第15話 制御方法を探して
文書館を出た日の夜、宿の自室で俺は目を閉じた。
「制御方法は体の中にある。必要になったときに分かる」
前世の自分からの手紙には、そう書いてあった。
今、必要だと思う。思い出そうとした。
何も、出てこなかった。
前世の記憶は全部ある。解体師として働いた二十年の記憶が。魔物の解体図が。素材の知識が。
だが「封印核を制御する方法」という記憶は、どこにもない。
「……まだ、ではないのか」
エリカがドアをノックした。
「夕食です。食べますよね」
「行きます」
* * *
翌朝、ソフィアに連絡した。
「王家の宝物庫を見せてもらえますか。封印核と同素材の結晶があると聞いています」
「聞いていましたか。では案内します」
宝物庫は王城の地下にあった。衛士が二人、石造りの扉の前に立っている。
中は思ったより小さな部屋だった。棚に木箱が並んでいる。
「これです」
ソフィアが一つの木箱を取り出した。蓋を開けると、直径五センチほどの透明な結晶が入っていた。
「建国の宝。先祖が大消失の前夜に遺したものと伝わっています」
俺は手を伸ばした。
結晶に触れた。
何かが来そうで、来なかった。表面だけ分かって、中が開かない感触だった。
前世の記録帳に書かれていた「核様構造」と同じ文様が刻まれている。封印核の一個だ。旧種の体内から取り出したものが、千年間ここに保管されていた。
「……カーラが置いていったのかもしれません」
「何ですか」とソフィアが言った。
「千年前に、ここに預けた人間がいたかもしれない」
俺は結晶を持ちながら、前世の記憶を探した。
封印核を採集した記憶はある。大量に採集した記憶も。だが、それをどう使ったかの記憶が——ない。
「なぜ記憶がないんだ」
「どうかしましたか」とソフィアが言った。
「制御方法の記憶を探していますが、出てきません」
「記録帳には書かれていなかったんですか」
「二十二冊目が全部切り取られていました。そこに書いてあったと思います」
「切り取られた——誰かが」
「はい。でも、ルドの手紙には「俺の体の中にある」と書いてありました。ただ——」
「まだ出てこない」
「……俺の中のどこかが、まだだと言っています」
ソフィアが考えた顔をした。
「封印が完全崩壊するまで、どのくらい残っていますか」
「最短で推定100年」
「100年で、その記憶が出てくると思いますか」
俺は結晶を返しながら答えた。
「分かりません。ただ——他に方法があるかもしれない」
「というと」
「切り取られたページを、別の場所で探す」
* * *
管理人のアールは、五十代の男だった。
宝物庫を出るとき、管理人が扉を閉める作業をしていた。俺はその手元を見た。
扉の石の表面に、微細な文様が刻まれている。
螺旋と六角形の組み合わせ——封印核と同じ文様だ。
「この文様は」と俺は言った。
管理人が振り返った。「建国の頃から刻まれています。魔除けと言われています」
「いつから」
「何百年も前からだとか。詳しくは文書館に——」
ソフィアが管理人を見た。
「アール、以前ここに記録帳の閲覧に来た研究者がいましたね。二年前に」
「……いましたが」
「その人物の名前を教えてください」
管理人が少し間を置いた。長すぎる間だった。
「覚えていません」
「記録には残っていますか」
「……確認します」
管理人が奥に引っ込んだ。
ガルダが俺の耳元に顔を寄せた。
「あの態度、怪しい」と小声で言った。
「そう思います」
「閲覧に来た研究者——文書館の記録帳を調べていた人物が、宝物庫にも来ていた」
「情報を消した側と、保護した側のどちらかが宝物庫に接触している」
「二年前に来たということは、比較的最近です。千年前からの話ではなく、今も動いている人間がいる」
俺は扉の文様を見た。
封印核の文様が、王城の扉に刻まれている。
千年前に誰かが残したものが、今もここにある。
前世の俺の言葉が頭に残っている。「必要になったときに分かる」——今がその時ではないのか。
——いや、まだだ。
まだ何かが足りない。俺が封印核に直接触れても、記憶は出てこなかった。何が引き金になるのか。
「ガルダさん」
「はい」
「二年前に来た人物を追いましょう。その人間が制御方法を知っているか——あるいは持っているかもしれない」
「調べます」
管理人が戻ってきた。
「申し訳ありません。記録が見当たりませんでした」
俺は管理人を見た。
「……そうですか」
「また調べておきます」
俺はうなずいた。
嘘だ、と思った。記録はある。見せないだけだ。
管理人は、何かを知っている。
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