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27 レミナ……行くなよ……やめてくれよ……

誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。

空港――国際線の出発ロビー。

人の流れは絶えず、アナウンスが日本語と英語で繰り返される。

どこもかしこも慌ただしくて、どこか冷たい。

別れの匂いがそこかしこに満ちていた。

レミナはすべての手続きを終え、保安検査場の手前に立っていた。

手の中にはY国行きのチケット。

強く握りすぎて、指先が白くなっている。

――そのとき着信音が鳴った。

びくり、と肩が揺れる。

画面に表示された名前を見た瞬間、心臓がきゅっと縮んだ。

アルタイルだ。

一度深く息を吸う。

それでも足りないまま、ようやく通話ボタンを押した。

耳に当てる。

「……アルタイル」

先に声を出したのはレミナだった。

わずかに震えている。


返事はない。


ただ、向こうから聞こえてくるのは――

荒く抑え込まれた呼吸だけ、それが何度も何度も、耳に当たる。

「……」

時間だけが過ぎていく。

やがて最終搭乗のアナウンスがロビーに響いた。


レミナは目を閉じ、まつげに涙が溜まる。

「……何も、言わないの?」

声を整える。

「私……もう、行くね」


その瞬間、向こうの呼吸が崩れた。

「……レミナ……お前……なんで……」

かすれた声、途切れる。

「……ふざけんなよ。

すげえよな、お前……そんな簡単に――」

「……全部、切れんだな」

息が乱れる。

「……面白かったかよ……?……なんでだよ……」

低い落ちていく。

そして、壊れかけた声。


「……レミナ

……行くなよ……

……ちょっとでいいから……やめてくれよ……」

その一言一言が喉の奥から無理やり引きずり出されてくるみたいだった。


――だめ。

聞いてはいけない。

揺らいではいけない。

わかっているのに、レミナの涙が落ちる、止まらない。

同時に、胸が強く締めつけられる。

鼓動が一気に速くなって、息がうまく吸えない。

「……っ」

手の力が抜ける。

チケットがかすかに揺れた。

――だめ。

ここで崩れたら終わる。


そう思うのに、どうして、あなたの前でだけ平気でいられるわけがない。


レミナは手の甲に歯を立てた。

声が漏れないように。


レミナは何も言わなかった。

その沈黙が最後の一刺しみたいに、アルタイルの残っていたものを貫いた。

電話の向こうで、呼吸が乱れる。

「……なあ……お前が……好きなやつになる……どんなのでもいい……

俺、変わるから……ちゃんとやる。勉強もするし……もう、邪魔もしねえ……」

息が詰まる。

「だから……頼むから……

……行かないでくれよ……レミナ……」

もう、隠さない。

「……やめてくれ……そんなのいやよ……

俺……もう……」

続かない、言葉にならない。

それでもすがる。

全部を捨ててでも、届くかもしれない一瞬に。


「……っ」

レミナの爪が掌に食い込む。

痛みで、どうにか意識を繋ぎ止める。

涙で視界が滲む。

それでも言わなきゃいけない。

何度も何度も、頭の中で繰り返してきた言葉。

それでも、実際に口にすると胸が裂けそうになる。

「……アルタイル」

喉が焼ける。

「……さようなら」


――沈黙。

長い、長い沈黙。


やがて。

「……はっ」

乾いた笑いが落ちた。

声が変わる。

低く鋭く冷えきった。

「……レミナ、俺がこの人生で一番後悔してるのは――」

一語ずつ、叩きつける。

「お前に会ったことだ!

二度と君の顔も……見たくねえよ」


――その直後。

ガシャンッ!!

耳を刺す破裂音。

通話が途切れる。


プー……プー……プー……


「……」

レミナはその場に立ち尽くした。

何も感じられないまま。

そして、

「……アルタイル」

声にならない。

唇だけが動く。

「……さよなら」

「……さようなら」


内側まで砕かれたみたいに、手から携帯が滑り落ちて床に当たった。

涙だけが落ち続ける。

視界が滲んで、何も見えなくなる。

それでも顔を上げる。

ゲートの向こう。

知らない世界の光。

遠い。

冷たい。


――さようなら。

私のたった一度の恋。

――さようなら。

私の世界でいちばん明るかった光。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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