第94話 変わりませんね
足音が、通路の角を曲がってこちらへ向かってくる。光の差す方向から、ゆっくりと人影が現れた。
フードの奥の顔は、あの日と変わらなかった。怒りも、動揺も見せない。ただ静かな、管理者の目がそこにあった。
「戻ってくるとは、思いませんでした」
セリオンの声は、感情の起伏を感じさせなかった。四人と、その中心で身体を支えられている先生を、順に見渡す。
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「その方の役割は、まだ終わっていません」
セリオンは先生に視線を止めて言った。抑揚のない声だからこそ、その言葉は重く四人の耳に残った。
「戻りなさい」
短く、それだけを繰り返す。優しくもなく、厳しくもない。ただ事実を述べるような口調だった。
周囲の壁に刻まれた術式が、わずかに光を帯び始めた。澪がすぐに結界を構え、瑠奈と楓もそれぞれ身構える。
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零司は先生を庇うように、一歩前に出た。
「渡すつもりは、ありません」
セリオンはしばらく零司を見つめた。それから、静かに口を開いた。
「変わりませんね」
以前と同じ言葉だった。あの塔の上層で聞いた響きと、寸分違わなかった。
「変わりません」
零司も同じ言葉を返した。しかし、今度は違う。隣には先生がいる。先生自身の意志が、そこに加わっていた。
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先生が、零司の腕に支えられながら顔を上げた。息はまだ整っていなかったが、目には力があった。
「セリオン」
掠れた声で、先生はセリオンの名を呼んだ。
「適性者としての役割は、拒否します。私は、この子たちと一緒に、元の世界へ帰ります」
一語一語、確かめるように紡がれた言葉だった。
セリオンの表情に、わずかな揺らぎが差した。完全な無表情ではなくなった、その程度の変化だった。
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沈黙が落ちた。壁の術式の光が、少しずつ強さを増していく。今にも何かが起こりそうな気配が、通路全体に張り詰めていた。
セリオンは何も言わず、ただそこに立ち続けていた。




