第1話 ナンパから助けた? 女の子は国民的アイドルでした
「面倒だ。非常に面倒だ」
学校に行くという行為が俺には非常に面倒で仕方がない。
別に学校が嫌いってわけでもなければ、特段行きたくない理由があるというわけでもない。
ただ、家を出て電車に乗って数十分かけて学校に行くという行為が非常に面倒に感じて仕方がないのだ。
「刺激を求めてるわけでもないんだけどな」
普段の生活に刺激が欲しいとかそう言う事は全くない。
俺は平和な生活を愛してる。
心のそこから愛してると言っても過言ではない。
そもそも平和な世界に生きる事こそがこの俺、海原 凪の存在理由と言っても過言ではないとすら感じている。
なのに……。
「なぁ~いいじゃんか。少しくらい俺らと遊んでくれよ」
「そうそう絶対に悪い思いはさせないからさ」
「ちょ、ちょっと困ります」
目の前で女の子が男二人にナンパされている。
しかも、かなりガラが悪い。
女の子はピンク色の髪をポニーテールにしていて帽子をかぶっている。
そのせいで表情などはわからないけど、迷惑してそうな雰囲気は感じ取れる。
てか、同じ高校か。
「なんでこういう場面に出くわすかね」
ただでさえ、憂鬱な朝の登校時間だというのに。
この出来事のせいでかなり憂鬱になった。
しかも、こういう時に限って周囲にはあの子を助けてくれそうな人間はいなかった。
このまま素通りしたら、絶対に後味が悪い。
しかし、助けに入っても面倒ごとに巻き込まれる予感しかしない。
「はぁ。どっちを選んでも後悔をするのであれば、後味が悪くならない方の選択をしたほうがまだましだよな」
こうなってしまったらあのナンパを止めるしかない。
こんな面倒な現場を目撃してしまった自分自身の運の無さを呪うしかあるまい。
「あの~このご時世そういうナンパとかってはやらないと思うんですけど~」
「あ? なんだテメェ。ガキがカッコつけやがって」
「本当だぜ。俺らがこの子と話してるんだから邪魔すんじゃねぇよ」
「そうですか。じゃ、俺は失礼します」
「「……は?」」
「……え?」
俺がナンパしている男二人と絡まれている女の子から踵を返して帰ろうとすると三人とも素っ頓狂な声を上げていた。
だって、あれ以上関わっても面倒な事になる未来しか見えないし。
何もしなかったら後味が悪いけど、何かしたんなら俺は華やかな気持ちで学校に行ける。
「え、ちょっと待て。俺達が言うのもなんだが、それでいいのか?」
「そ、そうだぞ? 可愛い女の子に良いところを見せるチャンスなんだぞ?」
何故か、ナンパ男たちにそんな風に言われる。
いや、アンタらがナンパしてんじゃないのかよ。
何で俺の方の心配をしてきてるんだよ。
めんどくせぇな。
「いや、だって声はかけたし。これ以上関わってたら時間の無駄かなって」
「お前……人の心どこに置いてきたんだ?」
「そうだぜ? マジで俺たちが言えたことじゃないけど、到底健全な男子高校生とは思えねぇぞ」
「なんなんですか? ナンパやめるならそれでいいじゃないっすか。やめないならそれはそれでご自由にしてください。俺はもう行くんで」
ここで無駄な時間を使うのは本当にごめんだ。
ただでさえ憂鬱な登校時間がこれ以上憂鬱になってしまったら、このままずる休みルートまでありえてしまうのだから。
「「……」」
「で、もういいっすか?」
「なんかナンパしてた自分らが浅ましく感じてきた」
「だな。帰って仕事でも探すか」
何故か絶望じみた表情を浮かべながらナンパ男たちはトボトボ肩を落として帰って行った。
てか、あいつら無職なのかよ。
そんで女子高生をナンパしてるとか。
流石の俺でも呆れるぞ。
いや普通の人間であれば誰しもが呆れるか。
「あ、あの」
「ん?」
「助けて? 頂いてありがとうございました」
「俺は特に何もしてない。ただ、自分が後味の悪い思いをしたくなかっただけだし。感謝されるのも居心地が悪い」
助けようと思って助けたつもりもなかったし。
なんなら速攻見捨てようとしたし。
感謝されるほうが帰って居心地が悪いんだよな。
「そうですか。じゃあ、感謝の言葉は無しにして。なんですぐに見捨てようとしたんです?」
「え? だって明らかに面倒じゃん。それに君を助けるメリットをそこまで感じなかった。メリットのない行為をする必要性を感じなかった」
「……あなたって本当に男性ですか?」
「正真正銘男だが。てか、誰しもがみんな女子のことを考えて生きてるって思わない方が良いぞ」
だって、俺があんまり女子に興味のない人間なのだから。
女子のために張り切ることをバカにする気は毛頭ない。
けど、俺はそうはなれないってだけの話だ。
「……変人ですね」
「変人とは辛辣だな。それより、早く行かないと遅刻するぞ」
今はそこまで時間に余裕があるわけじゃない。
このままここで話し込んでるとマジで遅刻しかねない。
俺は遅刻するくらいなら休んでしまえばいいじゃないかを地で行く人間だ。
だって、遅刻届とかの書類を書くの面倒だし。
「うん。君凄くいい。気に入った」
「……は?」
「と言うわけで、今すぐ私についてきて。拒否権無し」
「は? ちょまっ。おまっ、何してくれてんだ」
尋常じゃない力で腕を引っ張られて目的地とは真逆の電車に乗せられる。
この時点で遅刻が確定してしまったわけだけど。
俺はどこに連れて行かれるんだ?
