新たなる旅立ち
翌日。
宿を引き払った俺たちは、さっそく街の出入口へと向かっていた。
朝早くに出てきたこともあって、街を歩く人の姿は少ない。
「結構長くいたこの街ともこれでお別れか。そう考えるとちょっと寂しいな」
「冒険者なんてそんなものでしょ。さっさと行きましょ」
エリーはドライなようで、その言葉通りにさっさと進んでいく。
彼女の言葉通り、冒険者というのはその名前にあるように、各地を冒険して歩くものだ。
ここみたいにひとつの街に長く留まることの方が少ないんだよな。
街を出ることでむしろ「冒険者」に戻るのだと思えば、寂しさよりも楽しさの方が勝ってくる気もしてきた。
やがて歩くうちに、街の外門が見えてきた。
この街には、強力なモンスターが徘徊するエリアにある割には、取り囲む外壁がほとんどない。
なにしろこの辺りはワイバーンなどのドラゴン亜種も普通に出るからな。
木の壁や、ちょっと石を積んだ程度の外壁なんて、ワイバーンが羽ばたくだけであっという間になぎ倒されてしまう。
作るなら城壁並みのモノにしなければダメなのだが、そんなのを作れる職人も材料もない。
というわけで、ここからが人間の領域だということを示す木の柵程度しかなかった。
街の入り口には二人の門番がいた。
やってきた俺たちに気がつくと、ジロジロと好奇心丸出しの表情で近づいてきた。
またエリーをバカにするつもりなのか。
この数日で慣れたとはいえ、やっぱり気分のいいものじゃない。
さっさと通り過ぎようとしたら、その前に向こうから話しかけてきた。
「ようイクス、毎日二人で同じ部屋に泊まってるそうじゃねえか」
「なにをやってるのか詳しく聞かせてもらいてえなあ」
どうやら相手は俺だったらしい。
俺の両側から絡んできて、逃さないようにがっしりと掴んでくる。
「それで、実際にどこまでやったんだ」
「どこまでもなにも、こんなに可愛い女の子と一緒の部屋なんだぞ。やることなんてひとつしかないだろ」
「だよなあ。うらやましいぜ。やっぱり夜も女王様なのか?」
「それが聞いてくれよ。エリーって普段はああだけど、ベッドの上だと大人しく……」
「このバカーーーーーーーーっ!!!!!」
エリーがいきなり大声を上げて俺の言葉を遮った。
「何でもかんでも話すんじゃないわよ! アンタにはデリカシーってものがないの!?」
「え、言ったらダメだったか?」
「当たり前でしょ!」
そういうものなのか……。
こんなに可愛い女の子が俺のことを好きだなんて嬉しくて仕方がない。
だから自慢したくてしょうがないのだが、エリーが嫌がるなら我慢しようか。
「ま、そういうわけだから。なにをしてたのかは想像に任せるよ」
そういうと2人の門番がニヤニヤと笑みを浮かべる。
「まったく、うまいことやったよな。あのエリーを奴隷にするなんてな」
「一体どうやったんだ。教えてくれよ」
あれはまあ、色々な偶然が重なってのことだったからな。
教えたところで同じことはできないだろう。
「聞いてもしょうがないから忘れろ。それよりも急いでるんでな。通らせてもらうぞ」
隣街までは20日ほどの旅だ。
それなりの旅になるから、明るいうちにできるだけ距離を稼いでおきたい。
「なんでそんなに急いでるんだ?」
隠すようなことでもないし、話してもいいか。
「俺も聞いた話なんだが──」
今までエリーがこの辺りの危険なモンスターを討伐していたこと。
そのエリーがいなくなったため、今後は討伐する冒険者が不足すること。
ここを根城にしていたモンスターたちは人間たちを恨んでいること、などを話した。
「つまり、いつ襲撃されてもおかしくないってことだ」
話を聞いた門番たちが、急に顔色を曇らせた。
「……もしかして、門番の俺たちはヤバいのか?」
「今すぐどうこうってことはないだろうが、エリーがいないってモンスターたちに気づかれたら危険だろうな」
街の一番外側を守っているからな。
まっさきに攻撃される可能性も高い。
門番たちは顔を見合わせ、頷き合った。
「すまない。教えてくれてありがとう」
「気にするな。俺たちだって一足先に逃げ出すんだからな」
「俺たちも後で追わせてもらう。気を付けろよ。生きて帰ってこその冒険者だからな」
「わかってるよ。ありがとう。そっちこそ無理はするなよ」
そういって俺たちは別れた。
それは街を出るときにいつも交わす冗談まじりのやりとりだったが、今日ほど重みを感じたことはなかった。
街の外には広い世界が広がっている。
見た目はのどかな草原だが、高レベルのモンスターが徘徊する危険な地域だ。
今まではエリーが全て倒していた。
荷物持ちだった俺はその後ろをついていくだけ。
守られるだけの存在だった。
だけど今日からは俺がエリーを守らないといけない。
足の進まない俺に、エリーが横から声をかける。
「まさか怖いの?」
「バカ言え。楽しみで思わす足が止まっただけだよ」
もちろん嘘だったが、エリーは口元に笑みを浮かべた。
「ふうん。ま、お手並み拝見ってところね。頼りにしてるわよ、ご主人様」
「任せとけ」
今までは幼馴染としてエリーのそばにいた。
たとえ荷物持ちだったとしても、エリーを助けられるのは俺だけだという自負も少しはあった。
だけど、今ほどエリーを守りたいと思ったことはなかった。
幼い頃からずっと一緒にいて、様々な場所やダンジョンを探索したけれど、ここからがきっと、俺たちの本当の冒険なんだ。
エリーの手を握る。
向こうもまた俺の手を握り返してきた。
そうして俺たちは、誰もいない道へと足を踏み出した。
2人の冒険はこれからだ! みたいな感じですが、まだ続きます。
というわけで奴隷編はここで終わり、次からは冒険編になります。
私自身これから2人がどうなるのかまだわかりません。
どう成長していくのか、楽しみながら描いていきたいと思います。
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