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21 レミナが、おかしいの! 何かに取り憑かれたみたいで……!

誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。

レミナの家、二階の主寝室。

「ママ……!」

シエラは堪えきれず、メイベルの胸に飛び込んだ。

指先が服をぎゅっと掴む。離せない。

「……レミナが、おかしいの! 何かに取り憑かれたみたいで……!」

かすれた声が、途切れ途切れに落ちる。

「最近のレミナ……わたし、知らない」


あのレミナが笑っていた。弱さをみせた。

あんなふうに、やわらかく。

レミナは、あんな顔をする人じゃなかったのに。

そして、夜の光景がシエラの頭から離れない。

今日のアルタイルは、確かに怒っていた。

椅子を蹴り飛ばし、そのまま教室を出ていくほどに。

それなのに最後に選んだのは、レミナだった。

ためらいなんて、最初からなかったみたいに。

シエラの喉の奥が、ひりつく。

どうして?

……どうして、レミナなの?


メイベルは静かに娘の髪を撫でた。

その手つきは、どこまでも優しい。

けれどその目だけが鋭く冷えていた。

「……馬鹿なことを言うものじゃないわ」

声は柔らかいまま。

「“取り憑くもの”なんて、この世には存在しないの」

ほんの一拍、続ける。

「人を壊すのはね――いつだって、“生きている人間”よ」


彼女はぽん、と軽くシエラの背を叩いた。

「いい? シエラ」

その声音は、ゆっくりと染み込む。

「私たちがこの家にいられるのは、偶然じゃないわ。

一度勝てたのなら――次も、その次も、同じことよ」

メイベルふっと、微笑む。

「あなたのものは誰、にも奪えない

今までも、これからも」

わずかに間を置いて。

「――だって、ママがいるもの」


夕食の時間。

ダイニングは明るく照らされていた。

昨日のことがあったはずなのに。

その空気だけが、どこか置き去りにされている。

レミナは、いつもよりよく食べていた。

赤く艶めいたトマトと、柔らかく煮崩れた牛バラ。

濃いスープを絡めたご飯を、淡々と口へ運ぶ。

止まらない。

一口、また一口と、途切れない。

気づけば、額にうっすらと汗が滲んでいた。

それでも手は止まらなかった。


深夜。

家はしんと静まり返っていた。

その静寂を引き裂いたのは激しい咳だった。

喉を掻きむしるような、乾いた音。

息が吸えない。

次の瞬間、レミナの部屋に明かりが灯る。

彼女の顔色が、みるみる変わっていく。

呼吸は乱れ、全身には赤い発疹が一気に広がっていた。

喉が腫れ、空気が入ってこない。

呼吸ができない。


サイレンが夜を切り裂いた。

病院の救急処置室。

青白い光の下、慌ただしく人が動く。

短い指示が飛び、器具の音が重なる。

やがてレミナの呼吸が、かろうじて戻った。


先生はカルテを見下ろし、表情を引き締める。

「重度のナッツアレルギーによるアナフィラキシーです」

淡々とした声。

「あと少し遅れていれば、命に関わっていました」

一拍置き、視線を上げる。

「これまでにアレルギーの既往は?」


ベッドの上で、レミナはぐったりと目を閉じている。

顔色は紙のように白い。

ヴェールはその様子を見つめ、ようやく焦りを滲ませた。

「……あります」

ぎこちなく答えながら、手を擦り合わせる。

「子どもの頃、ナッツに強いアレルギーが……ただ、ここ数年は何もなくて……」

言葉が途切れる。

「……忙しくて、失念していました」

彼は無理に表情を整え、レミナに向き直る。

「ご飯を作る家政婦は解雇した。だから安心して療養しなさい」


――だが。

今日の夕食の前。

メイベルが料理本をめくりながら、何気なく口にした。

「ヴェール、知ってる?」

いつもと変わらない、やわらかな声で。

「トマトと牛バラって、ナッツをすり潰して一緒に煮ると、ぐっとコクが出るのよ」


機嫌の良かったヴェールは深く考えもしなかった。

「いいな、じゃ、夕食はそれでいこう」

振り向きもせず、家政婦に命じる。

「今夜はそれを作れ。 ナッツは多めに入れろ」


メイベルは静かに本を閉じる。

その目に、わずかな光が差した。

ほんの一瞬で、消えた。


家政婦はただ命令に従った。

疑いもせず。

深く考えもせず。

そして確認もしなかった。

以前にも似たようなことがあったことを。

あの時レミナはほとんど命を落としかけた。

それでも。

「……旦那様は、覚えていらっしゃるはずです」

小さく、そう口にして。

それ以上は、何も言わなかった。


だから。

誰も止めなかった。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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