第09話 三上瑠奈
今日もダンジョンへ向かう。
先頭には澪ちゃん。隣には楓ちゃん。いつもの三人だった。
召喚されてから1か月。最初は何もできなかった私たちは、少しずつ慣れてきていた。新しい魔法も覚えた。前よりずっと強くなっている。……たぶん。
「今日は順調に進めそうね」
澪ちゃんが前を見ながら言う。私は杖を握り直して頷いた。
ダンジョンの通路を進むと、前方に魔物が現れた。二体。
澪ちゃんが剣を抜く。一歩踏み込んで一体目を斬り倒し、そのまま二体目へ向かう。
早い。
「すごい!」
楓ちゃんが声を上げる。私は前を向いたまま、杖を握る手に少しだけ力を込めた。
その後も戦闘は続いた。澪ちゃんが前衛、私が後衛、楓ちゃんが補助。理想的な連携だ。それでも魔物を倒すたびに「澪さんすごい」「助かった」という声が聞こえてくる。
次の角を曲がった瞬間、魔物が現れた。
考えるより先に杖を構えていた。火の魔法が直撃する。爆ぜる炎。魔物は近づくことすらできずに倒れた。
「おおっ!」
楓ちゃんが目を丸くする。私は無言で前を向いた。でも口元が緩んでいるのは自分でも分かった。
次の戦闘も魔法。さらに次も魔法。魔物が見えたら先に撃つ。気づけば澪ちゃんより先に動いていた。
「瑠奈」
振り返ると澪ちゃんが困った顔をしていた。
「魔力、大丈夫?」
「大丈夫」
「飛ばしすぎじゃない?」
「だって倒せるし」
「瑠奈さん、もしかして張り合ってる?」
楓ちゃんの声に、足が止まった。
「違う」
「今日すごく頑張ってるもん」
「いつも頑張ってるし」
「じゃあやっぱり張り合ってるんだ」
言葉が出なかった。耳の先が熱くなる。
「……澪ちゃんばっかり活躍してるから」
口から漏れた瞬間、しまったと思った。
沈黙。
それから楓ちゃんが吹き出して、澪ちゃんも小さく笑った。
「別に競争じゃないでしょ」
「分かってる」
私はそっぽを向く。分かっている。三人で生き残ることの方が大事だ。誰が何体倒したかなんて関係ない。
それでも負けたくないと思ってしまう。昔から負けず嫌いだった。テストも、何でも負けるのは嫌だった。
「瑠奈ちゃんらしいね」
「らしくない」
「らしいよ」と澪ちゃんまで言う。
私は頬を膨らませた。でも二人が笑っているのを見ていると、杖を握る手から少しだけ力が抜けた。
「次は私が倒すからね」
二人がまた笑う。
私はもう前を向いていた。




