6 IQとEQ、正面衝突
誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。
アルタイルは、完全に見られていた。
一瞬言葉に詰まる。
そのままじゃ収まりがつかない。
彼はすぐに顔をしかめて、開き直る。
答案用紙を指で叩きながら、吐き捨てた。
「お前の説明、堅すぎんだよ。 全然おもしろくねぇし。 あれで誰が頭に入るんだよ」
レミナは、ぱちりとまばたきをした。
そのまま、少しだけ考え込む。
本気で、今の言葉を咀嚼しているみたいに。
やがて、まっすぐに問い返した。
「じゃあ、あなたは――もっとわかりやすく説明できるの?」
アルタイル:「……」
「できないんだんね」
レミナは淡々と、続ける。
「だって――問題も解けてないから」
アルタイル「…………」
「ぶっ――! はは……」
後ろでゼロスが笑いをこらえきれず、肩を震わせていた。
アルタイルは、こめかみがじんと脈打つのを感じた。
深く息を吸う。
表情を崩さないように、なんとか保つ。
鼻先に手をやって、わずかに歯を食いしばる。
「……レミナさ。 お前、EQ低いって言われたことねぇ?」
レミナは、ぴたりと動きを止めた。
少しだけ眉を寄せる。今の問いを処理しているみたいに。
数秒後、
澄んだ視線のまま、客観的事実を述べるような口調で答えた。
「アルタイルくん、
私、あなたのIQがこんなに低いって思っても、嫌ってないよ」
真面目に続ける。
「だから、あなたも――私のEQのこと、ほっといてくれない?」
アルタイル「……」
「っ、ぷは――!」
ゼロスが飲んでいた水を吹き出して、
笑いすぎて机に突っ伏し、そのままゴンッと角に頭をぶつける。
「っ、いっ……はは……やば……! はは……」
アルタイルの中で、何かが切れかけた。
――誰がIQ低いんだよ?!
怒鳴りそうになると、目の前の顔、赤くなって、なんか、生き生きしてる。
さっきまでの怒りがすっと抜けた。
「……チッ」
小さく舌打ちする。
――ちくしょう、なんだよ、それ。
もう一回彼女の悔しそうな顔を見ると、ふと、頭に浮かぶ。
――……こいつ、ちょっと、可愛くねぇか。
そう思うと、一気に、顔が熱くなる。
彼は自分でもわかるくらいに。
首のあたりまで、じわっと熱が広がっていった。
レミナは、ふと固まった。
――……怒ってる? こんなに?
そこまで思って、さっきの自分の言葉を思い返す。
言いすぎたかもしれない。
きつかったかもしれない。
別に、怒らせたかったわけじゃないのに。
胸の奥に、わずかな引っかかりが残る。
少しだけ申し訳ない、と思った。
もう一度、彼女は表情を整える。
ぎこちなく、顔の筋肉を動かして。
自分なりに「優しい」と思う形を探して――
「……大丈夫ですよ。ゆっくりでいいですよ」
声も、少し柔らかくする。
「いつか、ちゃんとできるようになりますから、ね」
アルタイルは、その笑顔を見た。
無理やり作った、薄っぺらいそれ。
さっきまで胸の奥にあった、わずかな高鳴りが一瞬で冷めた。
「……は」
彼は遠慮なく冷ややかに鼻で笑う。
視線を逸らして、吐き捨てる。
「いいからさ。 俺の前では、そういう作り笑い、やめとけ。 素直でいいよ」
低い声。
「見てるこっちがキツい」
「……はい、わかりました」
レミナは、すぐに引っ込めた。
笑顔を消して、元の無表情に戻る。
――数秒の沈黙。
「アルタイル」
もう一度、呼ぶ。
「……なんだよ」
ぶっきらぼうな返事。
まだ「IQが低い」ことと、あの作り笑顔に引っかかっているみたいだった。
レミナは、彼の横顔を見つめる。
少しだけまだ残っている赤みがある。
「あなたって、やっぱりバカなんだね」
アルタイル「………………!!?」
胸を何かに撃ち抜かれたみたいな衝撃が感じた。
――いや、ちょっと待て!! そこまで言う必要あったか!?
まったく、そ、こ、ま、で、素、直、じゃ、な、く、て、も、いいだろ!
後ろでは――
「っ、はは……っ、面白すぎ、はは……くっそ、笑いすぎでお腹が痛い、はは……無理……!」
ゼロスが笑いすぎて息を詰まらせていた。
「神様……マジで……死ぬかと思った……! ははは!」
教室の外、夜はゆっくりと深まっていく。
その中で、明るい教室の光がこの妙に噛み合っていない二人を、やわらかく照らしていた。
優等生と不良少年。
その初めての“ちゃんとした勉強時間”は――
一方が完全に振り回され、もう一方がどこまでも本気なまま、
奇妙な形で、ひとまず終わりを迎えた。
けれど、何かが少しだけ。
確かに、変わり始めていた。
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