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前世で笑われた解体師の俺、1000年後に転生したら素材知識が世界唯一の宝になっていた件  作者: いなばの青兎
第2章 王都と記録帳

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第16話 グレイシャーマンティスと、音を吸う鳥

 ガルダが管理人の背後を調べている間、王都の外で新種の報告が入った。


 「王都北方の農地に出た。白いカマキリの形で、鎌が氷結している」と報告書にあった。


 「グレイシャーマンティスです」と俺は言った。「クリムゾンマンティスの変異体。毒の鎌が凍気の鎌になっている」


 「弱点は」とソフィアが聞いた。


 「両鎌の付け根の関節。同時に砕けば動きを止められます」


 「同時に、というのが難しそうですが」


 「二人が反対側から同時に入れば。タイミングを合わせるだけです」


 ソフィアが冒険者二名を指名した。


 「エリカさんも同行しますか」


 エリカが手を挙げた。


* * *


 農地に着くと、グレイシャーマンティスがトウモロコシ畑の真ん中に立っていた。


 体長三メートル。白い体に、透明な氷の鎌が両腕から伸びている。旧種のクリムゾンマンティスは鮮やかな赤だったが、この個体は白と透明で、農地の光の中で妙に美しく見えた。


 「あの鎌、触れると凍りますか」とエリカが言った。


 「凍気を持っています。直接触れると危ない。鎌が届かない距離で戦ってください」


 「鎌の長さは」


 「体長の三分の一ほど。一メートル前後」


 「なら、鎌を振り切った瞬間に入れる」


 エリカが冒険者の一人に合図した。二人が左右に分かれた。


 「いきます」


 エリカが左から走った。グレイシャーマンティスが鎌を振る——エリカがかわす。鎌が空を切ったその瞬間、右から冒険者が左の鎌の付け根に剣を突き込んだ。エリカが右の鎌の付け根に同時に打つ。


 二つの音がして、グレイシャーマンティスが動きを止めた。


 そのまま倒れた。


 「完璧でした」とエリカが言った。


 「合わせるのが難しいと思っていましたが」


 「何度かやれば慣れます。レンの指示が正確なので」


 俺は解体に入った。氷の鎌は慎重に扱う必要がある。直接触れないように、厚い革の手袋を二重にして。


 「鎌が刃物素材として使えます。現代の鉄より強度が高い。加工方法さえ分かれば——」


 刀鍛冶に持ち込む価値がある素材だ。前世のクリムゾンマンティスの鎌は毒が染みていて扱いにくかったが、凍気の鎌は処理が容易かもしれない。


 核様構造を採取した。


 これで王都周辺だけで六種類の新種から確認できた。


* * *


 農地から戻る途中で、村人が声をかけてきた。


 「あの、先ほどの魔物を倒してくださった方ですか」


 「はい」


 「実は、もう一種類、別の魔物が出ていまして。白い鳥みたいな形で、近づくと声が出なくなるんです」


 エリカが俺を見た。


 「サイレントバード」と俺は言った。


 ダルムの西門に出た、正体不明の個体と同じものだ。


 「翼膜の付け根が弱点です。静かに近づいて一撃で」


 「今日確認できますか」とエリカが聞いた。


 「行きましょう」


* * *


 林の中にいたサイレントバードは、ダルムで見た個体と同じ形状だった。


 白い体、羽根が光を散乱させている、嘴がない。動きが遅い。


 「これがダルムで西門に出た個体と同じ種類ですか」とエリカが言った。


 「同じです。ポイズンバードが変異して、毒の代わりに音を吸収するようになった」


 「なぜそれが分かったんですか。ダルムでは「正体不明」で処理したのに」


 「記録帳を全部読んだからです。ポイズンバードの変異形態として可能性があったものが、実物と合致した」


 「じゃあダルムの時点では確認できなかった、今ならできる、ということですか」


 「はい。知識が増えました」


 エリカがうなずいた。「記録帳を読んで、知識が増えた」


 「それが、転生した意味かもしれません」


 エリカが少し考えた。


 「記録帳を読むことで、前世のルドの記憶が補完されている、ということですか」


 「……そうかもしれません」


 「じゃあ制御方法も、何かをきっかけに思い出せるかもしれない」


 俺は林の中のサイレントバードを見た。


 「そう思っています」


 「今日は何を使いますか。静かに近づいて翼の付け根を、でいいですか」


 「はい。ただ——あの個体は特に動きが遅い。このまま観察していいですか」


 「観察?」


 「羽根を広げる前の動作を確認したい。音を吸収する瞬間の前兆が分かれば、次に戦うときに有利です」


 エリカが少し笑った。


 「解体師って、本当に観察が好きですね」


 「観察しないと、何も分からないので」


 三分ほど観察した。サイレントバードが羽根を動かす前に、首を少し傾ける動作があることが分かった。


 「首を傾けたら羽根が来ます。そのタイミングで目を閉じて」


 「確認できましたか」


 「はい」


 エリカが静かに前進した。サイレントバードが首を傾けた——エリカが目を閉じた。音が消えた。エリカは目を閉じたまま位置を保ち、音が戻った瞬間に翼の付け根に剣を入れた。


 倒れた。


 「音が消える前後で目を閉じるタイミング、合いましたか」と俺は聞いた。


 「ぴったりでした。首を傾けたらすぐ目を閉じれば大丈夫です」


 「各地のギルドに情報共有します。これで二種類目の前兆確認です」


 解体して、核様構造を採取した。


 「今日はグレイシャーマンティスとサイレントバードで二種類」


 「一日で二種類は多いですね」


 「出現頻度が上がっている」とエリカが言った。少し声が低くなっていた。「ガルダさんが封印崩壊が早まっているって言っていましたよね」


 「そうかもしれません」


 「急がないといけないですね」


 「急ぎます」


 制御方法の記憶は、まだ出てこない。


 だが——何かが変わりかけている気がした。


 記録帳を全部読んで、新種を解体するたびに、前世の知識と今の経験が重なっていく。


 必要になったとき、分かる。


 カーラは言っていた。


 その日は、近づいている。

ブクマや評価をいただけると、続きの執筆がすごく捗ります。

楽しんでいただけたら、ぜひ応援してやってください!

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