第95話 視線が、一瞬だけ
壁の術式の光は、まだ強さを増し続けていた。今にも何かが弾けそうな気配が、通路に満ちている。
先生が目を閉じた。零司の手を通して、力の流れが強まっていくのが分かった。澪、楓、瑠奈は警戒を解かないまま、それぞれの位置で先生を見守っていた。
セリオンは、動かなかった。ただそこに立ち、四人と先生を見ていた。
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先生の呼吸が、次第に深く、規則的になっていく。集中が高まっているのが、傍にいる零司にも伝わってきた。
壁の術式が、さらに強い光を放ち始めた瞬間があった。零司はその時、確かに感じた。
セリオンなら、今、止められたはずだった。
本気で阻もうとすれば、力ずくで発動を妨げることもできたはずだ。周囲の術式も、彼女の意のままに動くもののはずだった。
しかし、何も起こらなかった。
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零司はセリオンの方を見た。フードの奥の顔は、変わらず読み取れなかった。
ただ、一瞬だけ、その視線が先生の方を向いていた気がした。
何を思っての視線なのか、零司には分からなかった。長く見ていたわけでもない。錯覚だったのかもしれない。それでも、確かにそう見えた。
セリオンはすぐにまた、四人全体へと視線を戻した。それ以上、何の変化もなかった。
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「今……」
先生の唇から、短い呟きが漏れた。意識の奥で、何かが確かに動いているようだった。
遠くの気配が、少しずつ強くなっていく。5つの場所それぞれで、何かが呼応するように反応し始めているのが、零司にもわずかに伝わってきた。
先生の眉間に、深い皺が刻まれる。それでも、崩れなかった。
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長い沈黙の後、先生がゆっくりと目を開けた。
「準備が、整った」
かすれた声だった。それでも、確かな響きがあった。
セリオンは、まだそこに立っていた。動かないまま、何も言わないまま。




