新しい仲間と新しい装備
「ゴメンなさい……なんでもシマスから許してくだサイ……」
宝石姿になったパンドラが涙混じりの声を出す。
エリーが暗い笑みを浮かべながら剣を手にした。
「はあー? よく聞こえないわねえ?」
「痛っ、痛いデス! やめてくだサイ!」
剣の先で何度も突いている。
すでにパンドラは俺の奴隷となっているため、エリーに反撃もできない。
完全に萎縮しているパンドラを、エリーがいびり倒していた。
エリーが不機嫌なのには理由がある。
俺たちは今、夜の草原で野営の準備をしていた。
本来なら冒険者用の小屋があるはずだったのだが、パンドラに破壊されてしまっていたんだ。
擬態系モンスターが何かに擬態するためには、一度それを体内に吸収しなければいけないらしい。
そのため小屋も食べてしまったといっていた。
俺としては野営でも構わないのだが、温かいベッドで眠れると思っていたエリーはひどく激怒した。
あのエリーがテントと寝袋なんて許すはずがないからな。
とはいえすでに夜もだいぶ更けてきた今から移動するのは難しい。
そういうわけで、エリーはひたすらにパンドラを攻撃してストレス発散に努めていた。
「ご主人様、助けてくだサイ!」
そう懇願されたが、エリーが不機嫌だと俺も困るからな。
むしろあの程度で済んでるならエリー相手にしては奇跡と言えるだろう。
ちなみにパンドラは小屋に擬態できるため、その中で夜を明かすことはできる。
しかしエリーに「それってこいつの腹の中で寝るってことでしょ。絶対に嫌よ」と言われたのでその案はボツになった。
まあいくら奴隷だから安全と言われたって、モンスターの中で眠ることに抵抗がある気持ちはわかるからな。
やがて野営の準備ができたため、食事にすることにした。
ちなみにテントの設置にはエリーにも手伝ってもらった。
なんでアタシがこんなこと……、と不満そうだったが、なんだかんだ最後までやってくれた。
ちょっと楽しそうだったのは、テントの設置が初めてだったからかもな。
こうやって少しづつ庶民の生活に慣れてくれればいいのだが。
食事は適当に作った鍋だったのだが……。
「ふーん。まあまあね」
エリーがそんな感想を漏らす。
高級料理に慣れているエリーがまあまあというのなら、普通の冒険者にとってはかなり美味しい部類になるだろう。
鍋に水を張り、適当な材料を放り込んで煮るだけだから簡単だし、こんなんでも意外と美味しくなる。
材料をふんだんに使ったためちょっと贅沢だが、ドレイクたちのおかげで20日の予定だった旅がかなり短縮できそうだからな。
少しくらい贅沢をしても大丈夫だろう。
ちなみにドレイクやグリフォンたちはどこからか獲物の動物を狩ってきて美味しそうに食べていた。
いざとなったら彼らに肉を分けてもらうこともできそうだな。
そう考えると、食料の荷物は少なくてもいいかもしれない。
「いざとなったらホネやニクを食べればいいしね」
「グルガッ!?」
グリフォンたちが驚いたように声をあげる。
あんなに手足のようにこき使っておきながら、扱いは非常食でしかないのか。酷い。
「そうなりたくなかったら、しっかりと働くことね」
エリーがニヤリと笑みを見せる。
グリフォンたちがブルブル震えながら必死に声を上げていた。
さすがエリー、奴隷の扱いに慣れているな。
俺なんかよりよっぽど奴隷王の名にふさわしい気がする。
「ま、いいか。俺は俺のやり方ですればいいんだからな」
「きゅいっ!」
ドレイクが嬉しそうに声を上げた。
ほんと、俺がご主人様でよかったな。
「で、ホネやニクにも価値があるのに、あんたは何の役に立つわけ?」
宝石となったパンドラをエリーが手のひらで転がしている。
「このままだと質屋に入れて換金するくらいしか使い道しかないけど」
「そ、そんなことナイ!」
「口ではなんとでも言えるわよ。実際に見せてくれないと、砕いてすり潰して宝石粉にしたあと魔法薬の材料にするわよ」
「ひいいいいっ!! ご主人様! この横暴な女は何なのダ!」
「エリーは元は光の勇者だからな。今は、訳あってその力はもうないんだけど」
「……ふん」
エリーが不機嫌そうにそっぽを向く。
力を失ったのは自分の横暴な行動が原因だからな。
しかし、その話を聞いたパンドラはガタガタと震えだした。
「光の勇者って……あの、目につくモンスターを片っ端から殺して回ったとイウ、伝説の大量虐殺者のコトか……!?」
なんだかひどい言われようだった。
「頼む、殺さないでクレ! ちゃんと役に立つカラ! 例えばコレなんかどうダ!?」
そういうと、エリーの手のひらから逃れるように俺の元へと飛び、一本の剣に姿を変えた。
真っ黒なそれは、手にしただけで凄まじい魔力を持っているのが分かった。
「これは……すごいな。相当な力を持っているぞ」
「ワレが見た中で一番強い魔剣ダ。完全な再現はできないカラ多少劣化しているが、それでも十分に使えるダロウ」
手にとって軽く振ってみる。
力を込めずにただ振っただけなのに、空気の割れる音が響いた。
空中に魔力の残滓が漂うのを感じられる。
「これはマジですごいな。一体なんなんだ」
「詳しくは知らナイが、持っていた人間は「魔剣グラム」と呼んでいたナ」
「魔剣グラムだと。神話に出てくる武器だぞ。まさか本物のわけはないだろうが……」
「よくわからないけどそんなに強い武器ならアタシによこしなさいよ」
「やめてクレ! あの女に持たせタラ絶対ロクな使い方をしナイ!」
パンドラに悲鳴にエリーがムッとした表情になる。
「なに勝手に決めつけてるのよ。剣の使い方くらい知ってるに決まってるでしょ。何年光の勇者やってたと思ってるのよ」
「エリーはすぐ聖剣を投げてたよな」
「近づいてから切るなんて面倒じゃない。投げた方が早いし効率的でしょ」
「ヤッパリ間違ってるじゃないカ!」
そういうわけでパンドラが擬態した魔剣グラムは俺が持つことになった。
どっちみち本当に魔剣なら、レベルの低いエリーが持つと呪われるかもしれないし、俺が装備するしかないんだけどな。
それにしても、ミミック系のモンスターを捕まえるとこんなことができるんだな。
もう一体捕まえて、次は防具も欲しいところだ。




