第80話 誰かに言われたわけじゃなくて
「他には」
先生の問いが、狭い部屋の空気を重くした。澪は零司たちの方へ視線を向けた。零司が居心地悪そうに身じろぎする。
「少し、外してもらっていい?」
澪の声に、零司は一瞬戸惑った顔を見せたが、すぐに頷いた。楓と瑠奈も立ち上がり、三人で扉の方へ歩いていく。零司が最後に振り返りかけて、しかし何も言わずに外へ出た。
板戸が軋みながら閉まる。足音が離れていき、やがて聞こえなくなった。
澪は居住まいを正し、先生と向き合った。狭い部屋に、二人分の呼吸だけが残る。
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「零司くんの、職業のことなんですけど」
言い出してから、澪は一度言葉を切った。膝の上で指を組み直す。
「あの子の職業、ハーレム王っていうんです」
口にした瞬間、頬に熱が上がるのが自分でも分かった。視線が一瞬、床の木目を追う。
先生は何も言わず、続きを待っていた。
「スキルポイントは……女の人と、関係を持つことでしか、手に入らないみたいで」
澪の声が小さくなる。
「レベル譲渡っていうスキルもあって。条件が揃うと、私たちのレベルが上がって、代わりに零司くんのレベルが下がるんです」
先生の眉がわずかに寄った。何かを飲み込もうとするように、喉が動く。
「それと、ハーレムメンバーっていう登録があって。登録されると、お互いの能力が上がるみたいで……」
澪はそこまで言って、口を閉じた。それ以上の詳しい仕組みは、自分でもまだ整理しきれていなかった。
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先生はしばらく黙っていた。視線が澪の顔から、閉じた扉の方へ、また澪へと戻る。
「そんな、職業が……」
掠れた声だった。それきり、先生は続きを言えなかった。
澪は先生の反応を見ながら、次の言葉を探した。指先が膝の布を握る。
「それで、私たち……」
言葉が途切れる。もう一度、息を吸い直した。
「楓が、最初に。零司くんの力になりたいって、手伝い始めて」
視線が下がる。
「私も、瑠奈も……誰かに言われたわけじゃなくて。自分で、そうしようって決めました」
言い終えると、澪は俯いた。頬の熱はまだ引いていなかった。
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先生は何も言わなかった。視線を落とし、何かを噛みしめるように、しばらく動かなかった。
「二階堂さんたちが、そこまで……」
言いかけて、続きが出てこない。先生の指先が、膝の上で小さく丸まった。
澪はその沈黙を、急かさずに待った。扉の外で、誰かが身じろぎする気配がした。零司たちがまだそこにいる。
先生が小さく息を吐いた。目を閉じ、しばらくそのままでいた。
澪は先生の横顔を見つめながら、扉の向こうの気配に意識を向けた。




