第2話 俺がドS腹黒アイドルのマネージャーになってしまった件
「マネージャーってなんでいきなりそんなことを俺に頼むんです?」
「いや、しょうがないじゃないか。リアナが君のことを気に入ってしまったんだから。こちらとしては人気アイドルの願いはある程度叶えたい」
「……ちなみに拒否権は?」
「ない……とは立場的には言えないが。そうだね、断られたらリアナが何をしだすかの保証は出来かねるね」
アカン奴や。さっき痴漢をでっち上げようとしてきた奴が、この頼みを断ったら何をしでかすか想像がつかない。
いや、悪い事をする未来しか見えない。
あの子は清純とかそう言うタイプには到底見えなかったし。
「ちなみに給料とか出るんですか?」
「当たり前だろう? マネージャーはれっきとした仕事だ。君が学生であろうとなんであろうとちゃんとした給料は支払わせてもらうよ」
「ふむ、ちなみにどれくらいですか?」
「月に三十万ほどでどうかな?」
「……」
高校生で月三十万!? この会社どんだけ儲かってるんだよ。
でも、どんな仕事かわからないけど月に三十万ももらえるならいいのかもしれない。
確実に面倒な事に巻き込まれたのは確実だが、そこに破格の報酬が与えられるのなら良いかもしれない。
多少の面倒で三十万が手に入るんなら、損得で考えれば圧倒的に得だろう。
「もちろん、君が高校を卒業しても何も問題が起こらなければ雇い続ける。これでどうかな?」
「……わかりました。なります。マネージャー」
「そう言ってもらえてよかったよ。じゃあ、私は契約書などを作ってくるから君は今のリアナのマネージャーから引継ぎを受けてくれ」
「わかりました」
超面倒な事になったけど、これだけの報酬がもらえるんならいいか。
平和を維持するためにはどうしても金が必要だ。
それに、マネージャーと言う仕事が大変というのはそこまで聞かないし。
何よりも人気のアイドルのマネージャーなんて誰もが羨む職業じゃないか。
知らんけど。
「初めまして。私は元リアナのマネージャーの貫井と申します。社長に言われて業務の引継ぎに来ました」
「初めまして。海原です。よろしくお願いいたします」
待合室に社長と入れ替わりで入ってきたのは二十代後半くらいに見える、いかにも仕事が出来そうな女性だった。
短く切り揃えられた黒い短髪に、キリっとした同色の瞳。
かけているリムレス眼鏡からは溢れんばかりの知性を感じる。
「はい。でも、良かったです。リアナさんが気に入る人を見つけてきてくれて」
「……どういう意味ですか?」
なんだか、発言から嫌な予感しか漂ってこないんだけど。
しかも、微妙に顔がやつれているし。
リアナのマネージャーってそんなに大変なの?
もしかして、尋常じゃないくらい辛いとかそう言う感じなの??
「何でもありません。では、業務について軽く説明しますね」
「お願いします」
そこからは、淡々と業務の説明がおこなわれた。
どうやら、俺の仕事は簡単に言うとリアナのご機嫌取りらしい。
スケジュールの管理や調整は他の人がやってくれるらしい。
その点はありがたい。
人をマネジメントする知識なんかまったくないからいきなりやれって言われたらどうしようかと肝を冷やしていたところだ。
「と言うわけで、これから私はスケジュール管理やそう言ったことを主にやっていきます」
「俺はリアナがどこかに行く場合について行けばいいという事ですよね」
「その通りです。移動する収録やダンスレッスンの時に同行して頂ければそれで結構です。やっていく途中で疑問や困ったことがあれば相談してくださいね」
「はい。お気遣いありがとうございます」
引継ぎと言っても、俺がやる業務は付き添いや機嫌取りだけか。
それくらいであればある程度簡単にこなせそうだ。
この仕事で月給30万ももらってしまっていいのだろうか。
というか、年収の壁に引っかかったりしないだろうか?
「あと、一応はアルバイトと言う形になりますが高校の方は大丈夫ですか?」
「……どうなんでしょう。原則禁止であったと記憶していますが」
「わかりました。そちらの方は私から話を通しておきます。学校もリアナと同じという事ですし、何かあったら助けてあげてくださいね」
「わかりました。善処します」
そこは業務外な気もするけど、ここまで破格の条件を提示してもらったのだから。
それくらいのサービスはしたほうが良いだろう。
きっと、そのほうがこれからもいい関係を続けていけそうだ。
長期的な目で見てそちらの方が圧倒的に合理的。
「ありがとうございます。それでは、今からはリアナと親睦を深めることも兼ねて会話をしてみてはいかがでしょうか。もうすぐここに来るはずですので」
貫井さんがそう言うのと同時に今度がノックも無しに待合室の扉が開け放たれた。
そこには、先ほどの制服姿ではないリアナがいた。
「貫井さん、お話は終わりましたか?」
「ええ。今ちょうど終わったところなので。それでは私は失礼しますね。海原くん頑張ってください」
ちょっと待て。今から、頑張るような何かがあるか?
いや、普通にこれから始まる仕事に対して激励してくれただけか?
