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星脈のほとりで、俺たちは気づいた  作者: pokupi
第3章:「星冠の塔にて」
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第75話 一人のためじゃない

 セリオンが戻りましょうと言った。

 澪は動かなかった。

「先生をどうするつもりですか」

 セリオンが澪を見た。

「……誰のことですか」

「塔の最上階にいた女性です」

 セリオンは少し間を置いた。

「ああ、増幅適性者のことですか」

 その言い方が、澪の胸に刺さった。名前も知らなかった。どんな人間かも関係なかった。ただ増幅適性者という役割だけが、セリオンにとっての全てだった。


 ⸻


「あの者は増幅適性者です」

 セリオンは淡々と続けた。

「召喚の効率を格段に上げる、非常に稀な存在です。そう簡単には見つかりません。手放すつもりはありません」

「あの人は私たちの先生です」

 澪が言った。感情を抑えていた。でも声が少し震えた。

「……それが何か」

 セリオンの言葉は静かだった。責めていなかった。ただ、事実として答えていた。

 澪は唇を噛んだ。


 ⸻


「先生を返してください」

 楓が言った。声が震えていた。でも目は真っ直ぐセリオンを見ていた。

「あの方がここにいる理由はありません。私たちが連れて帰ります」

 セリオンは楓を見た。何も言わなかった。

「あの人はずっとあそこにいたんでしょ」

 瑠奈が前に出た。

「どのくらいの時間、あそこにいたの。それでもまだ続けるつもりなの」

「世界が続く限り、そうあり続けます」

 セリオンの声は変わらなかった。

「星脈機関が止まれば魔法が失われます。魔道具が動かなくなります。人々の生活が崩壊します。一人のために、それを止めることはできません」

「一人のためじゃない」

 澪が言った。

「あそこにいた人たち全員のためです。私たちのためでもある」

 セリオンは澪を見た。少しの間、沈黙が続いた。

「あなたたちの気持ちは理解します」

 セリオンが言った。

「でも世界の維持と、一人の命を天秤にかけることはできません。それが私の役割です」


 ⸻


 通路に沈黙が落ちた。

 セリオンは動かなかった。四人の前に静かに立ちはだかっていた。怒りも動揺もなかった。ただ管理者として、世界を維持するために立っていた。

 四人も動かなかった。

「私たちは引きません」

 澪が言った。

「……そうですか」

 セリオンが答えた。

 零司が一歩前に出た。

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