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前世で笑われた解体師の俺、1000年後に転生したら素材知識が世界唯一の宝になっていた件  作者: いなばの青兎
第2章 王都と記録帳

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第21話 第一拠点フィアル

 三日後の朝、五人で王都を出た。


 レン、エリカ、ヴォン、シリュ、そして荷物運び兼護衛として雇った冒険者のドーリが一人。ガルダはまだ書記局の中にいる。シリュが定期的に連絡を入れる手筈になっている。


 ソフィアが見送りに来た。


 「各地のギルドに話を通しておきます。協力が必要なときは声をかけてください」


 「ありがとうございます」


 「急いでください。こちらも書記局の動きを注視します」


 馬車に乗り込んだ。フィアル跡地まで、馬で二日の行程だ。


* * *


 道中、ヴォンが写本を広げた。


 「フィアル跡地の封印核について説明します。かつてのフィアル・ダンジョンは九か所の拠点の中で最も古く、また封印の中心に近い位置にあります」


 「中心というのは六角形の何番目ですか」


 「六角形の中心点です。理論上、中心点の封印核を活性化させると、他の八か所への共鳴が連鎖的に始まりやすくなります」


 「中心から始めるのが効果的ということですか」


 「はい。ただし——」ヴォンが少し間を置いた。「六方向の封印エネルギーが集中する分、共鳴の乱れも中心から連鎖しやすい。中心点は最も崩壊が進んでいます。活性化が成功する前に核が完全に崩壊する可能性がゼロではありません」


 「どれくらいの確率ですか」


 「分かりません。理論的には判断できない部分です」


 「行ってみないと分からない」


 「そうです」


 エリカが俺を見た。何か言いたそうな顔をしたが、言わなかった。


* * *


 フィアル跡地は草原の中にあった。


 かつてのダンジョンの入口が石の縁として残り、周囲に新種の足跡が点在している。草が踏みしめられた跡が複数あった。


 「新種の個体数が多い」とシリュが言った。「ここが封印崩壊の進んだ拠点だからか」


 「崩壊が進むほど、封印の弱まった場所から個体が多く漏れ出てきます」と俺は言った。「弱点を先に確認してから、中心点に向かいます」


 草原を横切るとき、新種のスチールアッシュが二体出た。エリカとシリュが対処した。弱点情報を事前に伝えてあったので、問題なく倒した。


 「ありがとうございます」


 「俺でも倒せるようになりましたよ、これは」とエリカが言った。「最初はレンの指示がないと無理でしたが」


 「教えた甲斐があります」


 石の縁に近づいた。


 オーバーグ跡地より、振動が強かった。足の裏に伝わってくる。封印核が、不安定な状態で動いている。


 膝をついて手を当てた。


 すぐに分かった——崩壊が進んでいる。核の共鳴リズムが乱れている。バラバラの振動が干渉し合って、増幅している。


 「……急がないといけない」


 「どのくらいですか」と後ろのヴォンが言った。


 「感覚的には、このままなら半年以内に崩壊します。この一点だけで、です」


 「全国の試算では五年から十年と言っていましたが」


 「フィアルが特に進んでいます。全体の平均より崩壊が早い。ここが最優先です」


 「それが九か所全部だとしたら」


 「最速で回らないといけない」


 俺は目を閉じた。核の状態を読む。リズムが乱れている——でも止まってはいない。まだ生きている。


 「意識を核の共鳴に向ける」


 オーバーグ跡地で試みたときより、難しかった。乱れたリズムに意識を合わせるのが大変だ。


 三分ほどかけて、ゆっくりとリズムを整えた。バラバラだった振動が、少しずつ同調し始めた。


 ——これだ。


 前世でルドが採集作業をしながら気づいていた感触と、同じものだ。解体師の眼が見ていた「核の生きた状態」が、今の俺の手のひらにある。千年前と今が、この一点で繋がっている気がした。


 「……九割まで到達しました」


 「崩壊は止まりましたか」とヴォンが言った。


 「完全ではありません。ただ——崩壊の勢いは落ちた。応急処置にはなっています」


 「完全な活性化には至らなかった、ということですか」


 「あと一押しが届かなかった。全九か所の共鳴が揃えば変わるかもしれません。一か所だけでは意味が出ない」


 「でも前進した」とエリカが言った。「この一か所については、しばらくは持ちます」


 「そうです」


 立ち上がった。手のひらに、封印核の振動が残っていた。


 前世のルドが百個体分の核を使って大消失を引き起こした。


 今の俺は、その逆をやろうとしている。


 「次の拠点に向かいます。できるだけ急いで」


 「北西の第二拠点まで一日半です」とヴォンが地図を出した。


 「行きましょう」


 草原を歩きながら、俺は振動の残る手のひらを見た。


 五人では足りないかもしれない。でも——一人だった前世より、ずっといい。

ブクマや評価をいただけると、続きの執筆がすごく捗ります。

楽しんでいただけたら、ぜひ応援してやってください!

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