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9 捨てられた過去と、再生の誓い

誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。

その横で、シエラがすっと俯く。

裾を握りしめ、小さく声を震わせた。

「でも……せっかくなのに……」

言葉は途切れがちで、それでもしっかり伝わるように。

「シエラ、初めてなの。お父さんとお母さんと、一緒にスキー……」

その姿はあまりにも健気で。


ヴェールの表情が目に見えて緩んだ。

「行くさ、もちろん」

彼はすぐに手を伸ばし、優しくシエラの髪を撫でる。

「うちのシエラをがっかりさせるわけにはいかないだろ?」


「……じゃあ、妹ちゃんは?」

シエラはためらいがちに、ベッドのほうを見た。

その“心配そうな視線”に、一瞬も迷いはなかった。


「放っておけ」

ヴェールは即答した。

「自業自得だ。一人で反省してればいい」

冷たい声。

「俺たちで行く。あいつは連れて行かない」


それを聞いて、シエラの顔にぱっと光が差した。

まるで用意していたみたいに、綺麗な笑顔が咲く。

彼女はベッドに歩み寄り、そっと身を屈める。

そして二人にしか聞こえない声で、甘くやわらかく囁いた。

「妹ちゃん。 パパとママは私とスキーに行くから」

少しだけ、声を弾ませて。

「あなたは、一人で、ちゃんと療養しててね」


あの三人が本物の家族みたいに肩を並べて去っていく。

その背中が病室のドアの向こうに消えるまで、レミナはただ見ていた。

冷たいベッドに横たわったまま――

胸の奥に、かろうじて残っていたはずの“家族”へのわずかな期待が音もなく完全に消えていく。

不思議なほどだった。

恨みも、悲しみも、湧いてこない。

ただ底の見えない空っぽと、気味が悪いくらいの静けさだけが残った。


レミナはゆっくりと体を丸める。

傷ついた小さな子猫みたいに、白い布団の奥へ、奥へと潜り込んだ。

細い体は布団の中でほとんど輪郭を失っていた。


暗闇の中で、レミナはひとつの考えが芽を出す。

必死にしがみつくように。

――そんなはずがない。

人が生まれるのは、捨てられるためじゃない。

誰にも求められない?

……いい。

じゃあ、自分で自分を生かせばいい。


きちんと食べる。

ちゃんと眠る。

真面目に生きる。

それだけでいい。

幸せになろうとする。

たとえ形だけでも。

笑い方を覚える。

優しい言葉を覚える。

人に好かれるための“正解”を、ひとつずつ身につけていく。

もう二度と――

絶対に、捨てられる側にはならない。


布団の中で、レミナは息苦しさを感じた。

胸に手を当てて、レミナは思う。

――もう嫌だ、もうあの人たちのために泣いたりしない、今回は最後だ。


一ヶ月後。

療養を終えたレミナは、学校へ戻った。

俯いたまま教室に入った瞬間、空気が違うことに気づく。

向けられる視線。ひそひそと交わされる声。

そして――それは、紛れもない軽蔑だった。


最初は意味がわからなかった。

そして、断片的な言葉をつなぎ合わせて、やがて理解する。


この一ヶ月のあいだに、シエラが“物語”を語っていたのだ。

レミナが療養することになった――“言いづらい本当の理由”を。

うまく整えられた言葉で、誰もが納得してしまう形で。


レミナも何度か説明しようとした。

少しだけ話せたクラスメイトに向かって。

「違うの、あれは……」


けれど相手はすぐに、分かったような顔をする。

「うん、いいよ。言わなくて」

肩をぽんと叩いて、優しそうな声で。

でも、その目の奥には、はっきりとした色があった。

「レミナ、みんな分かってるよ。でもさ……やり過ぎじゃない? あなたのお父さん、ただ再婚しただけだろ」


その話が何度か続いて、彼女はやめた。

言葉は届かない。

積み重なった思い込みの前では、説明なんて滑稽なだけだった。


レミナは何も言わず、自分の席に座る。

目には見えない距離、じわじわと伝わる冷たさ。

それをただ受け入れる。


……なるほど。

たった一ヶ月で。

人の見方なんて、こんなにも簡単に塗り替えられる。


世界が痛みで応えるなら、もう、優しい声で返す必要はない。

レミナは静かに決めた。

自分を守るための、新しい“生き方”を学ばないと。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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