俺の考え過ぎだと良いんだけど。
「改めまして望月リアナです。これからよろしく。えっと……名前を聞いてなかったね」
「海原凪だ。これから君のマネージャーをすることになった。よろしく頼む」
「うん。よろしく。凪」
「いきなり名前呼びか? まあ、別にいいが」
とんでもない距離の詰め方だ。
業界人ってみんなこんな感じなのか?
「私のことはリアナで良いから。みんなそう呼ぶし」
「わかった。じゃあ、遠慮なくそう呼ばせてもらう」
「で、凪って何歳なの?」
「俺は十八だな。大学に進学しようとしてたんだが、ここに拾われて働くことになった」
「なるほど。凪は私よりも二個年上なんだ」
待て待て。二個年上ってことはリアナは十六歳なのか?
十六歳で国民的アイドルって。
相当凄い才能があるんだろうな。
「今はダンスレッスンか何かをしてたのか?」
先ほどは制服を着ていたけど、今は少し大きめのサイズの半袖Tシャツと下には真っ黒な膝上くらいの半ズボン。
帽子を外しているから、駅で見た時よりも印象がかなり違う。
瞳は明け方の空のように澄んだ水色。
驚くほど大きい瞳と整った顔立ち。
晒されている肌はまるで大理石のように白くて透き通って見える。
そして、ほっそりとした体躯にメリハリのある輪郭。
胸は大きいとも小さいともいえないちょうどいいサイズに思える。
これだけ、顔立ちとスタイルが整っているのなら国民的アイドルと呼ばれていても何ら不思議じゃない。
「そうそう。今日は元々学校に行く予定だったから事務所でやる事なんかないし」
「なるほどな。まあ、これからよろしく頼む」
「うん。よろしくね。あと、一つ聞きたいことがあったんだけどいい?」
「俺に答えられることならいくらでも答えるぞ」
「なんであの時、見捨てようとしやがった? ああ?」
……あれぇ~?
なんだか、キャラが変わっているというか。
さっきまでは活発な元気っこって言うイメージだったのに今は完全に女帝だ。
どういう事? しかも口調がかなり荒々しい。
「それはあの時言っただろ? 後味の悪い結末を避けただけだ」
「んなこたぁわかってんだよ。私が聞きたいのは、あの時私を見捨ててあのナンパ男たちに何かされてたらどう責任をとるかって話なんだよ」
「責任なんかとらないでしょ。あの時は全く関係なかったし。助けることに特段のメリットも感じなかったんだから」
「……お前、マジか」
なんでドン引きされてるの俺。
ドン引きしたいのはこっちなんだけど。
これが国民的アイドルの裏の顔って事?
貫井さんの頑張ってってこういう事だったのか。
なるほど。だから、妙に俺がマネージャーになるって知って喜んでいたのか。
こんなキツそうな性格をしてたらそりゃあ、やりたく無くなるわな。
「マジかって何だよ」
「普通、困ってる人間がいたら助けるのが普通でしょ」
「普通じゃないだろ。そもそも、俺は今まで困ってきたときに家族以外の人間に助けられた覚えはない」
「……苦労してきたんだ。凪って」
「変な同情はいらんぞ。てか、それがお前の素か?」
「だったら悪い?」
「全然。幼いころから業界に居たんならストレスも溜まってるだろうし、否定できるわけもない。逆に少し安心したくらいだ」
「は?」
冗談とか皮肉じゃなくて俺は本気で安心している。
だって、素が清純で活発な女の子だったら敬語とか使った方がいいかな? って考えるけど。
中身がこんな風に腹黒い奴なら変に気を使わなくていい。
その分かなり楽と言えよう。
「お前にはそこまで気を使わなくて済みそうで良かったよ」
「なんだお前。一応、私は凪がマネジメントするアイドルなんだけど?」
「要は、俺はお前が外出時にボロを出さないようにサポートしつつ、こんな風にガス抜きをすればいいんだろ?」
「……まあ、そうだけど」
「なら、お任せあれだ。そう言うのは慣れてる」
俺の周りの人間は何故だか、カスかクズしか集まらなくてな。
そう言う奴の愚痴を聞いたりするのは生憎と慣れてるんだ。
まあ、類は友を呼ぶと言われたら耳が痛い話だが。
「はぁ。なんだかアンタはわからない人だね。でも、その分面白いかも。やっぱり私の目に狂いはなかったみたい」
「物好きだな。でも、俺も雇い主と良好な関係が築けるのは嬉しい事だ」
正直、こんなに旨い仕事を手放す気にはなれないし。
続ける以上は良好的な関係を築けた方がこちらとしてもありがたい。
「あっそ。でも、本当に珍しい。私相手にそんなにラフで居られる人も珍しいからね」
「ああ、まあそうだろうな」
この容姿にアイドルと言う肩書だ。
同級生からは浮いてしまったり、もしかしたら憧れの存在として見られてきた事だろう。
それに男子からは嫌な視線を向けられることも少なくはないだろう。
他にも、大人からも敬語で話されたり。
気苦労は絶えなかったのかもしれないな。
残念ながら、俺にはそう言う経験が全くなかったから気持ちはわかってやれないが。
「ま、そう言うわけでこれからよろしくね。凪」
「ああ。こちらこそ。リアナ」
こうして、俺の波乱万丈なマネージャー生活が始まってしまったのだった。




