その名はスレイブマスター
<奴隷化>なんて名前のスキルは見たことも聞いたこともない。
説明を求めて店員の方を見ると、向こうもまた知らないようだった。
無表情のまま目を見開いて俺のスキル欄を見つめている。
よく見ようとしたのか、目深にかぶっていたフードもはずしていた。
それで気がついたがどうやら女の子だったようだ。
「これは……とても珍しいスキル」
「知ってるのか?」
「聞いたことがある。ちょっと待ってて」
そういうと店の奥に行き、しばらくして分厚い本を持って戻ってきた。
カウンターに乗せると、とあるページを開く。
「この本はこれまでに確認されたスキルが全て載っている。そして<奴隷化>のスキルはこれ。確認されたのは200年前が最後」
そういってページの一部分を指差した。
本には、様々なスキルが詳細な説明と共に記載されている。
そのなかで店員が指差したスキルには、わずか2行の説明しかなかった。
<奴隷化>
対象を奴隷にするスキル。
かつて「奴隷王」と呼ばれた人物が使用したといわれる。
「説明はこれだけ?」
「そう。今までは存在するかどうかも疑わしいといわれていた。でも、今存在することが証明された」
「なにこの卑猥なスキル……」
エリーが引き気味に眺めている。
なんで卑猥って決めつけるんだよ。
そう考える奴の頭の中の方が卑猥なんじゃないのか……。
「それにしても、奴隷王というのは?」
「奴隷王は、とある国の初代皇帝。元は奴隷だったが下克上を起こして成り上がり、やがては一大王国を築き上げた。健国王とか、辺境王とか呼ばれることもある」
「ああ、それなら聞いたことあるな。今も続くどこかのデカイ王国を作り上げたっていう……」
奴隷から成り上がったというところが人気なのか、色々なパターンの物語が作られている有名な人物だ。
「そんなスキルがどうして俺に」
「それはこっちが聞きたい。<奴隷化>はほとんど記録のないスキル。どうやって習得したのかぜひ知りたい」
店員の女の子が無表情のまま近寄ってくる。
そういわれても、俺だってなんで取得したのかわからないんだよな。
とりあえず、エリーと<ギアス>のスキルを使って奴隷契約を結んだことは無関係じゃないだろう。
でも<ギアス>で奴隷契約を結ぶこと自体は昔から行われていたことだ。
それが取得条件になるのなら、もっと多くの人が取得しているはず。
そこでふと気がついた。
奴隷王は、元は奴隷だったが下克上を起こすことで成り上がり、やがては元国王を自分の奴隷にしたという。
俺もまたエリーに奴隷同然の扱いを受けていたが、色々あって逆にエリーを奴隷にしている。
この二つの境遇はよく似ていた。
もしかしたら取得条件が、奴隷として使役されていたことがあることと、その主人を逆に奴隷として扱うことの二つがあるのかもしれない。
奴隷が人生逆転するなんて滅多にないことだからな。
レアスキルとなるのもしかたないだろう。
「それで、これはどういう効果なんだ」
「奴隷王は、どんな相手でも屈服させることで奴隷にできたといわれている。人だけじゃなく、動物やモンスター。果ては魔王さえも、その配下においていたとも」
「魔王すらも……!?」
もし本当ならとんでもないことだ。
だけど店員は無表情のままだった。
「あくまで伝説。本当かはわからない。だけど強力な配下を多数従えていた記録は残っている」
なるほど。まあ200年前の人物だからな。
伝説は誇張されるものだし、詳細な記録も残っていないだろう。
この辺は使いながら調べていくしかないか。
「そして、奴隷のステータスを自分のものにできたとも言われてる」
そういえばエリーも俺の奴隷となったことでステータスが上がっていたっけ。
そこでふと、そういえば自分のステータスを確認していないことに気がついた。
俺はさっそく自分のステータスを表示する。
イクス=ガーランド
レベル50
職業:戦士
攻撃:23(+10)
魔力:12(+10)
防御:21(+10)
精神:35(+10)
素早:21(+10)
幸運:14(+10)
ステータスにエリーと同じ補正がついていた。
なるほど。
奴隷を自分の戦力にできるだけじゃなく、自分自身の強化にもつながるのか。
そうなると気になるのは、奴隷の最大数だな。
もしも無限に増やすことができて、ステータスの補正も無限に増えていくのだとしたら……。
そこまで考えて、エリーのステータス上昇が+10で打ち止めになったことを思い出した。
さすがに無条件に強くなり続けるということは出来ないっぽいな。
本当にそこが上限なのか、それとも理由があって止まっているだけなのか、その辺りも調べていく必要があるだろう。
その後、俺とエリーは敵感知や料理などといったスキルを習得したのだが、料金は全部タダでいいと言われた。
「本当にタダでいいのか」
「いい。その代わり<奴隷化>についてわかったら詳しく教えて欲しい」
なるほど。
ギブアンドテイクってやつだな。
「わかった。……あ、でも。俺たちはこの街を出るつもりなんだ」
「なぜ」
さきほどのおじいさんから聞いた話を伝える。
店員は小さくうなずいた。
「わかった。そういうことなら私も店を閉める。せっかくだから、二人のパーティーに私も……」
そう言いかけたところで急に口を閉じた。
無表情だが、どことなく怯えているように見えるのは気のせいだろうか。
なぜだか俺の背後を見つめているけど、俺の後ろにはエリーくらいしかいないんだが……。
「……やめておく。私は先に隣街にまで移動しているから、着いたら必ず連絡して」
「わかった」
「絶対。約束」
「ああ、それと君の名前を教えてくれ」
店員はぱちくりと目を瞬かせたあと、思い出したように自分の名前を告げた。
「ミスト。ミスト=ブレイディア」
「俺はイクスで、こっちの子がエリーだ」
「了解した」
そういうと店の奥に引っ込んでいった。
たぶん引っ越しの準備を始めるんだろう。
なんというか、不思議な雰囲気の子だな。スキルにしか興味ないって感じだ。
なんとなく後ろ姿を目で追っていたら、後ろでエリーの不機嫌な声が聞こえた。
「イクスってちょっと可愛い女の子がいるとすぐに手を出そうとするわよね」
「どうした。嫉妬してるのか?」
「はあ!? そんなわけ……はいそうです。アタシだけを見てほしいです」
「やっぱりエリーは可愛いなあ」
「~~~~~~~~~~~~っっっ!!!!」
真っ赤な顔で涙を浮かべながら、猛烈な勢いで睨んでくる。
うーん、怒った顔も可愛い。
今夜が楽しみだ。




