11 胸騒ぎのメモ
誤字や不自然な表現などがありましたら、教えていただけると助かります。
周囲のクラスメートたちは、そのやり取りをはっきり聞いていた。
短い沈黙のあと、ひそひそ声がまた広がる。
「今の話聞くとさ……なんでわざわざアルタイルくんが最下位って強調したんだ?」
「普通に、相席で一緒に勉強してたって言えばよくない?」
「それ言ってたら、そもそも叩かれてなくね?」
「……なんか、ちょっと印象違うな」
「さっきの“パパがビンタしすぎ”ってやつもさ、フォローに見せかけて完全に煽ってたよな?」
「うわ、なんか茶番っぽくなってきた……」
自分に一方的に味方しているわけではない、そんな声を背中で受けて、シエラの顔色はみるみる青ざめていく。
取り繕った笑顔の奥に、隠しきれない焦りがにじんだ。
――どうして?
どうしてレミナがこんな風に……?
レミナはわずかに体をひねり、シエラの崩れかけた様子を見た。胸の奥に、小さくて見慣れない感情がふっと灯る。
――……あれ? シエラって、そこまで強くないかも。
やり方を変えるだけで、こんなに違うんだ。
わずかな達成感が静かに広がる。
ちょっと嬉しい。
けれど。
レミナは振り返ったら、アルタイルと目が合った。
!!!
細められたその目は、さっきまでとは全然違う。
はっきりとした“観察”と“探り”の色を帯びて、まっすぐに彼女を捉えていた。
レミナの心臓がひとつ跳ねる。
――……まずい。
ちょっと調子に乗りすぎたみたい。
シエラへの対処に夢中で、気づけばアルタイルまで巻き込んでしまった。
「ん……俺を利用したのか?」
低く抑えた声。距離を詰められ、空気が一段重くなる。
レミナの鼓動が一瞬止まりかけた。
視線を落とし、考える。
頭の中で言葉が絡まる。
――……利用、した?
それは、うん、した……
彼の「最下位」っていう事実を利用したのは……そう言われれば、そうかもしれない。
でも、それを認めたら、たぶんもっと怒られる。
どう答えるべきか?
レミナは数秒迷った。
数秒後、彼女は顔を上げた。
まっすぐに、透き通るような目で、アルタイルを見返す。
そして、きっぱりと言った。
「してません」
アルタイル「……」
あまりにも真っ直ぐすぎる視線に、彼は一瞬言葉を失う。
――こいつ、嘘つけねえタイプかよ、この――!!!
アルタイルはわざとらしく視線を逸らし、軽く舌打ちする。
それ以上は何も言わなかった。
それからまた数秒。
レミナは、まだじっとアルタイルの方を見ていた。
見つめ返されたアルタイルは――
「……」
アルタイルは先に折れた。
心の中でもう一回舌打ちしながら、面倒くさそうに手をひらひら振る。
「……わかったよ。とりあえず、信じてやる」
その言葉が落ちた瞬間、レミナの顔にぱっと笑みが咲いた。
それを真正面から食らって、アルタイルの心臓が一拍だけ変なリズムを刻む。
レミナは小さくほっと息をついた。
まるで難しい任務をひとつやり遂げたみたいに。
そしてふと思い出したように、彼女は鞄から取り出したのは、手のひらサイズの小さな日記帳。
ふわふわした表紙に、かわいい猫の飾り、しかも鍵付きだ。
ぱちん、と開いて。
ペンを持つと、やけに真剣な顔で書き始める。
【弱さを見せることを覚える】
書き終えて、しばらくその文字を見つめる。
考えるように、噛みしめるように。
やがてもう一度ペンを取り、横に新しい行を作った。
【ときどき嘘をついてもいい】
……と書きかけて、ぴたりと止まる。
少しだけ眉を寄せた。
「嘘」という言葉がどうにも気に入らないらしい。
数秒考えてから、彼女はまたペンを走らせた。
その言葉の前に、丁寧に付け足す。
【誰にも傷つけない、やさしい】
――こうして一行は、こうなった。
【ときどき、誰にも傷つけないやさしい嘘をついてもいい】
レミナは満足そうに小さくうなずくと、日記帳を閉じて、きちんと鍵をかけた。
その一部始終をアルタイルは、全部見ていた。
頬杖をついて、前を見ているふりをしながら、視界の端で、こっそりと。
彼女の真面目な顔でメモを取る姿も。
「嘘」に条件をつけて悩んでるところも。
……その全部が。
一瞬でアルタイルの胸の奥に、じわっと広がる。
甘くて、くすぐったくて、どうしようもない感覚。
――……ちくしょう! ちくしょう、ちくしょう……!
心の中で毒づきながら、それでも口元だけは、勝手にゆるんだ。
――……なんだよ これ?
レミナ、めちゃくちゃ可愛いじゃねえか!!!
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