第82話 教育者として、それは
沈黙がどれだけ続いたか、澪にはもう分からなくなっていた。膝の上で組んだ指をほどき、もう一度組み直す。それから、顔を上げた。
「先生」
声が思ったより硬くなった。楓と瑠奈が、同時にこちらを見る。零司も顔を上げ、澪の横顔を見つめた。
「零司くんのハーレムメンバーになれば……体力魔力共有のスキルで、力を分けてもらえるんです」
一息に言い切ろうとして、途中で声が震えた。それでも澪は、目を逸らさなかった。
「今の先生の状態、少しでも楽になるなら……そうした方がいいと思って」
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先生の表情から、色が抜け落ちた。
しばらく、誰も何も言わなかった。先生の唇が動きかけて、また閉じる。それを、何度か繰り返した。
「それは……」
声が掠れている。続きが出てこない。
頬に一気に血が上るのが、離れた位置からでも分かった。視線が澪から零司へ、そして床へと定まらず動く。膝の上の袖の端を、先生の指がきつく握りしめていた。
「教育者として、それは……できない」
ようやく絞り出された声は、小さく震えていた。断言のはずなのに、力がこもっていなかった。
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澪は何か言い返そうと口を開きかけたが、先生のあまりの動揺ぶりに、言葉が喉の奥で止まった。
楓が小さく息を吸い、何か言おうとする素振りを見せたが、先生の様子を見てすぐに口を閉じた。
瑠奈が「先生、あの……」と軽い調子で切り出そうとしたが、続く言葉が見つからず、そのまま尻すぼみに黙り込んだ。
零司は俯いたまま、拳を強く握っていた。自分の職業のせいで、この状況が生まれている。誰も口にしなかったが、その事実だけが部屋の中に重く沈んでいた。
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先生は両手で顔を覆った。指の隙間から、耳の先まで赤くなっているのが見えた。
「少し……時間を、ちょうだい」
くぐもった声だった。それきり、先生は何も言わなくなった。
誰も動けないまま、部屋の空気だけが張り詰めていく。板戸の隙間から差し込む光が、わずかに白さを増していた。




