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19 ……私のこと、好きなの?

誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。

レミナは薄着のままの格好で、わずかに息を乱している。

急いで追いかけてきたのだと、ひと目でわかった。

彼女の瞳は夜の中で静かに光っていた。

水を含んだ黒い硝子のように、まっすぐ彼を見ている。


そんなレミナを見て、アルタイルの中で膨れ上がっていた怒りが針で刺されたみたいに、「シュッ」と一気にしぼんだ。

「……っ」

わずかに視線を逸らし、落ち着かないまま背を向ける。

声はぶっきらぼうで、どこか意地が混じっていた。

「なんだよ。優等生様がこんなとこでサボりか?」


レミナは何も言わなかった。

ただ一歩、また一歩と近づいてくる。

そして彼の前で止まり、顔を上げた。

張りつめた顎のライン。

冷たく固まった横顔。

――怒ってる。

……私のせい?


その考えが胸の奥に落ちる。

なんか不思議と温かかった。

――……ゼロスの言う通りだ。

変わるなら、途中でやめちゃいけない。


レミナは何も言わず、ただそこに立つ。

まっすぐに、アルタイルの背中を見上げたまま。

アルタイル「……」

沈黙が二人のあいだに落ちた。


アルタイルは背後の気配をあえて振り返らなかった。

まるで最初から誰もいないみたいに。

「……聞こえてたんだろ、何か言えよ」

ぶっきらぼうに吐き捨てる。

「ついてきて、何のつもりだ?」

声は低くどこか噛みつくようで。


「……わからない」

レミナは迷いなく答える。

その瞳には彼女自分でも説明できない戸惑いが滲んでいた。

「でも……来なきゃって、思った」

あまりにもまっすぐで、理由もない答え。

アルタイルは一瞬、言葉を失う。

……息が詰まる。


冷たい夜風が林を抜けた。

乾いた葉がさらりと舞い上がる。


レミナは無意識に腕を抱き、肩をすくめる。

薄い体がわずかに震えた。


次の瞬間、ふわり、と。

アルタイルの上着が何の前触れもなく彼女の肩にかけられる。

まだ彼の温かい体温の残る服。

ほんのりとした石鹸の香りと、日向みたいな匂い。

それがそのまま彼女を包み込んだ。

「……ありがと」

小さく素直な声。


アルタイルは何も言わず、ぎこちなく襟元を整える。

その指先がふと彼女の首筋に触れた。

ひやりとした指。

その対比みたいに、彼女の肌はあたたかかった。


――……冷たい

レミナはぼんやりと思う。


「てめえ、上着も着ない、勝手についてきて――」

アルタイルはなおも強がる。

いつもの乱暴な言い方で、不安を隠そうとする。

けれど言葉が終わる前に――

そっと小さな手が彼の手の上に重ねられた。

やわらかくて、あたたかい。


「――っ」

アルタイルの体がびくりと固まる。

指先から胸の奥まで、一瞬で電気が走ったみたいに痺れた。


彼女の手の感触も、温度も、逃げ場なく伝わってくる。


「マフラーないから」

レミナの声は静かだった。

夜の中で、やけに澄んで聞こえる。

「……手で、あっためる、いいかな」

あまりにも自然で、ためらいのない言葉。


アルタイルは思わず歯を食いしばる。

反射的に手を引こうとする、けど――

「……離せ」

掠れた声で言う。

命令のはずなのに、力はまるでない。


レミナは動かない。

ただ、少しだけ首をかしげた。

その目には純粋な戸惑い。

――……触られるの、嫌なの?

でも――


時間が止まったみたいだった。

ぼんやりとした街灯の下。

大きすぎる上着に包まれた少女が両手でそっと少年の手を包んでいる。


小さくてやわらかくて、あたたかい。

アルタイルはその感触をはっきりと感じていた。

そして気づく。

固まっていたはずの自分の指が、

いつの間にかわずかに震えながら、彼女の手を勝手に握り返していることに。


「……アルタイル」

うつむいたまま、レミナが彼の名を呼ぶ。

声は夢の中みたいにかすかだった。


「……ん」

短く返す。喉が無意識に上下する。

そして次の瞬間、彼の思考をまるごと吹き飛ばす言葉が落ちた。


「……私のこと、好きなの?」

静かな声だった。

いつもと変わらない、やわらかな響きで。


「――……っ?!」

心臓が跳ねる。

次の瞬間には、ぐちゃぐちゃに打ち鳴らされるみたいに暴れ出した。

うるさい。息ができない。

数秒遅れて、アルタイルが自分の息を止めていたことに気づく。

じわりと、胸が痛む。

――……くそ! なんでだよ……!

押し上げてくるのは、強烈な羞恥と、どうしようもなく面倒な意地。

逃げるみたいに、言葉が飛び出す。

「……好きじゃねえよ」

ほとんど反射だった。


「……好きじゃないの?」

レミナは顔を上げる。

まっすぐな目で、彼を見た。

それから、二人の重なった手をほんの少しだけ揺らした。淡々とした声で、続ける。

「でも、私、力入れてないよ」


「…………っ!!」

アルタイルの頭の奥で、何かが弾けた。

――なんなんだよ、こいつ……!

どうして、そんな顔でいられる?

どうして、引かない?

好きじゃないって言っただろ――普通は、それで終わりだろ――

なのに、

なんで、まだ来るんだ。

なんで――

こんなに、逃げ場がない。

「……くそ……」

完全に、追い詰められていた。


最後まで読んで頂きありがとうございました。

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