第06話 回想(その2)
あの後。
俺たちは神殿の一室へ案内された。
白い石造りの壁。高い天井。壁には見たこともない文字や紋様が刻まれている。広い部屋だった。異世界に来たという現実が、少しずつ実感へ変わっていった。
「まずは、この世界での生活について説明します」
そう言ったのは、最初に俺たちの前に立った神官だった。セリオンではない。彼女は先生とともに、すでにここを離れたらしい。
神官は淡々と続ける。ここは聖王国ルクシア。この世界には魔物が存在し、神殿地下にもダンジョンが発生していること。
「皆様には、まずこのダンジョンで力を身につけてもらいます」
また、その言葉だった。戦ってほしい。この世界のために。
「俺たちは元の世界に帰れないのか?」
誰かが口を開いた。部屋の空気が重くなる。
神官は少し間を置いて答えた。「現時点では、召喚の力を再び使用することはできません。ですが……皆様が成長し、この世界の危機を乗り越えることができれば」
そこで言葉を濁した。
帰れる、とは言っていない。でも可能性があるようにも聞こえる。その曖昧な言い方が、頭の隅に引っかかった。
次に説明されたのは、俺たちの力についてだった。
「ステータスと念じてみてください」
言われるまま意識すると、目の前に光が浮かぶ。名前。レベル。職業。状態。スキル。職業特性。まるでゲームのシステムそのものだった。
「本当にある……」「すごい……」
驚きの声が広がる。
「俺、闘士だった!」
「私は呪術師! なにそれ」
「踊り子……戦えるの、これ?」
「魔剣士? かっこよくない?」
次々と声が上がる。召喚された不安よりも、自分に与えられた力への興味が勝っているようだった。
俺も周囲の声に耳を傾ける。
「召喚士?」
(……ラノベでよく見る職業だな)
「精霊使い」
(これもよく出てくる)
「剣豪」
(強そうだが、やっぱりラノベっぽい)
そして――自分の職業を思い出す。
ハーレム王。
(……なんなんだこれは)
気になって神官に聞いてみた。
「職業って、変わったりしますか。レベルが上がれば進化とか」
神官は首を振った。
「職業は召喚時に決定されます。変化することも、進化することもありません」
「一生このままってことですか」
「はい」
あっさりした答えだった。
(……一生、ハーレム王か)
思わずため息が漏れそうになった。
職業とは何を基準に決まっているんだ。本人の性格か。才能か。それとも召喚された時点で、何かに選別されているのか。
確かに興奮していた。こんな力が本当に存在するなんて。だが同時に、説明が出来すぎているという違和感もあった。まるで最初から、俺たちがここへ来ることを想定していたみたいだった。
「これは魔導デバイスです」
渡されたのは、手のひらサイズの黒い板だった。触れると淡い光が浮かび上がる。ステータス確認、通話、メッセージ、生活魔法の行使。機能だけ見れば、スマホに近い。
「仲間同士で能力を確認し、不足している部分を補い合ってください」
「ステータス見せられるのか」「ゲームそのものじゃん」
皆が興味深そうに操作している。俺も画面を見た。確かに便利だ。だが引っかかる。レベル、能力値、スキル、職業。普通なら簡単に他人へ見せるものじゃない。弱点まで全部公開するようなものだ。協力のためと言われれば理解はできる。でも。
その後、神殿の外へ案内された。召喚者専用の居住区。個別の部屋、食堂、訓練施設。必要なものはほとんど揃っている。
「本当にゲームみたいだな……」
誰かが呟いた。
ゲームなら、誰がプレイヤーなんだ。俺たちは本当に勇者なのか。それとも――何かのために用意された存在なのか。
その時はまだ、答えが分からなかった。
ただ一つだけ。この世界は、俺たちが思っているよりずっと計画的に動いている。そんな気がしていた。




