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星脈のほとりで、俺たちは気づいた  作者: pokupi
第4章:「還る場所、還らないもの」
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第89話 零司くんは

 先生の体調はまだ本調子ではなかった。隠れ家での滞在が続く中、三人はまた自然な流れで席を外していった。今度は誰も言葉を交わさなかった。それでいいのだと、皆が分かっているようだった。


 ⸻


 先生は膝を揃えて座り、しばらく黙っていた。それから、先に口を開いたのは先生の方だった。

「今日は……」

 言いかけて、少し言葉に詰まる。それでも前回とは違い、視線はまっすぐ零司に向いていた。

「無理、してませんか」って、前に零司くんが聞いてくれたでしょう。今度は、私から聞いてもいい?」

 零司は少し驚いた。「大丈夫です」

「そう」

 先生は小さく頷いた。手の震えはまだ残っていたが、視線の逃げ方が前回とは違って見えた。


 ⸻


「零司くんは、大学で何を勉強してるの」

 唐突な問いに、零司は戸惑いながらも答えた。文系の学部にいること、特にこれといって熱心な分野もないこと。話しながら、こんな話をするのは久しぶりだと思った。

「読書が好きだったわよね。講義中も、たまに本を読んでたでしょう」

「見られてたんですか」

「後ろの席、よく見えるのよ」

 先生が小さく笑った。零司もつられて口元が緩む。

 会話は途切れながらも、少しずつ続いた。先生の趣味、零司の好きな本、他愛のない話が積み重なっていく。


 ⸻


 ふと、先生が呟いた。

「私、今、先生としてじゃなくて……零司くんと、話してる気がする」

 零司は目を上げた。先生はどこか照れくさそうに、視線を少し逸らしていた。

「変なこと言った?」

「いえ」

 零司は首を振った。肩の力が、少しだけ抜けていくのが分かった。長く息を吐く。


 ⸻


 灯りが落ちた。

 前回よりも、静かな時間だった。


 ⸻


 事後、二人はしばらく並んで横になっていた。沈黙は続いていたが、前回よりも柔らかい沈黙だった。

 視界の端にステータス表示はまだ浮かばなかった。零司はそれを気にしながらも、今はそれでいいような気がした。

「零司くん」

 先生が小さく呼んだ。

「なんですか」

「……ありがとう」

 それだけ言って、先生は目を閉じた。

 零司はしばらくその横顔を見つめていた。先生としてではなく、一人の人として、今その姿を見ている自分に気づいた。

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