12 優等生と下位生徒の一対一指導制度
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ウィズダム高校には朝、朗読の自習がある。
今日の朗読の時間もう終わりが近づいている。
教室にはどこか気の抜けた眠気とだるさが漂っている。
そのタイミングを見計らったように、担任のクロノス先生が教室入ってきた。
両手を背中で組み、いつものゆったりした足取りで。
教壇に立つと、教室をぐるりと見渡し――すぐに“あれ”が始まる。
首を左右に振りながらの、ため息混じりの説教タイムだ。
「はあ……今回のテストの結果、もう見たよな?」
語尾を引き伸ばしながら、指先で教卓を軽く叩く。
トン、トン、と鈍い音が響く。
「正直、どう言えばいいのか……最近の学生はほんとに年々レベルが下がってますよ! こんな簡単なテストだぞ? この点数で恥ずかしくないですか?」
一拍置いて、さらに声を強める。
「朝早くから夜遅くまで働いてる親御さんに顔向けできるのか? 指導してる教師に対して、そして何より――自分自身の青春に対して、胸を張れるのか?」
――以上、いつものやつ。
何年も使い回されている、ほとんど暗記できそうな説教がじっとりとした重さを伴って教室に流れ続ける。
十分近く経って、ようやくチャイムが鳴りそうになった頃、クロノス先生は名残惜しそうに本題へ入った。
「さて、今回の成績、かなり二極化が進んでいる」
眼鏡を押し上げ、少し声を張る。
「そこでだ。 各教科の担当と相談した結果――クラス内で『優等生と下位生徒の一対一指導制度』を導入することになりました!」
教室の空気がわずかにざわつく。小さなどよめきが広がった。
「上位十名が下位十名をそれぞれ担当して指導することです!
組み合わせはこうだな。えーと、上位一位が下位十位、上位二位が下位九位……以下、順に対応します」
そのルールが発表されたら、教室のざわめきは一気に大きくなった。
「え、普通一位が最下位じゃないの?」
「この組み方……ちょっと意外だな」
その中で、アルタイルはだらけていた体をわずかに起こした。
顔色が目に見えて沈み、目つきがぐっと暗くなる。
そして、隣でニヤニヤしているゼロスを一瞥。その視線には露骨な不機嫌が混じっていた。
一方で、後ろの離れた席のシエラは隠しきれない喜びをにじませた。
口元が抑えきれずにゆるむ。
レミナの胸もかすかに引っかかる。彼女は無意識に振り返り後ろの席を見る。
ゼロスがこちらにウインクしてきた。
レミナは……
少しだけ間を置いて、軽くうなずく。
礼儀として。
――……まあ、いいか。
レミナの心の中で、淡々と評価する。
――ゼロスなら……たぶん、アルタイルよりは基礎がある。
教えるのも、少しは楽かもしれない。
その小さな軽いうなずくだった。
だがそれはずっと彼女を視界の端で追っていたアルタイルにとっては完全に“火に油”だった。
アルタイルの顎のラインがぴんと張る。
表情が一気に冷えきる。
クロノス先生は下のざわめきを無視し、手元のリストを取り出して読み上げ始めた。
「ペアは以下の通り――レミナさんはゼロスくんを担当、……シエラさんはアルタイルくんを担当、以上。」
「シエラさんはアルタイルくんを担当」
その一言がはっきりと教室に落ちた瞬間、レミナの指にわずかに力がこもった。
――なんか……いやだな。
レミナはまぶたを伏せ、視線をペンケースの細かな模様に落とした。
まるでそこに、何か意味でもあるみたいに。
――……それでいいかも。 シエラのほうが話もうまいし、我慢強いし。
アルタイルの担当相手をするなら、たぶん、そっちのほうが向いてる。
……それなのに。
胸の奥が少しだけざわつく。
小さくてでも無視できない違和感、やっぱり――いやだ。
「指導をうまく進めるためですね」
クロノス先生の声が再び響いた。
「朝の朗読自習と放課後の自習時間を活用することですね。
それと、おお、席も必要に応じて調整しましょう。
指導するペアはなるべく近くに座るように、相席――」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに――
「――っ」
アルタイルが勢いよく顔を上げた。
その視線はまるで形を持った矢のようにまっすぐ教壇へ突き刺さる。
露骨な不満と隠す気もない苛立ちがあった。
その圧は数列離れた生徒ですら思わず身をすくめるほどだった。
クロノス先生も、さすがに無視できなかった。
咳払いをひとつして。
「カホン、アルタイルくん……何か、不満でもあるでしょうか?
遠慮せず言ってみなさい。他の人も、意見があれば今のうちに」
――その瞬間、クラス全員の視線が一斉にアルタイルへ集まった。
レミナも少し戸惑ったように彼を見る。
アルタイルは唇をきつく結び、しばらく沈黙したあと――
歯の隙間から吐き出す。
「……ねぇよ」
クロノス先生「……」
――いや、あるだろ今のは。
そう言いかけて飲み込んだ。
教師人生でもなかなかないレベルの圧に、胃がきりきりする。
クロノス先生はぎこちなく二度咳払いし、無理やり話を進める。
「では……異議がないようなので、席の移動を――」
言い終える前に、さっきよりもさらに鋭い視線がまた突き刺さった。
クロノス先生「……」
――なにを望んでるんだ、このお金持ちの生徒めは……!
面子とかそういう問題じゃない、普通に心臓がもたないよ……!
心の中で叫びながら、彼は即座に判断した。
――撤退だ。
「えーと……!」
声を張る。
「席を移動しない者はそのまま休み時間に入ってよし!
移動が必要な者は速やかに済ませてから行動することです!
以上!」
言い切るなりクロノス先生はほぼ逃げるように教室を後にした。
一秒でも遅れれば、学生たちの前でかろうじて保っている教師の威厳なんて、一瞬で吹き飛ぶ気がした。
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