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星脈のほとりで、俺たちは気づいた  作者: pokupi
第4章:「還る場所、還らないもの」
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第79話 覚えている限り

 先生の瞼が震えるように開いた。視線がしばらく天井をさまよってから、傍にいる澪に焦点を結んだ。

「二階堂、さん……」

 掠れた声だった。先生は肘をついて身体を起こそうとした。その動きに気づいた楓がすぐに肩へ手を添える。

「まだ、寝てて」

 先生は一瞬だけ抵抗するように力を込めたが、すぐに緩んだ。楓の手に体重を預けたまま、上体だけをわずかに壁へ寄りかからせる。

 瑠奈が水筒を差し出すと、先生は震える手で受け取り、口をつけた。喉が上下に動く。飲み終えると、水筒を膝の上に置いたまま、四人の顔を順に見た。

「ここは……何が、あったの」

 問いに、澪は一瞬言葉を探すように視線を下げた。拳が膝の上で固く握られる。楓と瑠奈が目配せを交わし、それから小さく頷いた。話す役目は、澪に委ねられていた。


 ⸻


 澪は息を吸ってから、口を開いた。

「私たち、召喚されてから……ずっと、旅をしてきました」

 ルーヴェ村でのダンジョン攻略、レベルを上げ続けた日々。アルヴェナへの転送、そこで感じた違和感の数々。声は最初、淡々としていた。事実を並べるように、順を追って話していく。

 先生は時折、小さく相槌を打った。目は澪の顔から離れなかった。

「王都に来て、儀式があって……」

 そこまで言って、澪の声が一段低くなった。

「5つの村と、王都を結ぶと、五芒星になるって、気づいたんです」

 先生の喉がかすかに動いた。何か言おうとして、しかし言葉にならなかったのか、唇だけが薄く開いて閉じた。

「それだけじゃなくて……」

 澪は一度、俯いた。指先が震えている。

「何か、あった気がするのに、思い出せないことが、何度もあって」


 ⸻


 言葉を選ぶように、澪はゆっくりと続けた。

「魔物に囲まれたはずなのに、どうやって助かったのか思い出せなかったり……消えた人の噂を聞いたはずなのに、次の日には誰も覚えてなかったり」

 零司は少し離れた場所で、その光景を見ていた。何も言わず、拳を握ったまま床の一点を見つめている。

「安全管理機構も、変なんです。襲われかけたときは、ちゃんと発動して……相手は、消えました」

 澪の声がわずかに硬くなった。誰だったか、思い出そうとして、うまく像を結ばない。

「でも、村人に絡まれたときは、どうなるんだろうって。同じ攻撃行動でも、対象が違うだけで発動するのかどうか、分からなくて」

 言葉を選びながら、澪は続けた。

「そこまで考えて……これ、私たちを守るためのものじゃなくて、縛るためのものなんじゃないかって、思ったんです」

 先生の目が大きく見開かれた。息を呑む音が、静かな部屋の中でやけにはっきりと聞こえた。

「そんな……」

 声が途中で途切れる。先生の視線が澪から離れ、床の上をさまよった。何かを整理しようとするように、眉間に深い皺が刻まれる。


 ⸻


「私が、ここに囚われている間に……」

 先生の呟きは、誰に向けたものでもないようだった。指先が澪の方へ伸びかけたが、力が入らず、途中で止まる。

 澪はその手を見て、自分の手を伸ばした。二人の指先が、かすかに触れた。

 先生は何かを言いかけて、口を閉じた。目を伏せ、しばらく動かなかった。

 沈黙が続く。楓が何か言おうとして息を吸ったが、結局何も言わずに視線を落とした。零司はその横顔を見て、まだ何かが残っていることに気づいたようだった。

 先生がゆっくりと顔を上げ、四人を順に見た。

「他には」

 短い問いだった。声はまだ掠れていたが、その目には、逃げるつもりのない強さが戻り始めていた。

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