうが先に動く可能性があります」とヴォンが部屋の奥から言った。「全国調査を始める前に妨害してくる」


 「では計画を変えます」と俺は言った。「出発を三日後に早める」


* * *


 その夜、シリュを通じてガルダから短い手紙が届いた。


 「私は大丈夫です。書記局の内部に協力者がいます。動きを見ながら機会を待ちます。あなた方は予定通り進んでください——私がここにいることで、向こうの注意をこちらに向けておきます」


 エリカが手紙を読んで言った。


 「ガルダさんって、そういう人ですね」


 「どういう人ですか」


 「俺が行くから進んで、って言える人」


 俺は手紙を折った。


 「……そうですね」


 「心配ですけど——信じましょう。ガルダさんを」


 「信じます」


 ヴォンが地図を広げた。九か所のダンジョン跡が印されている。


 「順番を決めましょう。六角形のパターンで、効率よく回るルートを」


 「北から始めます」と俺は言った。「封印崩壊が早い地点から優先します」


 「北東の第一拠点、フィアル跡地が最も崩壊が進んでいると思われます」


 「そこから始めましょう」


 地図の上に、俺たちの進む道筋が引かれた。


 前世のルドは一人だった。解体師は一人でやる仕事だった。


 今は違う。エリカが隣にいる。ヴォンが理論を持っている。ガルダが内側で待っている。シリュが仲介をしている。ソフィアが後方を支えている。


 「出発は三日後の朝」と俺は言った。


 「準備します」とエリカが立ち上がった。


 「素材を無駄にするな。命を無駄にするな」


 前世の口癖が、また出た。


 「感謝を受け取ることを、俺は恐れていた」


 エリカが振り返った。


 「今は」


 「……受け取れるようになってきた気がします」


 「十分です」とエリカが言った。「それで十分です」

ブクマや評価をいただけると、続きの執筆がすごく捗ります。

楽しんでいただけたら、ぜひ応援してやってください!

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