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20 ……俺のこと、好きか?

誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。

「それに、アルタイル……」

レミナはもう一歩だけ距離を詰める。

まるで珍しい現象を観察するみたいに、じっと彼の顔を見つめて――

ふっと、小さく首をかしげた。

「……耳、赤いよ」


その一言で。

ぶつん、と。

アルタイルの中何かが切れた。

「…………っ!!」

血が一気に頭まで上る。

思考が焼き切れる。

「……うるせぇ!」

低く押し殺した声。

そのまま――

握っていた手に、ぐっと力がこもる。

振り払うんじゃない。

逆だ。

逃がさないみたいに、指を絡めて――強く、握り返した。


勝敗は最初から決まっていた。

レミナのまっすぐな言葉が、

不器用に隠し続けてきたアルタイルの本音を全部引きずり出した。


そのまま二人は歩き出す。

前を行くのはレミナ。

少し拗ねたみたいに、でも確かに手を引いて。

アルタイルは引かれるまま後ろを歩く。

……耳はまだ赤いまま。


けれど林を抜ける手前で、ふいに、アルタイルが止まる。

「……っ」

限界だった。

アルタイルは一歩踏み込む。

そしてレミナを強く抱き寄せた。

顔を彼女の首元に埋める。

髪の香りがふわりと鼻先をくすぐる。

「……なあ」

低く、こもった声。

「お前は――レミナ……」

わずかに、息を吸う。

「……俺のこと、好きか?」

彼の顔は上げない。

――上げられなかった。


好き?

……これが、そうなの?

レミナは彼の腕の中で目を閉じる。

心臓がうるさいくらい鳴っている。

彼と同じくらい、乱れている。

思い出す。

彼に会いたいと思ったこと。

怒らせたくないと思ったこと。

シエラと一緒にいるのを見て、胸が重くなったこと。

触れられて、顔が熱くなったこと。

悲しそうな顔を見て、気づいたら、追いかけていたこと。


――……そういうことか、好きなんだ

答えはもう出ている。

それでも言葉が少しだけ遅れた。


その沈黙のあいだに、アルタイルの腕の力がわずかに緩む。

――やっぱり、違うのか。

そんなふうに。

そっと、離れようとした。


レミナは顔を上げた。

遠くの街灯の淡くにじんだ光の中で、まっすぐに彼を見る。


赤くなった目の奥に壊れそうな不安と、それでも消えない期待が揺れていた。


そんな顔、初めて見た。

だからレミナは笑った。

ゆっくりと頷く。

「……うん」

小さな声、けれど迷いはなかった。

「うん。 たぶん、そう」

そしてもう一度。

今度はちゃんと伝えるために。

「アルタイル」

まっすぐ見て、彼の名を呼ぶ。

「……私、あなたのことが好き」


その瞬間、アルタイルの世界が一気に色づいた。

アルタイルの中で、何かがほどけた。

胸の奥に溜まっていたものが、音もなく崩れていく。


不安も、苛立ちも――もう、どうでもよかった。

もう一度レミナを抱き寄せる。

さっきより、少しだけ強く。

「……っ」

胸の奥が、熱い。

言葉にできない何かが、じわじわと満ちていく。

――ああ。

それだけで、十分だった。


***

帰り道。

今度はアルタイルが前を歩いていた。

レミナの手を引き、指を絡めたまま離さない。

まるで誰にも渡さないと、世界に宣言するみたいに。


「……」

レミナは何も言わない。

ただそのままついてくる。


教室の前で、二人は同時に手を離した。

何事もなかったように、前後に分かれて席へ戻る。

……けど空気だけは、ごまかせなかった。


ゼロスはその様子を一目見て――

アルタイルの顔に浮かんだ、隠しきれてない“春”に、思いきり顔をしかめた。

――うわ、こいつ、マジでわかりやす。 春だな。完全に春だ。

ゼロスは無言で足を上げて、アルタイルのふくらはぎをドンと蹴る。

「……くっせぇな。恋の匂い。三メートル離れてても分かるぞ」


アルタイルは珍しく怒らなかった。

むしろ振り返って、やけに機嫌よさそうに笑う。

そのまま腕を回して、ゼロスの首をぐいっと引き寄せた。

「なんだよ。 羨ましいのか?」


「んなわけあるか!」

締め上げられて顔をしかめながら、ゼロスは肘で小突く。

それでも笑いはこらえきれなかった。

「俺がいなきゃな、お前ら絶対こじれたままだったぞ。……感謝しろよ?」


「してるって」

アルタイルはあっさり言って、ぱっと手を離す。

その顔は珍しく真面目だった。

「ありがとな、相棒よ」

そしてすぐにいつもの調子に戻る。

「飯、奢るよ」


「一ヶ月な」


「いいぜ」


軽く打ち合わせた手の音が、教室に弾けた。

アルタイルは顎を軽く上げる。


ゼロスは肩をすくめて、笑いながら首を振った。

――ま、よかったな。


そして、その一部始終を、シエラはすべて見ていた。

アルタイルの、あんな顔。

あんなふうに、笑うなんて、一度も見たことがなかった。


――どうして?

彼女の視線がゆっくりと落ちる。

レミナの頬がほんのりと赤い。

その瞬間、何かがずれた。

指先に、わずかに力がこもる。

――違う。

こんなの、こんなのはありえない。


シエラは静かに、息を吐く。

何もなかったみたいに、表情を整える。

……けれどその目だけが、笑っていなかった。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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