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雪待ちの花  作者: Akka
22/22

玉ぞ散りける

推敲なしで投下しますので、誤字脱字があるかと思います。

後日修正いたしますので、見苦しい点はご容赦願います。

雅な音が奏でられ、贅を尽くした食と美酒が振舞われる。

本来皇族の結婚となれば様々な儀式があるものだが、今回は双方が直系の皇族であり、更に大きな声では言えない事情が多すぎる。

どのような検討がなされたのかはユウコの知ったところではないが、儀式そのものは非常に簡素であった。


一度目の婚儀は国と国の和平のためだった。

斎宮でありながら異国の皇子と結婚するという矛盾さえ、それが国のためと思えば耐えられた。

耐えるどころか、わずかな後にレイシアを憎からず思うようになり、いつしか愛した。

決して夢物語のような生活ではなく、むしろ苦く毒を飲むような思いをするほうが多かった。

でも、それでも振り返れば幸せだったと思える。

それは間違いなく、レイシアの存在ゆえだった。


ふっと身体から力が抜ける。

思えば皮肉な話だ。

緩んだ口から吐息が漏れれば、何を勘違いしたのか隣の兄が微笑んだ。

そこからさざなみのように和やかな空気が広がっていく。


「誰ぞ」

タカオが呼びかける。

「何か、余興はないか」


居並ぶ貴族たちの間に視線だけの駆け引きが起きる。

この祝いの席に華を添えられれば、この上ない誉れとなり、明日からの発言力も高まることは間違いない。その反面、失敗すれば帝の権威さえ汚したこととなり、失墜は免れ得ない。

譲り合いの気配と互いを牽制する視線が行き交い、流れが固まりかけたそのとき、御簾の外から唐突に声が上がった。


「では、私が」


ユウコは弾かれたように顔を向けた。

まさかと思うと同時に、やはりとも思う。

忘れてと行ったのに。来てほしくなどなかったのに。

「……レイシアッ!」





立ち上がりかけたところを思いがけない強い力で引かれ、後ろに倒れこんだ。

脇息や酒器が倒れ、不快な音が響く。

しかしユウコを拘束した腕は全く緩むことはなく、左腕は胴を押さえ、右手は白い首に添えられた。

親指に僅かに力が込められ、息が苦しくなる。

あえぐユウコに構うことなく、タカオはゆったりと声を掛けた。

「これはこれは……。さて、招いた覚えはないのだが?」

「ええ。ですが、リュミシャールの皇弟として、お伺いいたしました。

 この慶事に祝いの剣舞を献上させてはいただけないでしょうか」


ざわついていた室内が押し黙る。

この席は国内の有力貴族のみを招いているので、レイシアには出席の権利はない。

だが、「リュミシャールの皇弟」として祝いを述べるというのであれば、それは外交上決して無碍には出来ない。

この国では何ら力を持たないその地位が、その実この国の中で誰もが侵し得ない砦であるからだ。


タカオもそのことは十分に承知しているのだろう。

苦々しげに息を吐くと、改めてユウコをきつく拘束する。

「それはそれは……。しかしいかなる人間にもこの室内での帯刀は許されない。どうしてもというのなら、その場で舞ってもらおうか」

「……主上!」

ユウコは息が苦しいのも忘れて声を上げた。

本来なら宮中で帯刀は許されていない。しかしレイシアはそれさえも許されている。

それはリュミシャールという国を慮っての特別な配慮に違いないし、今の言葉は国司を無碍にするにも等しい発言だ。

しかしそれ以上喋るな、とでも言うようにタカオの手が首に食い込む。

「このように、我が妃(・・・)も望んでいるようだ。如何かな?そのような席でよければ、だが」

居並ぶ貴族たちの間に嘲笑と追従が広がる。

しかしその空気を一掃するように、レイシアは謝辞を述べて深く頭を下げ剣を取った。




張り詰めた緊張感の中、宮廷楽師が楽器を構えると同時に、滝口の武士たちが周囲を囲んだ。

もし不穏な動きをすれば斬るという意思表示に他ならない。

しかし音楽とともに上げられた腕の動きは、思わず周囲に感嘆のため息が漏れるほど優雅であった。


御簾越し、大きくしなやかな体躯が舞う。

その後を追うように、裾がひらめき優美な流れを作る。

降り積もる雪にも似た、えも言えぬ美しさ。


長く響いた最後の笛の音が終わると、レイシアは掲げた剣を鞘に収め一礼した。

「最後に、ささやかながらこれらをお納めいただきたく」

その言葉を追うように、次々と女官たちが御簾の外に祝いの品々を並べていく。

その中の一つをレイシアが手に取り、恭しく掲げた。

「これは私が国を出る際に兄より授かりし宝玉です。リュミシャール皇帝の名に於いて、これを」





背後でタカオが小さくレイシアを罵倒し、御簾を上げるよう指示した。

リュミシャール皇帝の名に於いて、と言われれば、帝であるタカオ自身が受け取らないわけにはいかない。

また、誰であろうとそれを阻むことは出来ない。

害することは即ち、彼の国を害する意志を表明することと同意義だからだ。





侍従が御簾を上げるため手をかけ、ユウコを拘束する腕が強くなった、その刹那。


大きく視界が切り裂かれ。

派手な音を立てて黄金や宝玉が飛び。


鮮やかな衣と場違いなほどに冷たくきらめく剣の残像。


人々が悲鳴を上げる間もなく。

滝口の武士が追うよりも早く。


「どなたも、その場を動かないで頂こう」


レイシアが構えた剣の切っ先が、帝であるタカオの首に向けられた。










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