美人局とかそういう物じゃないと信じたい。
◇
そして、連れてこられたのは都心にある凄く大きなビル。
頂上を見上げると首が痛くなりそうなほどだ。
「……こんなところに連れてきて一体何をさせるつもりだ」
「良いから黙ってついてきなよ。あなたにとっても絶対に悪い話じゃないから」
「全く信用できない。そもそも半分くらい拉致だろこれ」
「こんなにも可愛い女の子に連れてこられるなんて、男の子にとっては最早ご褒美でしょ」
「残念だったな。俺はそうは感じないから今すぐにでも開放してくれ」
今の時間からはどう頑張っても学校には間に合わない。
だから、今日は普通にずる休みをして休みを満喫したい。
こんなやばそうな女と意味の分からんビルに入るなんて絶対に嫌だ。
「ついてきてくれないなら、今この場で痴漢されたって叫ぶけどいい?」
「……」
この歳で性犯罪者として吊るしあげられるのだけは御免だ。
つまり、俺に拒否権はないという事か。
こんなヤバい女に関わってしまった自分の不運を呪うしかないな。
「うんうん。了承がもらえて安心した。じゃあ、文句なくついてきてね」
「……はい」
なんでこうなった。
今日は絶対に星座占いで最下位だったに違いない。
こうして俺は見知らぬビルの中に連れ込まれ、待合室のようなところで待たされること三十分ほど。
これからどうなるかを考えながら待つ三十分はおそらく人生で一番長かっただろう。
「いやぁ~待たせてすまないね。そもそも私は君の名前すら知らない。まずは名前を聞いてもいいかな?」
待合室に入ってきたのは高そうなスーツに身を包んだイケているおじさんだった。
おそらく、こういう人のことを人はイケオジと言うのだろう。
「自分は海原 凪です。高校三年生です」
「そうか。海原君か。まずはうちのリアナをナンパから助けてくれてありがとう」
「……リアナ?」
「ああ、紹介してなかったね。さっき君をここに連れてきた子の名前だよ。望月リアナ。うちのアイドルグループのセンターを務めている子だ」
「アイドル?」
どうやら、俺が連れてこられたここはアイドル事務所のようだ。
だが、俺はアイドル関係の番組やニュースは全く見ないから人気なのかそうでないのかわからない。
「そうそう。最近結構ニュースで出てるはずなんだけど。海原くんはそう言うのは見ないタイプかい?」
「そうですね。あまり見たことはないです」
「そうか。最近ドーム公演も決まって人気上昇中なんだが」
ドーム公演って凄いのかな。
アイドル関係を全くみない俺には全くわからん。
てか、そんなアイドル様が俺をこんなところに連れてきて一体何がしたいんだ?
いよいよ意味不明だ。
「すいません」
「いや、君が謝るような事じゃないよ。それよりも、一つ君に提案があるんだが」
「なんでしょうか?」
「君にリアナのマネージャーをして欲しいんだ」
「……は?」
いきなり投げかけられる提案に意味が分からず、素っ頓狂な声を上げることしかできなかった。




