第99話 空になった器
光の中で、楓の意識はまだ辛うじて保たれていた。世界が変わっていく気配を、感覚だけで追い続けていた。
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遠く、あちこちのダンジョンで、魔物たちが実体を失っていくのを感じた。
形を保っていた輪郭が、淡い光になって崩れていく。存在していた根拠そのものが、静かに失われていくようだった。誰かに討たれるのではない。ただ、そこにいられなくなって、消えていく。
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地下に広がっていた魔法陣の輝きが、次々と消えていった。
空間そのものは、そこに残るのだろう。石造りの通路も、階段も、崩れはしない。ただ、そこに満ちていた気配だけが、跡形もなくなっていく。楓の脳裏に、ただの暗い穴になったダンジョンの姿が浮かんだ。
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塔の術式が、神殿の魔法陣が、1つ、また1つと光を失っていく。
動くはずのないものが、ただそこに残っている。その静けさに、楓は言葉を失いかけた。
けれど、これで終わりなのだろうか。ふと、そんな考えが胸をよぎった。
星脈そのものが消えたわけではない。大地に流れる力を汲み上げる、あの壊れた仕組みが、今は動力を失ってただ止まっているだけなのかもしれない。もしいつか、あの仕組み自体が直ることがあれば――誰かを電池のように使わなくても、また力が満ちていくことも、あるのかもしれない。
何十年か、何百年か。あるいは、もっと先か。いつか、誰かが同じことを繰り返すのかもしれない。
その予感は、希望なのか、警告なのか、楓自身にも分からなかった。ただ、確かにそうかもしれないという感覚だけが、静かに胸の内に残った。
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王国中に散らばっていた魔道具の輝きが、遠い気配となって一斉に消えていくのが分かった。照明が消え、生活を支えていた仕組みが、次々と静まっていく。
繁栄を支えていた土台が、音もなく抜け落ちていくようだった。
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そして、楓は気づいてしまった。
光がどれほど強く世界を包んでも、すでに星脈へ還元されてしまった者たちには、届かない。あの最下層で、身体が淡く光に溶けかけていた人たち。反転の光が届く前に、その存在ごと消えてしまっていた誰かたち。
あの人たちは、戻らない。
その事実を、楓は静かに受け止めた。悲しみとも違う、重たい何かが胸の底に沈んでいった。
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それでも、世界そのものは崩れていない。
不自然なまでに整っていた繁栄が、少しずつ形を失っていくだけだった。魔法に頼らない、もっと静かで、当たり前だったはずの世界の輪郭が、その奥にうっすらと見え始めていた。
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光はまだ収まらなかった。楓の意識も、少しずつ薄れていく。
零司の気配、澪の気配、瑠奈の気配が、まだ近くにあった。それを頼りに、楓は光の中へと溶けていった。




