第73話 あなたたちが初めてではありません
警報が鳴り続けていた。
壁の術式が赤く点滅していた。足音が通路に響いた。楓がマッピングを展開しながら走った。澪が後方の気配を探りながら続いた。瑠奈が魔力の流れを確認しながら前へ進んだ。
「出口はどっちですか」
「確認中です」
楓の声が緊張していた。通路が分岐した。どちらへ向かえばいいか分からなかった。
「こっちの方が魔力の流れが薄い」
瑠奈が左を指差した。四人は左へ曲がった。
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通路の先に、人影があった。
足が止まった。
フードを目深に被った神官服の女だった。動かなかった。ただそこに立っていた。
零司は息を呑んだ。
召喚された日に、先生を連れ去った人物だった。あの日の神殿で、先生に近づいてきたフードの女。セリオンだった。
警報が鳴り続けていた。でもセリオンは急いでいなかった。焦っていなかった。ただ四人を見ていた。
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フードの下から覗く目が、零司を見ていた。
怒っていなかった。動揺していなかった。ただ、淡々としていた。状況を確認しているような目だった。管理者が記録を確認するときのような、感情のない目だった。
その表情が、怒鳴られるより怖かった。
零司はセリオンの目を見ながら、じわりと気づいた。
追いかけてこない。警報が鳴っているのに、急いでいない。まるで、こうなることが分かっていたかのようだった。
泳がされていた。
そうではないかもしれなかった。でもこの余裕は、初めて見る光景ではない者の余裕だった。
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セリオンが口を開いた。
「見てしまいましたか」
静かな声だった。責めていなかった。確認しているだけだった。
零司は答えなかった。
セリオンは続けた。
「あなたたちが初めてではありません」
その一言が、通路に落ちた。
過去にも、同じように真実に気づいた者がいた。それでもセリオンはここに立っている。この施設は動き続けている。つまり、過去に気づいた者たちは、ここから逃げられなかった。
零司は四人の中でそれを理解した。
セリオンは動かなかった。追いかけてこなかった。ただそこに立って、四人を見ていた。
逃げられないと、知っているから。




