シャルロットの苦悩と誤算
悪役視点です
それは簡単な依頼のはずだった。
街の近くに出現したワイバーン3体の討伐。
どうということのない依頼だ。
少なくとも今まではあのエリーが、ダンジョンに向かう片手間で終わらせていた依頼だった。
だがエリーは失墜した。
光の勇者はもういない。
新しい支配者はこの私、常闇の賢者シャルロット=エーデルワイスだ。
それを示すためにも、私も同じようにこの程度の依頼をあっさりとクリアしなければならない。
だというのに。
「くそっ、空に逃げたぞ!」
「弓矢じゃ効果はない! 魔法をつかえ!」
「まずい、酸がっ……ああああああっ、俺の腕がああああ……!」
雑魚どもが悲鳴を上げている。
本当に使えない奴らだ。囮なら囮らしく黙って死ねばいいものを。
鬱陶しいことこの上ないが、対処できるのは私しかいない。
「<フレアジャベリン>!」
炎の槍が空を飛ぶワイバーンの体を貫く。
悲鳴を上げることもなく、黒こげになったワイバーンが墜落した。
「さすがシャルロット様!」
「ありがとうございます……!」
「油断するんじゃないわよ!」
浮かれるアホ共を一喝する。
ワイバーンが上空で甲高い声を上げた。
その声は空に響き、あたり一面に響き渡る。
「ちっ……!」
誤算はこれだ。
奴らは仲間を呼ぶ。
響き渡る声を聞いて、さらに2匹のワイバーンが現れた。
さらに奥からもう1匹、翼を持つ巨体が現れる。
「ウインドドラゴンだ!」
誰かが悲鳴のような声をあげた。
ドラゴンの中でも比較的下級の部類にはいるが、それでも一介の冒険者には手に余る相手だ。
今までワイバーンが仲間を呼ぶなんて話は聞いたことがなかった。
それは、あのエリーが圧倒的なステータスを利用して瞬殺していたからだ。
「まさか、これを知ってたの……!?」
仲間を呼ばれたくないから、一瞬で殺していたのか。
てっきりただの戦闘狂だと思っていたけど、違っていたのかもしれない。
「おい、ワイバーンを倒すだけの簡単な依頼じゃなかったのかよ……!」
「俺だってそう聞いてたんだよ……! 少なくともエリーのやつがいるときは、ワイバーンなんて雑魚だったぞ」
「忘れてたけど、エリーは規格外なんだよ。確かにシャルロットも強いが、所詮は人間レベルだからな……」
良くない雰囲気が流れている。
空気を変えるためにも、あえて大掛かりな魔法を使用した。
「<サンダーボルト>!」
空に雷が走り、ワイバーンとウインドドラゴンをまとめてなぎ払う。
広範囲に雷撃が走る派手な魔法だ。
空を見上げた低レベルの冒険者共が歓声を上げる。
しかし、ワイバーンは感電死させることができたが、さすがにドラゴンは一撃とはいかなかった。
しかもこの魔法は消費が激しい。
魔力ポーションを取り出すと、一気に飲み干した。
「クソっ……大損ね……!」
悪態を漏らしながら、私は次の魔法の詠唱を始めた。
◇
結局、街で待機していた冒険者も呼び出し、総力を上げてドラゴン討伐を完了したのは半日後だった。
勝利の余韻に浸る余裕はなかった。
たかがドラゴン1匹に街の総力を上げる必要があった。
そのことが暗い雰囲気を作り出している。
そもそも、いくら危険地帯とはいえ、こんなところに純粋なドラゴン種が出るなんて今までなかったことだ。
駆り出された冒険者たちは臨時報酬を求めてきたが、戦わなければ自分たちも死んでいたのだ。
報酬を払うなどあり得ない。
だというのに。
「……ちっ、美人だからって調子に乗りやがって」
「これがエリーの依頼なら、なんだかんだでイクスが後から報酬を払ってくれたんだがな」
「やっぱあいつじゃリーダーの器じゃねえよな」
そんな声が聞こえてきた。
わざと聞こえるように言ったんだろう。
冒険者が集まる場所でなら私が手を出さないとでも思ったか。
「<フリーズ>」
最初に言った男を氷漬けにする。
そのまま蹴飛ばすと、床に倒れて粉々に砕け散った。
「なっ、貴様、なにしやがる!」
「何か文句でもあるの?」
「ふざけんじゃね──」
「<フリーズ>」
最後まで言葉を聞かずに二人目の男も氷漬けにする。
氷の表面にヒビが走り、バラバラの氷片になって床に散らばった。
「何か、文句は、あるのかしら?」
言い聞かせるようにゆっくりと言葉を発する。
それ以上は誰もなにも言わなくなった。
◇
街の空気が良くない。鉛のように重くなっていた。
エリーが好き勝手していた頃は不満こそ多かったものの、同じくらいに活気も良かった。
だが今は口数も少ない。
それによくない噂も流れている。
エリーがいなくなったことで街を守るものがいなくなったため、モンスターどもが襲撃をかけにくるというのだ。
くだらない噂話だ。モンスター共にそんな知能あるわけない。
なのに、冒険者の数が減っているという。
噂では街で唯一のスキル屋も街を出ることに決めたという。
まったく、どいつもこいつも、エリー、エリー、エリー!
やっとあの女がいなくなってこの私が天下を取ったと思ったのに、なんであんな女のことなんかまだ話題になっているのか。
「やはり情けをかけて生かしておいたのがいけなかったわね」
街から追い出せばそれで十分だと思っていたが、思いの外、愚かな男たちが多かったようだ。
この街で誰がボスなのかはっきりさせなければならないだろう。
あのイクスもそうだ。
この私の誘いを断るなんてあり得ない。
今度あったらチャームの魔法を使って無理やりにでも仲間にしてしまおう。
そうと決まればさっそく行動だ。
馬車を手配し、街を出て行ったあいつらに追いついて、連れ戻してやる。
捕らえたら、街の中央広場に貼り付けてやろうか。
裸にひん剥いて晒せば、誰がこの街のボスなのかみんな思い知るでしょう。
あいつらは馬車もないから徒歩で街を出て行ったという。
明日の朝にでも出ればすぐに追いつけるだろう。
「待ってなさいよエリー=クローゼナイツ。アンタの時代は終わったってことを証明してやる」




