第08話 二階堂澪
今日もダンジョンへ向かう。
隣には楓。少し後ろには瑠奈。三人で行動するようになって、1か月が経った。
最初の頃は、何もかもが怖かった。魔物。ダンジョン。自分の知らない世界。毎日が現実とは思えなかった。それでも少しずつ慣れてきた。最初は剣を持つ手が震えていたのに、今では魔物と向き合えるようになっている。
訓練場へ向かう途中、同じ召喚者の男子学生が声を掛けてきた。
「二階堂さんって、本当に落ち着いてるよね。さすが元委員長だな」
隣にいた女子学生も頷く。「こういう時、頼りになるよね」
そんな言葉を掛けられることが増えていた。
昔からそうだった。クラス委員をやっていたから。困っている人がいたら助ける。誰かが困らないようにする。それが当たり前だと思っていた。
だが剣を握るたびに、手の内側が少しだけ冷たくなる。夜、部屋に戻ってから天井を見つめることもある。元の世界に戻れるのか。このまま帰れなかったらどうなるのか。考え始めると止まらない。
それでも。
「大丈夫」
気づけばそう言っている。自分でも不思議だった。私が不安そうにしたら、周りも不安になる。だから前に立つ。それだけだった。
ダンジョンの入口に着いた時、少し離れた場所に人影が見えた。
九十九くんだった。
一人でダンジョンから出てくる。最初に見た時もそうだった。誰にも頼らず、一人で。
口を開きかけて、止めた。同じクラスだったけれど、ほとんど話したことはない。人付き合いが苦手なのも知っていた。
私たちには三人いる。それでも彼は一人だった。
「澪さん?」
楓の声で視線を戻す。
「どうしたの?」
「ううん、なんでもない」
歩き出しながら、前だけを見た。
助けられる人数には限界がある。全員を救うなんて無理だ。最初、私は瑠奈と一緒にいるだけで精一杯だった。幼馴染で、昔から知っている。彼女を守る。それだけで十分だと思っていた。
だけど楓を見た時、気づいたら声を掛けていた。
「助けなきゃ」と思ったからじゃない。そんな大げさなものじゃなかった。ただ、声を掛けなかったら後悔すると思った。
それだけだった。




