表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世で笑われた解体師の俺、1000年後に転生したら素材知識が世界唯一の宝になっていた件  作者: いなばの青兎
第2章 王都と記録帳

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/22

第19話 タイムラインの再試算

 王都に戻ったのは翌日の夕方だった。


 ヴォンは馬車の揺れをあまり好まない様子だったが、文句は言わなかった。道中、写本を抱えたまま目を閉じていた。眠っているのかと思ったが、「考えていました」と言った。


 「何を」とガルダが聞いた。


 「六角形のパターンで全国のダンジョン跡を活性化するとして、どの順番で回るかを」


 「もう計画を立てているんですか」


 「百年間待っていましたので。考える時間は十分にありました」


* * *


 ソフィアに報告した。


 「ヴォンという人物が百年前の写本を持っていた。制御方法が判明しました」と俺は言った。


 「具体的には」


 「全国のダンジョン跡に残っている封印核を活性化させます。六角形のパターンに従って配置されているダンジョン跡を順番に回り、各地の封印核を共鳴させる。全点が共鳴状態になれば、崩壊を止めることができます」


 ソフィアが地図を広げた。ガルダが地図の上に各地のダンジョン跡の位置を書き込んだ。


 六角形のパターンが浮かんだ。


 「全部でいくつありますか」


 「主要な拠点が九か所」とヴォンが答えた。「六角形の頂点と、中心と、補助点を合わせて九か所です」


 「全部回るのにどのくらいかかりますか」


 「馬で移動すれば、二か月から三か月」


 「今から始めれば——」


 「その前に」とガルダが言った。「封印崩壊のタイムラインを再試算する必要があります」


 全員がガルダを見た。


 「新種の出現頻度が上がっています。先週から今週にかけて、王都周辺だけで九件。先月は一週間で三件でした。三倍になっています」


 「急加速している」と俺は言った。


 「新種の出現は線形ではなく指数的に増加しています。この加速パターンが続けば、従来の百年計算は成立しません」


 「このペースが続くとして逆算すると——百年ではありません」


 「どのくらいですか」


 ガルダが数字を書いた。


 「……五年から十年」


 室内が静かになった。


 誰も何も言わなかった。


 「百年の予測が、十年になった」とエリカがやっと言った。


 「はい」とガルダが静かに答えた。


 エリカがヴォンを見た。ヴォンが俺を見た。俺は、地図の上の九か所の印を見た。


 「封印が加速的に崩壊しています。新種の出現が急増すると崩壊速度も上がる——そのサイクルが回り始めていると思われます」


 「では九か所を三か月で回っても」


 「足りるかどうか分かりません」とヴォンが言った。「活性化の効果がどの程度封印を延長するかは、実際にやってみないと分からない。理論上は百年以上の延長が見込めますが——現在の崩壊速度が速すぎれば、延長が追いつかない可能性があります」


* * *


 翌朝、ヴォンと二人で王都の一角の広場に出た。


 「実験します」と俺は言った。「王都から最も近いダンジョン跡はどこですか」


 「西南に半日——かつてのオーバーグ・ダンジョンの跡地です。今は廃地になっています」


 「そこで封印核を活性化できるか確認します」


 ヴォンが写本を開いた。


 「理論上は——解体師がその場に立ち、核に触れながら意識を核の共鳴に向ければ、活性化が始まります。ただし何が起きるかは実際にやってみないと」


 「どんなリスクがありますか」


 「過共鳴という状態が起きる可能性があります。制御できなくなれば、小規模ながらも大消失に近い現象が起きるかもしれない」


 「その場の魔物だけが、ということですか」


 「そう判断しています」


 俺は少し考えた。


 「行きましょう。確認しなければ何も始まりません」


 エリカが「私も行きます」と言った。


 「俺が過共鳴を起こしたときの対処要員として、離れた場所にいてください」


 「……分かりました。何かあったら止めます」


* * *


 オーバーグ跡地は、背の高い草が広がる荒れ地だった。


 かつてのダンジョンの入口があった場所は、今は石の縁だけが残っている。


 俺は石の縁に近づいた。


 足の下に、何かを感じた。


 微細な振動——前世のルドも、採集作業のときに感じた振動と同じだ。封印核が、今も地中で動いている。


 膝をついて、石の縁に手を当てた。


 記憶が動いた。


 「あった」


 封印核の「見え方」が分かった。前世の記憶が重なって、今見えている石の縁の下に、構造が見えた気がした。


 「意識を向ける、か」


 俺は目を閉じて、手の下の封印核の位置を探した。深く、地中の特定の点を意識した。


 何かが——変わった。


 微細な振動が、わずかに整った気がした。バラバラだったリズムが、少しだけ揃った。


 「……共鳴を感じ始めた」


 目を開けると、ヴォンが写本を手に立っていた。


 「何が見えましたか」と彼が言った。


 「核の位置と、状態が分かりました。一点だけ共鳴を試みたら——応答がありました。ただ、完全な活性化には至っていません」


 「部分的な成功ですか」


 「そうです。過共鳴は起きませんでした。方法は合っていると思います。完全な活性化は、次の拠点で試みます」


 「でも、できると分かった」とエリカが遠くから駆けてきた。「進めましょう」


 「進めます」


 俺は石の縁から手を離した。


 九か所。全国に散らばった九か所のダンジョン跡。


 その全てを回って共鳴させれば、崩壊を止められる。


 「出発の準備をします。できるだけ早く」


 ヴォンがうなずいた。


 「私も同行します」


 「頼みます」


 俺たちは王都に向かって歩いた。


 前世のルドが採集した封印核が、千年後も地中で動いている。


 俺の手が、その鼓動に触れた。


 五年から十年という数字が、頭の中に残っていた。百年なら余裕があると思っていた。今はない。


 ——でも、できると分かった。


 今度は、止めるのではなく——繋ぎ止めるために。


 すぐに、向こうも動き始めるだろうと思った。

ブクマや評価をいただけると、続きの執筆がすごく捗ります。

楽しんでいただけたら、ぜひ応援してやってください!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